1−18 ワケありの荷物
「荷物が来たみたいだな」
音もなく扉が開かれ、入ってきたシーフに続いてきたのは十代前半くらいの子供だった。
「なるほど、ダークエルフか……」
確かに、ハンターギルドでは護衛依頼が受理されない対象だ。
エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人、その他人間と意思疎通が可能なマイノリティは人間から亜人と総称され、国家の福祉を始め、多くのサービスを受けられない。ハンターギルドへの依頼もその一つだ。
それに、そもそも彼らが都市に滞在するためには保証人制度という高いハードルがある。
滞在のためには亜人は人間と保証契約を結ばなくてはならいとする制度は、悪用すれば人間が契約破棄をちらつかせて亜人を思うままにすることも出来る。亜人の幸せは保証人の心次第という言葉まである。
奴隷じみた扱いを国家ぐるみでしていて亜人に乗っ取られたという国がアーリアの方にあるらしいけど、少なくとも帝国ではそこまでひどい扱いはない。帰る集落があって、技能があるから人間の社会に呼ばれる亜人の生活は、雇われとはいっても行き場のない人間の下層民よりよほど暮らし向きはいい。
翡翠の瞳にショートボブ程度の灰色の髪、褐色の肌にはティベリウス帝国産の白色のマントが映える。 手に抱えているのは本か? 亜人にひろまっている宗教の経典だろうか。
「おい」
観察していた俺をトマスを部屋の隅へと引っ張っていく。
「おめぇ亜人嫌いのクチだったか? 連れて歩いたって目立つ程度で犯罪じゃねぇんだから今更キャンセルするなんていうなよ?」
「亜人自体にはなんもおもわねぇよ。ただ見てただけだ」
シーフギルドが扱う荷物なんて大体ろくでもない物ばかりだったから、こんな美少女が出てきてびっくりした。なんて死んでも言わない。
「逆に亜人好きでも口説くなよ?」
「そんな気おきねぇよ、年の差考えろバカ。金をもたねぇおっさんがどんだけもてねぇかお前だってしってんだろ」
「いや、俺ギルド長で金持ってるし、妻子いるし」
腹の立つ顔で煽りやがって、昔から変わらねぇなこいつマジでなぐりてぇ。
「とにかく、サルみてぇに盛ってギルドの顔潰すようなまねはしねぇから安心しろ。せっかくきれいにしたステカの最初の汚れが性犯罪者なんてマジで笑えねぇ」
ギリギリで止まってようやく上向いてきた人生だ。ここで放り出すつもりなんてない。
それは置いておいて、どうしても聞いておきたいことがある。
「ハンターギルドじゃなくてシーフギルドを頼ったのはいい。だがティベリウスからここに来るまでに保証人や護衛はいたんだろ? そいつらはどうした?」
ティベリウスの格好をしているのだから彼女の旅の始まりはティベリウスか、ティベリウスとの国境近くのはずだ。そんな遠くから都市にもよらずやってきたという割には子供の服装が綺麗すぎる。
ちっとトマスは忌々しげに舌打ちした。訳ありなんだろうけど、ちょっとは隠せよ。
ただの亜人、と追われている亜人では訳ありの意味合いが全く違う。カードも出来たし、場合によっては依頼を断り、薬師ギルドで製薬したりして金を用意させてもらおう。
「この依頼人を護衛してたシーフ達は道中に夜盗に襲われて死んじまってな。森で途方に暮れていた所を『トネリコの導き』って狩人パーティに助けられたが、そいつらが野営中に斬りかかってきたらしい。脱出してここにたどり着けたのは依頼人と黒髪のポーター女だけで、ポーターもすぐに死んじまったよ」
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