四月二日 特訓イベント

第8話 サイドC アイ

 

 身体中についた血の匂いを洗い流す。

 シュンの血。

 まったくあのホスト男。

 思ったより役に立たなかった。


「簡単に死にやがって」


 口の中にシャワーの水を溜めて吐き出す。

 予定外に早く、みつぐ男を失った。

 次のカモを見つけなければいけない。


 しかし、今日来た転校生。

 魅了みりょうのスキルが効かなかった。

 ボスゴブリンを簡単に倒したところをみると、なんらかのスキルを持っているのは間違いない。

 ルカの鑑定でも見れなかったということはスキルをキャンセルできるスキルだろうか。

 なかなかレアなスキルのようだ。

 自力で落としてなんとか味方に引き込みたい。


 血の付いたセーラー服を洗う。

 乾くまでは下着姿で過ごす羽目になるが、まあいいだろう。

 上手くいけばあの童貞くさい転校生を落とすのに役立つかもしれない。


 シャワーが終わってベッドに向かう。

 タオルは一枚しかないが使ってしまおう。

 童貞はティシュで拭けばいい。


 携帯を起動させ、ポイント交換をタップする。


 アイ レベル3


 ポイント 347P


 今まで食料もすべてシュンからもらっていたのでポイントはずいぶん貯まっている。

 しかし、明日からの分は自分で出すしかない。


「ちっ、今回、プラマイゼロかよ」


 ポイントで『食料一週間分B』を購入する。

 337Pに減る。

 絶対安全な装備を揃えるまでまだまだ足りない。

 それまでは男を利用して生き残る。

 そうやって今まで生きて来た。

 その生き方しか、うちは知らない。


 最初、ここへ来た時のことを思い出す。


 デブで見るからにオタクな男と共に、一ヶ月前にここに来た。

 コスプレキャバクラのセーラー服衣装のままでだ。

 デブオタクは魔法少女のようなアニメキャラの描かれたシャツを着ていた。

 シュンとアリスが色々説明していたが、頭に入って来なかった。

 混乱したまま一日が過ぎミッションが始まる。


『オーク討伐ミッション』


 いまだにアイツらの醜い豚のような姿は夢に見る。

 ミッションは壊滅した村から始まった。


 新人のうちとデブオタクがなにもできずにあたふたしている中、アリスとルカは村にいるオークを討伐していく。

 その後ろを金魚の糞のようにシュンがついて行き、死に損ないのオークにとどめを刺していた。


「うっ」


 むせ返る血の匂いに吐きそうになる。

 いつの間にかメンバー達とはぐれて、デブオタクと二人になっていた。


「なんなんでしょうね、ここ。豚の化け物がいるし」


 お前も大概たいがいな豚だけどな。

 そう思うが言葉に出さない。

 ここに来てすぐに携帯をチェックしていた。

 ステータスの項目をタップし、自分の能力、そして個人スキルを見る。



 アイ レベル1


 HP 20

 攻撃 2

 守備 3

 速さ 7

 個人スキル 魅了

 装備スキル なし

 サブスキル なし


 魅了をタップすると


 相手を誘惑するスキル。

 対象を惚れさせて操る。

 

 と表示された。


「怖いです。何かあったら助けて下さいね」


「うっ、ういうい。僕、頑張りますですよ」


 早速、デブオタク相手に使ってみる。

 成功したようで、デブオタクは顔を赤らめ、うちの胸の辺りをジロジロと舐めるように見つめている。気持ち悪い。

 魅了がデブオタクに効くなら、似たようなオークが襲ってきてもなんとかなるんじゃないだろうか。

 その時は、そんなことを考えていた。

 今となっては、あの頃の甘ちゃんな自分を呪い殺してやりたい。



 廃屋(はいおく)の影から三匹のオークが現れ、うちらは囲まれた。

 豚の頭をした二足歩行のオークは、どいつも異臭のする汚い鎧と槍を装備していた。

 醜い。醜くすぎて再び吐き気がする。


「なんだぁ、やんのかぁ、コラぁ」


 デブオタクが初期装備で選んだハンマーを振り回す。

 しかし重くてスピードがでないのか、簡単にオークはそれを避ける。

 バランスを崩したデブオタクが、つまづいて仰向けに転がった。


 ぷすり、とオークがデブオタクの腹を槍でつく。


「あ」


 シャツに描かれた魔法少女が血に染まる。


「おまっ、これプレミアムのっ、よくもっ」


 ぷす、ぷす、と他の二匹も同じように槍を刺す。


「あっ、あっ」


 三本の槍が腹に刺さり、デブオタクの顔が歪む。


「ぐふ、ぐふ」


 嬉しそうにはしゃぐオーク達は槍を抜く。

 デブオタクの腹から血が噴き出た。


「あれ? ねえ、これってっ」


 デブオタクがこっちを見て血を吐く。


「もうだめぽ?」



 デブオタクが死んでからもオークは何回も槍を抜いたり刺したりして遊んでいた。

 うちは恐怖で動けないでいた。

 もし魅力のスキルが効かなければここでゲームオーバーだ。


 オーク達に向かって必死に色っぽいポーズをする。


 がしゃんと、オークが槍を落とす。

 続いて他の二匹も槍を手放した。

 魅了のスキルが効いたのか。

 三匹のオークは目がうつろだ。

 逃げるなら今だ。

 震える足をつねって逃げようとした。

 しかし、その時三匹のオークはいきなり覚醒したように襲ってきた。


「いや、いやぁあああああ」


 殺させると思った。

 だが殺されたほうがマシだと思うくらいの地獄がまっていた。



 アリスとルカがうちを助けに来るまでの間、穴という穴を犯された。

 身体中オークの精液でべったりだった。

 服はボロボロに引き裂かれ、下着も何処かに無くしてしまった。


「大丈夫? 後でシャワーを貸してあげるから」


 平然と言うアリスの言葉に胃がムカムカした。

 この世界ではこれは大した出来事ではないのだ。

 日常に起こりうることなのだ。


「いい、こっちの人に借りる」


 うちはシュンに魅了を使った。

 活かせる武器は使う。

 もう二度とあんなことはゴメンだ。

 どうしてこの世界に来たのかは分からない。

 だが来てしまったのなら、うちは自分の武器を最大限に利用してやる。



 ベッドに寝転がる。

 あの童貞転校生を落とすのが当面の目標だ。

 あいつには何かがある。

 次のミッションまでになんとかとりこにしてやりたい。


「見てろよ、うちは最後まで生き抜いてやる」


 目を閉じると、すぐに眠りに落ちそうになる。

 オークの夢を見ないことを願いながら、意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る