◇
「もう大丈夫……俺が背負えるだけの災厄を背負ってあげた。それに他の者も手を貸してくれたようだ。今、取り戻した花火を抱えて山を下っているね」
そう言いながら、涙を流しながら安堵の表情を浮かべる柚季に微笑みかけてくる。一度は消えて蘇った神様、青い炎はほろほろと消えていく。
「……まさか、こういうふうにお守りを使うとは」
はっきりと見ることのできる姿に、柚季は無理矢理に笑顔を作って見せる。
「私が……変なことに使わないって信じていてくれたくせに」
「まあな」
くしゃくしゃに髪を解し、神様は柚季に目線を合わせたまま笑った。
(温かい。ああ、もう無理だ。笑顔、もう、持たないや)
柚季は痛む足など忘れ、神様に飛び付いた。懐にダイブして一瞬、神様が白目を剥いて失神しそうになっていたが、しかし、抱き留められた柚季は想いきり声を出して泣き始めた。
今年の夏は、泣くことから始まった。そして忘れようもない出来事に、たくさんの涙を流した。今日という日を忘れはしない。そう誓った柚季の頭をそっと神様が撫でてくる。
「ぼろぼろになっちまって……でもまあ」
神様は言う。はっきりとした声が耳に届き、柚季は涙を流しながら白い歯を見せて笑った。
「お嬢ちゃんの優しさは、ちゃんと伝わって来た。ありがとう、あの子がここに来てくれるまで、絶対に消えない」
「当たり前よ」
さて、と柚季はそっと神様から離れる。
「おじいちゃんのところに花火を持って行かなきゃ。待っている人がたくさんいるから」
「そうか、俺も手伝えるといいんだけれど」
「あなたはここに居て。後でまた来るから、勝手に消えないでよ?」
「もう、そう簡単に消えないさ……じゃあ、代わりに言伝を頼みたい。継に、ここへ来るのは自分がやるべきことを終わらせてからでいいから、と伝えてほしい」
「やるべきこと?」
「言えばわかるよ」
意味深に微笑み、神様は柚季の背中をそっと押してくる。もしかして文の事だろうか、そう思いながら口元を緩める。今度は、振り返っても消えていない。優しい微笑みを浮かべる神様に、お腹がぽかぽかしてきて、自然と顔に笑みが浮かぶ。
「そうだ、神様」
「なんだい?」
柚季は背筋を伸ばし、鳥居を背に――改まって訊ねる。
「あなたのちゃんとした名前を、教えてください」
青い炎の消えた本殿の前、賽銭箱に座った神様はどこから取り出したのか、酒瓶を手に答えた。それはどうにもこうにも、神様とは思えないほどの態度で、でたらめで、まるで自称神様のようだった。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます