1-13 三つ目の夢(逐電前)
―― 夢。
要塞の監視塔から遠くに灰色の塔の群れが立つ砂漠を眺めている。
コッ、コッ、と、木製のらせん階段を上る靴の音がしている。音がやんだので振り返ると夕焼けに照らされた痩身中背の女性が立っていた。
「ここにいらっしゃいましたか」
レイ付きの侍女のオルガさんは無口だけどいつも親身に接してくれる。侍女さん達は性格の違いはあっても皆やさしい。一回顔を合わせただけの人でも出会ったときと変わらない。彼らが元々いいひとであっても、あんなに優しいのはきっと主人がレイだからこそなのだろう。
そんなオルガさんに今日の結果を伝えなければいけない。隠し立てできないし、自分で言わないのは卑怯だ。
「今日、再試の結果がでました。やっぱり最下位魔法しか使えませんでした」
「そうですか……、それは、残念でしたね」
オルガさんもそれきり目線を下におろし、何も言わなかった。今回の再試で下位魔法がつかえなければ退学になる事をオルガさんは知っているし、屋敷の人間も薄々感じとっているだろう。
優しさがつらい、という常套句があったけれど、あれが常套句になった理由がわかる。確かに、全属性持ちと期待されてから失望され、退学を言い渡されたのはつらい。
でも他人が相手に優しくするには、される人のつらさに共感していないとできない。
ということは僕はオルガさんにつらさを理解させてしまっているという事になる。そっちの方がたまらなく申し訳なくてつらい。
「レイ様はお顔を見せて欲しい、とおっしゃっておりました。おこしいただけますか?」
オルガさんの主人はレイだ。彼女にも同じ思いをさせてしまうだろう。
さっき自分で伝えなければ卑怯だと考えた気持ちはかわらない。でも逃げ出したい。これ以上周りにつらさを振りまきたくない。
もう、卑怯なクズでいい、それでいい。
――◆ ◇ ◆――
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