第11話 3年A組
犬がいた。
転送先の運動場に、でかくて白い犬がいる。
何かで見た記憶がある。
断片的な記憶がまた思い出される。
ロシア原産の超大型犬。確か名前はボルゾイだ。
昔は、オオカミ狩りの猟犬としてロシアの貴族に飼われており、旧称はロシアン・ウルフハウンドだったはずだ。
体が流線型で顔が細く、豊かな被毛も相まって美しい佇まいをしている。
犬は
動くと襲って来そうで動けない。
まさかこの犬が三年A組のメンバーなんだろうか。
「ハイドっ」
ルカの声が聞こえた。
振り向くと携帯を持ったルカが十メートルほど先に立っている。
そこへハイドと呼ばれた白い犬が走って行く。
早い。
すごいスピードだ。
ルカの足元で急停止して、伏せるように座った。
「よしっ」
ルカはハイドの頭を撫でて水着の胸のところから何かを取り出す。
干し肉だろうか。
それをハイドに渡すと嬉しそうに食べ始めた。
「あの、ルカさん。その犬、三年A組の方ですか?」
恐る恐る訪ねると、ルカが
「そんな訳ないだろう。ハイドはボクがポイントで獲得したパートナーだ」
「で、ですよね」
ポイントで犬も交換出来るのか。
「まだハイドは戦闘に慣れてないからな。特訓イベントで訓練させているんだ」
「な、なるほど」
しかし、強そうな犬だ。
現時点で自分より強いんじゃないだろうか。
教室ではいなかったということは、こっちに来てから携帯で呼び出したのか。
あらためて運動場を見る。
かなり広い。
石灰で描かれているのか、グラウンドには楕円形の線が引かれてあり、中央に無数のカカシが並んでいる。
その側に木で出来た棚があり、剣や斧などの武器が吊るしてある。
ざっと見ただけで、武器は20種類くらいありそうだ。
「ハイド、ゴー!」
ルカの声でカカシに向かってハイドが飛ぶ。
首に噛み付くとカカシの首が一発でふっ飛んだ。
怖い。犬怖い。記憶はないが、きっと自分は猫派だったのだろう。
「A組の人は来てないんですか?」
「しらない。まあ、元々A組はエリートクラスだからな。訓練イベントにはあまり来ないな」
ハイドの頭を撫でながら答えてくれる。
ルカはハイドの口からぶら下がっているカカシの頭を取ると遠くに放り投げた。
ハイドはそれを追いかけて空中で噛みつきキャッチする。ものすげえ。
「エリートクラスというのは?」
「レベルを上げたらB組からA組にポイントで編入できる。A組は稼げるポイントは多くなるがそのぶんリスクも高い。かなり強敵のミッションもあるみたいだしな」
多くのポイントを稼げる、か。
これでA組の者が自分を呼び出した確率が跳ね上がる。
「A組は何人くらいいるんですか?」
「さあ、前の合同ミッションの時は七人くらいだったかな。それで全員とは限らないし、死んで減ってるかもしれない」
ハイドが再びカカシの頭を持ってくる。
ルカはそれを受け取るとまた遠くに投げ、ハイドがそれを追う。
「クラスはAとBの二つだけ?」
「色々聞いてくるな。何を探っているんだい?」
どきりと心臓が跳ねる。
「い、いや。ここで生き残るために少しでも情報を得ようと」
「ふーん」
じっくりと此方を見てくる。
「君は今までに来た人達とどこか違うな」
ハイドが戻ってくるが今度はカカシの頭を取り上げない。
ルカの足元で座って待機している。
沈黙が流れる。
「まあいいか、ボクの邪魔しないのなら」
ルカはカカシの頭をハイドから取ると足元に置く。
「邪魔したら潰すけどね」
ルカがカカシの頭を思い切り踏み潰す。
ぱんっ、と破裂音がして、カカシの頭が弾け飛んだ。
やばい。この子、犬より怖い。
「そうそう、確かな情報じゃないけどA組の上にS組ってのもあるらしい」
S組。
確かノートにも載っていた気がする。
「そこで出てくる最大のミッションをクリアしたらみんな帰れるとか、ま、噂だけどね。S組とか見たことないし」
S組はあるかもしれないが、クリアの情報は嘘だ。
クリアの条件は俺が死ぬことなんだから。
「色々ありがとう」
ルカから離れる。
彼女が自分を呼び出したかどうかはわからない。
だがあまり話すのは危険かもしれない。
ずいぶん勘が良さそうだ。
ルカから離れ特訓をすることにした。
A組と会えなかったのは残念だが、重要な情報を
多くの武器から弓を選ぶ。
カカシに向かって矢を引くが、あさっての方向に飛んでいく。
何回かカカシを狙って弓を引くが、カスリもしない。
初期装備に選ばなくて良かった。
次の武器を選ぼう。
カカシの前を通り過ぎて武器の棚に向かう。
その時。
ぼんっ、という爆発音と共に、通り過ぎたばかりのカカシが砕け散った。
頭の部分が跡形もなく消えている。
シュウがボスゴブリンに狙撃された場面がフラッシュバックした。
ルカが何かで狙撃したのか。
ルカがいる方向を見る。
ハイドの背中を抑えて屈んでいる。
武器は持ってない。
違うのか。
運動場全体を見渡す。
いた。
運動場の隅。
バスケットのゴールの上に人が立っている。
あそこから狙撃したのだろうか。
手にライフル銃のようなものを持っている。
「A組のクリスだ」
ルカがハイドと共に近寄ってきた。
そばにいるハイドの毛が逆立っている。
「気をつけたほうがいい。変人だ」
バスケットゴールからクリスが飛び降りる。
結構な高さだが着地の瞬間、ふわりとスピードが緩んで簡単に着地する。
装備によるスキルだろうか。ちょっとカッコいい。
クリスはゆっくりとこちらに近づいてくる。
迷彩服に長いライフル銃。
スナイパーなんだろうか。
顔にも迷彩ペイントをしている。
年は二十代の後半くらいだろうか。
口元に整った髭。
背筋をピンと伸ばしコツコツと規則正しく歩いてくる。
渋いダンディなおじ様。
それがクリスの第一印象だった。
「はーい」
予想と違う甲高い声でクリスが手を振る。
「お久しぶりね、ルカちゃん。そちらの坊やは新人?」
クリスが俺の顔を舐めるように見る。
「可愛いわねえ、食べたいちゃいわぁ」
初めて見るA組の人物はオカマスナイパーだった。
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