完全に貫かれていたはずだった。絶望的な光景に、言葉を失ったが――継の身体を牙が貫いたかと思えば、化物の顔が継の身体をすり抜けるように出て来る。勢いよく口を閉じ、しかし継の身体に異変はない。あるとすれば、継の身体を覆う、青い炎だ。

 それは一瞬のことで、全身に膜を張るかのように、青い炎が全身を覆い尽くしていた。伊織も同じで、継が化物に噛み砕かれる寸前に、山の奥から広がるようにしてやって来た炎が、身体を覆い始めたのだ。

(誰かが守ってくれた……?)

 継が斜面に一度ぶつかり、跳ねて落ちてくるのを見て、慌てて伊織は抱き留める。その衝撃で倒れ込んだ伊織は、化物が着地した直後に斜面が崩れ落ちてきた落石に大きく目を見開いた。

(死なせてたまるか!)

 咄嗟に継に覆いかぶさり、落石から継を守ろうとする――だが、落石はそのまま継と伊織をすり抜けて転がっていく。まるで、自分たちが別の次元にいるかのような、不思議な感覚だった。

「誰だか知らぬが……邪魔をしている者がおるな!?」

 化物が咆哮し、大地が揺れる。それでも、青い炎は掻き消されない――そして、化物が全身から黒い靄を轟々と噴き出し始めた直後、耳元を優しく撫でる、風鈴の音色が通った。懐かしい気持ちにさせるその音は、身体の奥底まで伝って広がっていく。

「……精霊様?」

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