第6話 早速の戦闘

「ああ、あいつらか……」

「知っているのか?」

「ああ。クズどもだ」

 俺ら一行はすでに戦闘の場まで来ていた。隠密スキルを使用しながら(といっても隠れているだけだが)茂みに潜んで戦いを観察しているのだ。

 戦闘している者たちは片方は分からない。だが、一方は双角に話したように知っている。拠点にしている“草笛の街”で一団をなしている“覇者の斧”という冒険者グループのやつらだった。悪い意味で周辺では名がひろまっていた。ようは暴力をかさに着て横暴なことばかりしているのだ。

 ゆすり、無銭飲食、借金踏み倒し、また同じ冒険者たちを決闘といって襲うこともある。一応証拠を残さぬよう行っているが、捕まえようと思えば捕まえられるような大した隠し方ではない証拠の消し方だから、みな奴らの悪行をしっていた。

 それでも捕まらないのは二十数名の巨大なグループだからだった。中央ならこれくらいざらだろうが、ここは辺境の街、闘えば大きな損害がでるとして手がでなかった。

 俺も、狙われていた。いや、狙われているというほどでもない。金もないし、賞金首になっているわけでもない。ただ、この世界では転生、転移などをしてきた者たち、つまり来訪者らはかなり嫌われている。

 それだけで殺されそうになった。なんとか逃げて奴らに出会わないように日々くらしていた。だから宿に帰ったら滅多におもてに出ることはなかった。

 すでに戦いは決している。勝ったのは覇者の斧のほうだ。奴らくずどもはみな両の刃の斧があしらわれたマークをどこかに身に着けたり、入れ墨を掘ったりしている。さらに赤がいわばチームカラーなので全体として赤っぽい服装をしている。鎧などの武具が赤色に塗られたりしているのだ。目の前にいるやつらも、そうだった。

 ただやはり名誉な戦い方ではなかったらしい。まず人数が違った。敗者たちはふたりだけ。しかしチンピラどもは八人ほどいる。

 来訪者の眼で確認すると、覇者の斧のほうは双角のいった通りみなレベルが14前後だ。12のが四人、13が一人、残り三人のうち二人が14で、15は一人だけだった。

 敗れた側はひとりはもう分からない。すでに死んでいるからだ。死んでいる者のステータスは確認できないのだ。しかし、もう一人は見えた。彼はレベル15だ。俺と同じだった。

 すでにふたりとも血まみれだ。生きているほうも長くはないだろう。HPが13ほどしかなく、どんどん減っていっている。あと十数秒でライフはゼロになり死ぬだろう。

「どういうわけか知らないけど、数であっとうされちゃったみたいだね」

「フンッ、どうでも良い。雑魚ばかりだが数は多い。食い甲斐はあるな」

「食う?」

「そうだ。我の一つ目の力よ。だが、まず殺さねばならぬ。だから奴らを殺すぞ」

「や、待てよ。けっこう数が……」

「もうっ! じゃあ、ぼくに続いて!」

 マティが声を上げると同時に茂みから飛び出した。奇襲は成功だ。戦いでほっとしているところを襲われたのだ。まず一番近いレベル14を一撃で殺した。こうなったら俺だってここで隠れているわけにはいかない。

「おおおっ!」

 叫んで自身を鼓舞し、飛び出した。俺が狙ったのはレベル12の戦士。槍をまっすぐ顔面に伸ばすと、難なく顔の中心に突き刺さり、衝撃でそのまわりもへこむように砕けて鮮血が飛び散った。

「おまえらっ!?」

「うわああっ!!」

 覇者の斧のチンピラどもはもう大パニックだ。俺が二人目を襲おうとしたときにはすでに三人目を殺そうとしていた。

「はあっ!」

「ぐぁっ!?」

 最後のひとりに槍をいなされたものの、フェイントをいれて太ももへ重度の一撃をあたえ、行動不能にさせる。「痛てえ、くそ……!」などといって地面へ座り込んだ。その深手ゆえ、もう奴には継戦能力はないだろう。

 圧勝だ。俺が三人、マティが五人も殺した。俺よりさきの攻撃したこともあるが、どうも戦いなれしている。以前の俺なら、いや今の俺より強い。

「マティはすごいな。双角、お前はいい子分を持ったな」

ワレが育てたのだ。当たり前だ」

「でも、自分より強い子分を持つってのは、どんな気分だ?」

「我よりマティのほうが強い、だと? 笑わせるなっ!」

 思った以上に双角は怒っていた。マティも「ご主人さまをばかにするなよー」と注意してくる。しかし、双角も強いがここまでの戦闘能力はあるのか疑問だ。感応値が飛びぬけていたから、魔法での攻撃には強いだろうが。

「フンッ、まあしょうがない。我の“力”を見ていないからな。良いか、丁度食い物が揃った。お主に披露してやる」

「食い物って、これだけの人間を……!?」

 やつが、蠢きはじめたのだ。

 寄生虫におびやかされていると、こんな感覚を得るのだろうか? 体の中を長い虫がくねくねと動いてそとに出ようとしている。これらはすべて双角の触手なんだろう。実際、うごめきを感じたすぐあとに、体から一気に何本ものやつの触手が噴出したからだ。

「なにをするんだ!?」

 正直、自分でコントロールできないので、恐怖を感じていた。目の前には俺の身体から延びるうにょうにょとした双角の触手、ことタコやイカみたいな足(いや、やはり手なのだろうか?)がある。

