第9話 それぞれの朝食

 

 ロッカーが開く音がして目が覚める。

いつのまにか椅子に座って寝ていたようだ。


「ごめん、けっこう寝ちゃった」


 ロッカーから下着姿のアイが出てきて、慌てて目を逸らす。

 時計を見ると朝の6時になっていた。

 教室の外が明るくなってきている。


「ふ、服の替えはないの?」


「5ポイントで最初に着ていた初期装備が貰えるけど、うちあまりポイントないから」


 アイが恥ずかしそうに両手で下着を隠す。

 右の太ももに黒いベルトが巻いてありナイフが装備されていた。

 白い下着がなまめかしい。


「部屋で乾かしてもらってるから、少しだけ我慢しとく」


「そ、そう」


 普通ならここで自分の着ている服をあげるところだが、貴重なポイントは人のために使えない。


「部屋で休んできます」


 逃げるようにその場を去ろうとすると。


「あ、九時にチャイムが鳴って朝御飯が机にでてくるよ。一時間で消えちゃうからそれまでに戻ってきてね」


「消える? 保存しておくことはできないんですか?」


「机から離せば消えないみたい。でも机にさわれるのは本人だけだよ」


 なるほど、他の者が食料やアイテムを強奪できない仕組みか。


「九時過ぎにまた来ます。お休みなさい」


「添い寝してあげようか?」


 アイが下着姿でセクシーポーズをとっている。


「いいです、また後で」


 アイは自分に何らかのスキルを使っているのだろう。

 たまに心臓が高鳴り、彼女がすごく魅力的に見える。

 しかし、自分の存在を消すことで平常心にもどすことができた。

 特定のスキルをキャンセルできる隠密スキル。

 実に便利だ。

 このスキルがなければ自分も死んだシュンのようになっていたのだろうか。


 部屋に入るとベッドの周りに洗ったセーラー服とタオルが干してある。

 自分もシュンの血を浴びたことを思い出した。

 寝間着のようなグレーのスエットが血生臭い。

 シャワー室にはシャンプーと石鹸がついていたので服を脱いで洗う。

 ついでに自分もシャワーを浴びる。

 冷たい水が気持ちいい。


 シャワーを浴びてから、身体を拭くタオルがないことに気がつく。

 アイのやつ、遠慮なくタオル使ったな。

 仕方がないのでトイレットペーパーで身体を拭く。

 ポイントで初期装備を出すか迷ったが、とりあえず寝てから考えることにした。

 九時まで二時間と少ししかない。

 洗った服をセーラー服と一緒にベッドの周りに並べて干す。

 大の字になって寝転ぶと一瞬で意識が飛びそうになる。

 教室で座ったまま寝たので、疲れはとれないていない。

 少ない時間だが休める時に休んでおく。

 色々考えなければならないが、今はただ体力の回復に全力をそそぐ。



 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴って目が覚める。

 二時間と少しだが深く眠れたのか、教室にいる時より疲れがとれた気がする。

 濡れた服は乾いてないが、スエットの下だけ無理矢理はく。さすがに女性陣にパンツ姿を見せたくない。

 上はタンクトップを着ているので勘弁してもらおう。



 ロッカーを開けて教室に戻ると全員集合していた。

 アリスとルカが私服に着替えている。

 アリスは白いドレス。ルカは競泳水着を着ていた。

 すごい私服だ。

 アイが机に座って手を振っている。

 下着姿、恥ずかしくないんだろうか。

 なんだかへんな店に入ったみたいな感覚になる。

 その中で一人、カムイだけは昨日と同じ機械装備のままだった。

 相変わらず顔も分からないが口元のマスク部分だけが解放されていて少しだけ地肌が見える。

 どうやらちゃんと人間のようだ。


 自分の席に向かうと机に銀色のトレイが置かれていた。

 トレイには三つの区切りがありそこにコッペパンとバター、ゆで卵、三角チーズが並んでいる。右上には丸い穴があってそこに瓶の牛乳が添えられていた。先割れスプーンもおいてある。

 これがBの食事か。

 思ったよりボリュームがある。うれしい誤算だ。

 アイも同じBらしい。同じものが並んでいる。

 後ろを見るとアリスの食事はなんだか豪華そうだった。

 トレイは同じものだがメインにフレンチトーストぽいものが置かれている。他はサラダとヨーグルト。飲み物はコーヒーが付いている。

 どうやらアリスの食事はAのようだ。

 上品にゆっくり食べている。

 お嬢様なんだろうか。

 逆にアリスの前の席、ルカはすさまじいスピードでガッついている。

 多分Bの食事なんだろうがパンもチーズもゆで卵もいっぺんに口に入れて牛乳で流し込んでいる。

 早食いするルカを見て小学校時代、給食時間に早食いして運動場のコートを取りに行っていたことを思い出した。

 また断片的な記憶。

 あのノートを見た後だと、記憶の一つ一つが嘘っぽく思えた。

本当の俺は一体どんな人間だったのだろうか。


 そして一番驚いたのはこの中で一番ポイントがありそうなカムイの食事。

 トレイに置かれているのはカロリーメイトのような小さい棒状のスナックが一本。

 ピンク色だからイチゴ味だろうか。

 皿もなくトレイに直接置かれている。

 横にはプラスチック容器に入った水。

 二口くらいでそれを食べたカムイは、水を一息で飲んで流し込む。

 目が合った。

 いや、機械で覆われ顔は見えないのだが、確かに視線を感じた。

 なぜ、彼は質素な食事を取っているのか。

 食事に興味が無く、毎回最低のCを食べているのか。


「どうしたの、ハジメくん、食べないの?」


 いつの間にかアイが自分の食事をもって近づいていた。


「良かったら一緒に食べようよ」


 出来れば一人で食べたかったが、聞きたいことがあったので承諾する。


「あのカムイって人、一番ポイントありそうなのにCの食事なんだね」


 アイにだけ聞こえるような小声で話す。


「いつもCなのかな?」


「ここ最近はCだと思う。前はBを頼んでいたみたいだけど」


 ......ここ最近。


「ポイントでなにか欲しいものがあって節約してるんじゃないかな。それかすでに大量のポイントを使ったとかじゃない?」


 大量のポイント。


『この世界を作った神様をただの人間にしてこのゲームに送り込む 10000P』


「一万ポイントぐらい使ったのかなぁ」


 ワザと、だ。

 ワザと教室全体に聞こえるような大きな声で話す。

 アリスとルカに反応はない。


「どうしたの急に大声で」


 アイも変わらない。

 だが、食事を終えてロッカーに帰ろうとするカムイは明らかに反応した。


 ロッカーに手をかけたままこちらを振り向く。

 じっとカムイを見る。

 向こうもこちらを見ている。

 明らかにカムイは何かを知っている。


 カムイが俺を呼び出したのだろうか。

 もし、カムイが俺を呼び出した者で、俺を神と特定しているなら初日に殺されているはずだ。いや、カムイでなくとも神を殺してゲームが終わりなら神が来た瞬間に誰もが殺しにやってくる。

 それがないということは、呼び出した者は神が誰なのかわかっていないということになる。それはポイントを使った日に俺が来たのではないということだ。一日後か、一週間後か、一月後か、一年後か。


 呼び出した者は俺の前に来た者や、俺の後から来る者も疑うことになるだろう。


 だとすれば俺が最初にすることは、神と特定される前に呼び出した相手を特定することだ。


 神様と神様を殺す者。

 デスゲームの中で、さらなるデスゲームが始まった。


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