第7話 このゲーム作ったの俺でした
アイとの会話を終えると、疲れているのかひどい睡魔が襲ってきた。
教室の針は23時40分を指している。
もうすぐ四月一日が終わろうとしていた。
「アイさん、先に部屋に行って休んでて」
レディーファースト。
とりあえず最初は女性に譲る。
「大丈夫? 気にしなくて一緒に寝たらいいのに」
「いいよ、ここで仮眠してるから起きたら交代しよう」
アイはシュンの血をかなり浴びている。
早くシャワーも浴びたいだろう。
自分の席に戻ると、アイはロッカーを開けずにこっちを見ていた。
「どうしたの? いかないの?」
「ロッカーは外からは、本人しか開けれないの」
そうだったのか。
椅子から立ち上がりロッカーに向かおうとする。
「いてっ」
やはり疲れているようだ。ふらついた足が机に当たり、机の中からノートとゴブリンの玉がはみ出して落下する。
「おっと」
反射的にゴブリンの玉はキャッチできたがノートは床に落ちる。
ノートが開けて中が見える。
何かびっしりと文字が書いてある。
説明書か何かだろうか。
「アイさん、このノートは何が書いてあるのかな?」
ノートを拾って尋ねてみる。
「え? なんのノート? ポイントで交換したの?」
「いや最初から机に入ってたんだけど」
アイは知らないみたいだ。
全員に配られるノートではないのか。
パラパラとめくる。
ぞわりと背筋が凍りつく。
これはっ! このノートはっ!?
「どうしたの? 青い顔して。何のノートだったの?」
「い、いや。なんか昔書いた俺の日記みたいだ。黒歴史が詰まっていた」
これはそんなものより、はるかにヤバいものだ。
「え、マジで。ちょっと見たい。見せてっ」
「無理、絶対無理っ。ほらアイさん、早く休もう。行かないなら俺が休むよっ」
ロッカーを開けて、無理矢理アイを押し込もうとする。
「何、何? そんなに黒歴史なの? 厨二病なの? 見たい、見せてよーー」
「おやすみっ、また明日っ」
勢いよく扉を閉める。
そのままロッカーを背にもたれかかり、座り込んだ。
「はぁはぁ」
今までで一番、動揺している。自分の鼓動が激しくうるさいほどだ。
ノートを開く。
細かく。実に細かくノートに書かれていた。
この世界がどういう世界で。
どういうルールで動いているか。
ミッションの内容。
ポイント交換のリスト。
スキル。
裏設定。
イベント。
送られてくる転校生の数。
別のクラスの存在。
このノートは説明書ではない。
言うならば設定資料。
この世界を作る前に製作者が書いたノートだ。
そして記憶がない自分にもわかることがある。
ノートに書かれている文字。
この文字は。
「俺の字だ......」
頭の中が追いつかない。
どういうことだ。
このふざけたデスゲームの世界は、自分が作った世界なのか?
いや、自分の妄想した世界を神様が作ったのか?
どちらにせよ、どうしてその世界に自分が来たのか?
何故、自分に記憶がないのか考えてなかった。
自分の記憶を誰かが奪ったのだろうか。
いやもしかしたら自ら記憶を無くしたのか?
何のために?
自分の作ったゲームを自分で楽しむために?
頭を抱える。考えがまとまらない。
「楽しめるかっ! こんなゲームっ!」
ノートを床に投げつけた。
わけがわからない。
自分がこのゲームを作ったとしたら、なぜ記憶を無くしてそこに送り込まれたのか。
そしてそれならなぜそれがわかってしまうノートを残しているのか。
ノートを拾ってもう一度見る。
どこかに答えが乗ってないか。
調べる。
大学ノートに書かれている細かい設定。
マップ。
意味のない落書き。
文字が汚くて読みにくい。
もっと丁寧に書けよっ、俺っ。
そして最後のページ。
殴り書きで、ものすごく汚い字でこう書かれていた。
『このノートは四月一日が終わると消える』
慌てて黒板の上の時計を見る。
あと一分で今日が終わる。
パニックになる。
たぶんこのノートは生命線だ。
記憶を失う前の自分がどうにかして持ってきた物だろう。
どうして最初に見なかったのか。
馬鹿な自分を殴りたくなる。
「そうだっ、携帯!?」
写真の機能があればすべて写せるかもしれない。
アプリを見る。
そんな機能はついていない。
「うわああああああ」
思わず叫ぶ。
ノートに。
何かノートに書いてあるはずだ。
どうしてこの状況になったか。
自分が何者なのか。
そのすべてが。
色んなことが書かれているが頭に入らない。バラバラとノートを必死でめくる。
しかし、一点。
ポイント交換リストの最後の項目。
そこに書かれている異様な内容に目が止まる。
『この世界を作った神様をただの人間にしてこのゲームに送り込む 10000P』
言葉を失う。
さらに下に説明書きがある。
『有効期限 ポイントを使った者が死亡するまで。神様が先に死ねばゲームクリア』
キーンコーンカーンコーン
スピーカーからチャイムが鳴り、黒板の方を見る。
黒板の四月一日の文字が消えて四月二日に変わる。
同時に手の中のノートが消えてなくなった。
「......このゲームを作ったのが、俺、なのか?」
信じられない。
断片的な記憶がある。
教室で目立たない存在。
ただのモブ。
そんな記憶は、後から作られたものなのか?
一つわかったのは、誰かがポイントで自分をここに送り込んだという事。
そして、その誰かが死なない限り自分は戻れないということだ。
デスゲームで起こる神様と神様を殺す者の戦い。
「そんな馬鹿な」
あまりに現実味のない展開に思わずそう呟いた。
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