「だから、食うのだ。こいつらをな」

 双角の触手はさらに伸びて、今さっき殺した覇者の斧らのメンツに突き刺さり始めた。まさか、と思ったそのときだ。濃密な魔力が、俺の身体に注がれてきたのだ。

「お、おおお……!」

 濃厚な、味だ。具体的に甘味や辛味などがあるわけではない。ただ触手から伝わるエネルギーが体に到達するたびに、精神も肉体も満ちあふれて多幸感が押し寄せてくるのだった。

「フンッ、どうだ? 我が力“吸引魂魄”の能力は。どれ、数値表を開いてやろう」

 目の前に現れた俺のステータスはめまぐるしく上昇していた。

Lv.19→20→21、とぐんぐん上がっていく。

「いいな……」

 ぽつりと、遠くでマティがつぶやいたのが聞こえた。

 それからもレベルの上昇は続き、最終的に俺は一気に23まで駆け上がった。


ツカサ・XXX

Lv.23

種族;人間・半妖

職業;XXX

HP;209

MP;399

腕力;207

機敏;216

器用;199

感応;551

幸運;53


スキル

槍術:Lv.6

隠密;Lv.6

XXX;Lv.10

XXX;Lv.10

XXX;Lv.10


 あいかわらず感応値の伸び率が段違いに高い。今までは魔力の扱いはもっぱら自身の肉体強化に使用していたが(だから魔物という熊が倍以上強くなったやつらと対等以上に戦えるのだ。この技術は俺だけではなく、魔術を専門にならったなら皆できたが、近接戦闘の者はその立場上他の者より秀でている)、これからは別の使い方も覚えられるし覚えていかないとな、などと考えはじめていたのだが、双角が俺へ更に能力のことを伝えてきた。

「人間では味わえぬ魔力の濃密さだっただろう? そしてまだ一人生きているな。あやつを使って試すぞ」

「うぉっ!? 今度は、なんだ!?」

 体の芯が熱くなり始めたと思うや薪をくべたように燃え上がる、いや爆発するようなエネルギーの発露を感じ始めた。それは全くおさまらず、また、感覚だけのものではなかったのだ。俺のまとっている魔力の量がはっきりと違った。目に見えて増えたのだ。

「フンッ、数値表をもう一度見てみろ」

「これは!」


ツカサ・XXX

Lv.25

種族;人間・半妖

職業;XXX

HP;238

MP;436

腕力;228

機敏;236

器用;210

感応;599

幸運;53


スキル

槍術;Lv.7

隠密;Lv.7

XXX;Lv.10

XXX;Lv.10

XXX;Lv.10


「レベルが上がった……!」

「これが二つ目の“力”、“霊魂燃焼”だ。生命力の根源でもある“霊力”を魔力に滞りなく変換することで一時であるが莫大な力を得られる。それも一度きりだけではないぞ」

 俺の身体は再度霊力を糧にして燃え上がった。爆発の連続だ。

「数値を確認してみろ!」

 双角が上気しながら伝えてくる。

 俺のレベルは、31になっていた。

「あ、あああ、ああああ……!」

 震えて声をあげていたのは、覇者の斧の残党だ。俺の魔力の高まりに怯えて、思わず発したのだ。やつはなんとかふとももの大けがを止血したみたいだが、とうてい逃げられる状態ではなかった。

 やつの顔を見てみると、見覚えがあった。そうだ、こいつは飯屋(居酒屋を兼ねたレストランといってところだろうか。そう高級なところじゃない。俺が通えていたくらいだから)で「味付けしてやるよ」といって俺が喰っていたスープにツバを吐きかけたクズだ。

「おや、怒りの感情がほとばしってきたな。もしやその生き残りに何か恨みでもあったか?」

「ああ、当たりだ……」

「晴らすが良い。一発で死ぬだろうからあまり楽しめぬが」

「大丈夫だ、俺はこいつと出来るだけ長く同じ場所にいたくないからな。最初からさっさと思わせるつもりだ」

「う、うわあああああっ!!」

 クズはより大きい声をあげてなんとか逃げようと腰を上げたが、そこにマティが邪魔に入る。

「だめだよー。にげちゃ」

 剣で思い切りもう片方の怪我をしていなかった足を突き刺した。

「ああああああっ!」

 生き残りはぐしゃりと地面にまた腰をつける。両足がやられたため、もう動くのも難しいだろう。俺は余裕をもってやつのほうへ歩き出した。この昨日までの自分ではありえない力の強さをたのみたかったのだ。

 全身の魔力をぐぐっと利き手に集める。もう戦車の主砲なみの威力になっているだろう。覇者の斧のクズは閑念して運命を受け入れたのだろう、顔から人間らしい表情が消え失せていた。ただ涙のあとだけが感情を持っていたことを示している。

「運がよかったな。痛みは、たぶんねえぜっ!」

 思い切りやつにたたきつけた。ぶつかった瞬間、少しの反発をかんじたが蜘蛛の巣を乾竹の棒で雑作なくはらうように、奴の上半身が消え飛んだ。

 地面には腰を下ろしている先ほどまで生きていた下等な戦士の下半身だけが残されていた。えぐり取られた切り口は巨大な魔物にがぶりとかじられたようだ。上半身は探しても見つからないだろう。魔力を帯びた衝撃でちりぢりになり、細かな肉片と血煙となって草木と湿った土にばらまかれたからだ。

「さっさと喰わねば、我の血からでも魂を逃してしまうからな。もう少し食事は落ち着いて味わいたいが」

 双角はすばやく触手を伸ばし、クズ戦士の残った下半身へ突き刺して魂を吸った。濃密なエネルギーがまた俺を満たした。

「あーあ、ぼくも食べてみたいなあ。人のたましい」

 マティが、残念そうにつぶやいていた。

 

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