第8話 “覇者の斧”の壊滅
(たくさんいるね)
(ああ、ちょっとうかつだった)
(フンッ、かまわん。むしろ進んで来てくれたのだ。十はいるだろう。食いがいがある)
などと森の中を、あくまで平静を装いながら俺らは歩いている。
俺らはあのあと、翌日から狩りの依頼に出かけた。獲物は“怪猪”だ。名前の通り魔物化した猪で、ありふれている討伐依頼である。双角が馬鹿みたいに大食いしたりしたせいで金が本当にない。だから小さな依頼でもかまわず受ける必要があった。
依頼自体は双角と合体したために上昇した俺の実力と、マティのおかげで難なく倒すことができた。マティはなにせレベルが20を越えているのだ、彼がいるだけで今までとは戦いがだいぶ違う。
魂を吸って、頭部を割いて“魔核”を取り出し(魔物化した生物にはその系統ごとに魔核というものが体のどこかに発生している。これを持って帰ることで倒したことの目印としているのだ)、さあ帰ろうかと帰路についているところだった。
怪猪はひらけた草原で倒したものの、帰り道は一度抜けた森にまた入る必要がある。まだその時には幸い魔物討伐のために一度使った吸引魂魄のためレベルは22に上がっている。このレベルになるとスキル自体のレベルも一つ繰り上がっているのだ。
そのためぎりぎりであいつらの策略に気が付いた。覇者の斧たちだ。やつらが大勢で待ち伏せていたのだ。覇者の斧たちの多くは個人ひとりひとりは大した実力ではない。そのため、隠密のスキルも上手くはないものばかりだった。こっちは霊魂燃焼のおかげもあって隠密スキルが6にまでなっている。俺の通常状態のスキルレベル5なら、あまり対応できない状態での発見だっただろう。
運よく相手の位置を把握できる状態なので、探索につとめる。目では分からなくても魔力の流れや濃淡で子細に探れば場所が分かるのだ(もちろん相手の技量が上なら難しいが)。大体の目星をつけると、双角が話しかけてきた。
(捉えたか?)
(だいたいは)
「ねえ、ぼくもなんとなく感じ取れる位置まで来たよ」
「じゃあ行くぞ、あそこ!」
そう叫んで敵の位置を指さすや、マティは一目散に突撃していく。逆襲作戦の開始だ。感じ取れた中ではマティにかなう相手などいない、潜伏していた戦士数人を一瞬で糸切れ人形みたいにこと切れていった。
「くそっ!」
「かこめかこめっ!」
「おじけづくんじゃねえぞっ!」
マティの動きをみて周囲のあちこちの茂みから怒号や叱咤が飛び交った。作戦は失敗したため隠れていては無駄と、つぎつぎと戦士たちが姿を現してマティのもとへ向かおうとする。
そこを俺はついた。マティに気をとられてそっちの方向へ意識を集中させている間、背後に回って一刺しで仕留めたのだ。「こっちにもいるぞ!」と叫ばれるもののまた森の中に姿を隠し別の標的を狙い、同じように攻撃する。こちらとあちらでは隠密スキルの差があるのだ。こちらを把握できず、マティの攻撃もあるため落ち着いて対応することも出来なかった。
戦場はもう大混乱だ。マティに切り刻まれるもの、俺に背後から突き刺されるもの、どうしていいな変わらず右往左往したり、逃げ出そうとしているところを難なくマティや俺に仕留められたりするものもいた。
簡単に決まるかな。と思ったそのとき、マティに異変が起きる。彼の太刀筋に応じる者がいたのだ。
「棟梁! 部下を引かせろ! 全滅するぞ!……ち、逃げたか」
マティと対峙しているのは覇者の斧とは思えない服装だ。やつらのチームカラーの赤色をまとっていないのだ。逆に青色で統一された旅装をしている。防具はかなり軽量化されている。胸当てに手足の鉄甲しか防具らしきものは身に着けていない。機敏さを重視しているのだろうか。そして武器はマティと同じく剣であった。
ギヨーム
Lv.20
種族;人間
職業;剣術士
HP;176
MP;129
腕力;158
機敏;163
器用;160
感応;104
幸運;42
