第2話 はじめてのミッション

 

 すべての文字が消えた黒板に、新たに文字が書き込まれていく。

 誰かが書いているのではない。

 自動で文字が一字一字書かれていく。


『ゴブリン討伐ミッション』


『メインミッション

 ボスゴブリンの討伐 ポイント200P』


『ザブミッション

 ゴブリン五体の討伐 ポイント50P』


『制限時間 二時間』


『参加ポイント 10P』


『場所 エーテシア山岳地帯』


 黒板には文字だけではなくマップも書き込まれていく。

 山のマップに洞窟のようなマークと、そこに重なるように、赤いドクロのマークが描かれる。

 そこにボスがいるということだろうか。

 れる。

 まるでゲームだ。これは本当に現実に起こっていることなのか?


 椅子が地面と擦れる音がして、右端の席に座っていた全身機械が立ち上がった。

 背が高い。

 190センチはあるだろうか。

 顔は見えないがどうやら男だろう。

 椅子を戻して後ろのほうに歩いていく。


「参加しないのか?」


 巨乳騎士が話しかけると機械男はうなずいた。


「ザコでポイントも低い。お前達だけでいけるだろう」


 そう言うとロッカーのほうに向かう。機械のマスクから聞こえる声は、本当の声ではないようだ。合成されたような不気味な声は、スピーカーから聞こえた声と同種のものだった。

 自分が入っていたロッカー以外に20程のロッカーが教室の後ろに並んでいる。

 机の数と同じだけロッカーもあるようだ。


『カムイ』


 そう描かれているロッカーを機械男が開ける。

 そのまま中に入るとロッカーは自動で閉まった。


 参加しなくても大丈夫なのか。

 だったら自分も状況がわかるまで様子を見たほうがいいのだろうか。


「最初は参加しないと死んでしまうよ」


 自分の考えていることがわかるのか、左後ろにいるホスト男がニヤニヤしながら話してくる。


「最初はポイントゼロから始まるから食料や水が手に入らない。貴重なポイントは誰も分けてくれないから餓死するよ」


「シュンは優しいから最初うちに食料分けてくれたけどね」


 隣のギャル女がホスト男に寄り添う。


「アイが可愛すぎたからさ。男は絶対助けないけどな」


 イラッとするが顔には出さない。少しでも情報を聞かなくては命に関わりそうだ。


「ポイントというのは、何なんですか?」


「ポイントはポイントだよ。携帯のアプリにPの文字があるからそこを押してみな。ここではそれが全てだ。装備も食料もアイテムもポイントで手に入れることができる」


 確かに携帯の画面にPという文字が書かれた四角いアプリがある。そこをタッチすると0ポイントと表示された。


「まあ、参加してもらえる10ポイントで一週間分の食料にはなるから、死なないように頑張りな」


 どうやら参加しないと生き残れないようだ。

 もうすぐミッションとやらが、始まるならヤバイことになる。再び携帯を見た。

 初というアプリを押して、最初に出ていた初期装備の選択画面を開く。

 剣。弓。盾。

 どれがいいかなどわからないが、取りあえず無難な剣を選択する。

 

 後ろのロッカーから、ごとん、と何かが落ちる音がした。

 選択した剣が、ロッカーの中に送られてきたのか?


 『ハジメ』と書かれた自分のロッカーに歩いて行き、扉を開ける。

 RPGのゲームでよくあるようなタイプの剣が入っていた。

 青銅の剣といったところか。

 程々の重量で軽々は振り回せない。

 鞘に入っていてベルト付きで腰に装備できる。

 鞘から抜くと鈍く光っていた。

 両刃の直剣で斬れ味はあまり良さそうでない。

 斬るよりも突いたほうが良さそうだ。


『出席をとりますっ、参加者は席について下さいっ!』


 スピーカーから再び音声が流れ、慌てて席に戻る。


『出席番号1番 カムイ君』


 返事はない。

 彼はロッカーに戻っている。


『出席番号12番 アリスさん』


「ハイ」


 巨乳騎士が返事をする。

 返事をした瞬間、その姿が一瞬で消えた。

 無人となった机と椅子だけがそこに残る。

 心臓が大きな音を立てた。

 緊張で喉が乾く。


『出席番号18番 ルカさん』


「はい」


 狩人女が同じように姿を消す。

 出席番号に違和感を感じる。

 順番でない。

 間の番号は皆いなくなっているということだろうか。


『出席番号25番 シュン君』


「はいよ」


 ホスト男も消える。

 ギャル女と二人きりになる。

 気不味い空気の中、ギャル女を見ていると彼女はニコリと微笑んだ。


「大丈夫、シュンに言って助けてあげるから」


 ピースサインを作る。


「ど、どうも」


 どもりながら反射的にお辞儀する。

 記憶は戻らないがどうやら自分は女は苦手だったようだ。


『出席番号30番 アイさん』


「はーい」


 ギャル女が消えてついに教室に一人きりになる。

 さやに入った初期装備の剣を触る。

 手に汗がびっしりついていた。


『出席番号 33番 ハジメ君』


「は、はいっ」


 目の前が真っ暗になる。

 浮遊感とともに身体が液体になって流されていくような感覚がした。


 気付いた時には、すでに山の中に立っていた。

 鬱蒼(うっそう)としげる木々。

 聞いたことのないような虫の

 太陽が近いのか、いままで感じたことがないような暑さを感じる。

 黒板に四月と書いてあったが、真夏よりも暑い。教室は夜だったので、ここは時間も季節も別の世界かもしれない。

 辺りを見渡すと、先に送られた四人が少し先で立ち止まっていた。


 巨乳騎士アリスと狩人ルカが話している。


「どうだ、ルカ。反応はあるか」


「うん、山頂の洞窟に無数の反応がある。ボスもザコも固まってるみたいだ」

 

 そういえば自分をゴーグルで見た時、彼女はスキルがないと言っていた。

 狩人ルカは、ゴーグルの力で索敵さくてきしたり、相手のステータスを調べたり出来るようだ。


「よし、いくぞ。お前達はどうする?」


「今回は後から向かいます。ご健闘を」


 ホスト男シュンが頭を下げる。

 どうやら力関係がハッキリしているようだ。


「頑張ってね〜〜」


 ギャル女アイが二人を手を振って見送る。

 自分には何も聞いてこない。

 どうしたらいいのだろうか。


「新人君、今回は俺が面倒みてやるよ」


 嫌そうな顔でシュンが言う。

 横にいるアイがウインクしている。

 どうやら自分が来る前に、面倒を見るように頼んでくれたようだ。


「俺のスキルはハイエナ。強い奴が殺し損ねた瀕死のモンスターを見つけることができる」


 自慢気に話すがなんてセコいスキルだ。


「先に行った筋肉バカと冷血女がある程度片付けたところで向かうぞ。うまくいけば結構なポイントをゲットできる」


 最低な作戦だがここは従っておこう。

 初回だし、ほぼノーリスクでポイントやらをゲットできるのはありがたい。


 こうしてはじめてのミッションが始まった。

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