スキル
剣術;Lv.6
俊足;Lv.5
少し手を休め男のステータスを来訪者の眼で見抜く。レベル20、かなりの高レベルだ。草笛の街にそんな強いやつはいないと思っていたが、あるいは近隣の街から大急ぎで俺らを倒すために用意したのだろうか。今まで倒した奴らはその前にステータスを確認したが覇者の斧らしくみな大したレベルではなかった。やつがおそらく敵勢最強の戦士だろう。
「……ふーん、けっこうやりそうだけど」
今まで一撃でもてあそぶように戦士たちを倒していったマティも攻撃を受け止められたせいか、相手への警戒心を強くした。
「ちっ、マティのほうがレベルも剣術のスキルも上だが……はっ!」
逃げ出している男の後頭部を思い切り叩き割り、倒す。すると、もうマティたちの戦いは動いていた。
先手はマティだ、「今度はにがさないよっ!」と両の剣で襲い掛かるが敵の剣士はその刹那自身の魔力で肉体を強化し、まばたきも出来ない速さで回避、マティの背後に回ったのだった。俊足だ、奴のスキル“俊足”で通常の肉体強化で得られる速さ以上の速度で動いたのだ。
「!?」
「抜かったな!!」
「マティ!!!」
今にも敵の戦士がマティを背後から刺そうとしたときだった。彼の危機を見て反射的に叫んだ俺からは一気に魔力が噴出しだした。霊魂燃焼だ、コントロールすることもできずに恐れからか勝手にあふれたのだ。
魔力は全身にまわっている、脚力も通常の何倍も高まっていた。地面を踏みしめての跳躍は信じられない速さを生んだ、地面が縮んだようにして二人の目の前まで距離を詰めたのだ。
「なに!?」
「うおおおおおっ!」
敵戦士はマティから俺へ剣をかまえなおそうとしたものの、すでに遅い。俺の槍が深々とやつに刺さり、そのまま押し込んで森の木の一つにぶつかった。
「ぐあっ……ああ……」
槍ごと樹木に深々と突き刺さったまま、戦士はまだ息があった。じっと目が合う。なぜ、どうしてというような戸惑いと起きたことが信じられないとった色が彼の眼には漂っていた。俺もだ、爆発したようにレベルアップした霊魂燃焼の力をあらためて感じいる。戦士はその後すぐに命を失った。覇者の斧のメンバーもあらかた死んでいて、周囲は静かだった。
「ありがとーっ!」
マティが後ろから抱き着いてくる。ぎゅっと力強くしめてきた。
「あぶなかったよー、ちょっときを抜いちゃってたから、斬られてたかも」
「ああ、そうだな……おい、なあ双角」
「なんだ」
「この霊魂燃焼はお前がやったのか?」
自身に来訪者の眼を使ってみると、現在のレベルは31だ。一度に9レベルも上げてしまった。
「いや、お前が使ったのだ。マティの危険を察知してな。我なら無駄に上げぬわ。6つも上げれば間に合ったぞ」
やはり俺が使ったらしい。この不安定さはぎりぎりの戦いでは命とりになりかねない。もっと慣れるというか扱えるようになる必要があった。一度に馬鹿みたいにあげてもとのレベルに戻った時に急速にレベルが落ち込んでいてそこで強敵に出会う、なんてこともあるかもしれない。
その後死体をあさって双角に食わせた。食った数は全部で十一人、マティの背後をとった俊足スキル持ちの戦士のおかげか、能力切れした後のもとのレベルは19とプラスマイナスゼロだった。
この一件は俺らの名声を大いにとどろかせた。近隣の悪党として悩みの種だった覇者の斧を壊滅させたのだ。リーダーこそ取り逃がしたものの団体自体を成り立たなくなるまで叩き潰し、二人で十人以上と闘い圧勝したのだ。これ自体は私闘とみなされ誰からも金はもらえないものの、あの一人だけ団体に似つかわしくないマティの背後をとった戦士は賞金首だった。“邪風のトリスタン”とあだ名されていた男だ。彼を倒したことで賞金が手に入り、俺は今まででにないほどの金を得たのだった。
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