向坂伊織


 ぼうっと窓の外を眺める。田園風景が抜けたかと思うと、次は大海原が広がった。青い海はすべてを呑み込まんとするほど、深く、濃い青をした場所もあれば、そのほとんどが白い砂底を見せるほど透き通った薄い青色も広がっていた。眩暈を起こしてしまいそうなほどの晴天に恵まれたが、天気とは真逆の胸中に、あまり景色に対しての感動は低いものだった。

 バスの中には前方の席におばあさんが座っているだけで向坂伊織こうさかいおりと運転手を含めて三人だけしかいない。田舎ならこんなものなのかと頬杖を衝いて窓の外をぼんやりと眺める。小一時間ほど前の人混みに圧されながら乗っていたバスや電車が、まるで嘘のようだった。人混みどころか人の数がそもそも少ない。落ち着くと思いながら、しかし、と伊織は思う。

「……ここは、どこなんだろうな」

 適当な電車に乗り、適当なバスに乗り、田舎を目指した。人のいない自然にあふれた場所を目指し、とにかく雑踏から逃れようと乗り継いで来た。この場所がどこなのか、さっぱりわからない。停車場所を前方画面で確認しても、聞き覚えも見覚えものない地名が並んでいるだけ。だが、むしろこれでいいのかもしれないのだ。いや、いいんだ、と伊織は最後部の座席で目を瞑ってバスの揺れに身を任せた。


 伊織の両親は伊織が生まれて間もなくして交通事故で亡くなっている。当然顔も覚えていない、声も知らない。母方の祖母と祖父の家で育ち、今年で大学二年生になる。サークルにも所属し、仲間もたくさんできた。楽しい学生生活が始まって二年目。少し早目に入った夏休み、この先にいくつもの予定を入れていた。だが、一つ、また一つと仲間との予定が狂い、ほとんどの計画が跡形もなくなった。それもあって、伊織は苛々していた。そして――

「ん」

 バスが停車、その反動で目を覚ました伊織は大きな欠伸を漏らす。

「……静かだな」

 もう一人、おじいさんが乗車してバスが出発する。これでバスの中には四人――と、伊織はふと視線を感じて隣を見た。そこには足をぱたぱたと揺らす少女がいた。小学生とも思えないほど幼い。肌は年相応か、もちもちしている。薄い青色のワンピースに麦わら帽子。夏なんだな、と思わせるその格好に自分の服装を見比べてみる。短パンに白の無地のインナー。羽織っているワイシャツは真っ白、と。バタバタして出てきたせいもあってシンプルだが、夏の格好としては適当ではある。

 少女は真っ直ぐ前を向いたまま笑顔を浮かべている。悩みもない、そんな無垢な笑顔は、今の伊織にはいいものには見えなかった。荒んでいるな、と自虐してみても少女のことを少しは恨めしいと思ってしまう。自分が不幸に思っているとき、他人が幸せそうにしていると、これほどまでに人は心を濁らせてしまうものなのか。少女の笑顔が、まるで自分を嘲笑っているかのように見えてしまう。見なければいい、気にしなければいいと伊織は目を逸らす。少女と同じように真っ直ぐ前を向き、どこへ向かうかもわからないバスに揺られて再び眠気に襲われた――

(いや、待てよ?)

 気付いて、眠気が吹き飛ぶ。再び少女を見て、伊織は息を飲んだ。

 最初は三人だった。バスに乗ってきたのは間違いなくおじいさん一人で、運転手、おじいさんとおばあさん、そして向坂伊織。バスにはこの四人しかいなかったはずなのだ。しかし、隣には少女がいる。眠っていた間に乗ってきたとしても、さすがに隣に誰かが座れば気付くはずだ。この少女は、まるで最初から居たかのようにそこに座っている。すると少女がちらりと伊織を見てきた。慌てて前を向き直す。怪しい人物だと思われて、見知らぬ土地で幼女趣味の性犯罪者とでも思われたらたまったものではない。このご時世、何をしても通報の嵐、まさに明日は我が身なのだ。

 障らぬ神には何とやら、伊織は黙って一つ前の席に移動した。関わらないように、できれば次の停留所で降りようと伊織は決める。その時、椅子が少し弛んだ。隣を見て、伊織はぎょっとした。隣に、さっきの少女が座っているのだ。わざわざ移動してきて、しかも窓側の席に座る伊織を追い込むように座っている。席を移動しようにも今度は少女が脚を揺らして邪魔をする。邪魔をしているわけではないのだろうが、床に付かない短く小さな脚を揺らしている少女は、笑顔を崩さないまま前を見て、時折伊織を見てくる。新手のやり口か、冤罪をもたらそうとしているのかもしれない少女に、伊織は終点まで行く覚悟を決めた。

 どうせどこで降りようという予定も何もないのだ。無計画のこの旅に、終着点があるのかさえもわからない。ならば、どうとでもなれという気持ちで伊織は瞼を下した。

 ――一時間は経っただろうか。すっかり眠ってしまっていた伊織はバス内に響いたブザー音に飛び起きるようにして目を覚ました。バスは停車し、運転手から「お客さん、終点ですよー」と軽い口調で声をかけられる。本当に最後まで乗ってしまった。これからどうしようか考えながら席を立とうとして、伊織は顔をしかめた。少女は通路に立ち、伊織を見て笑顔を向けている。少しばかり不気味な感じもしたが、通路を少女は駆けて行ってバスを降りた。どうやら解放されたようだ、と運賃を機械に投入、バスを降りて扉が閉まったところで伊織はふとした疑問を抱いた。どこのバスも低学年までは運賃は無料だったりする。しかし、運転手は何一つとして少女に声をかけなかったのだ。

「顔見知り……か?」

 それにしては無関心すぎる。違和感を覚えた伊織だが、バスはさっさと別の場所に移動してしまった。訊ねるほどのことではないが、どうにも気になってしまう。

「とりあえず、適当に歩くか。まだ、昼過ぎだし……どこに泊まるかな」

 どことも知らない場所に来て宿をそう簡単にとれるとも思えなかったが、こういう場所ならば民宿のひとつくらいはあるだろう。そう考えて伊織は歩き出す。

「…………」

 早足になるべきか迷う伊織は思い過ごしだろうと立ち止まってみる。そしてもう一度歩き出して五メートルほど進んだところで、もう一度立ち止まる。頭を抱えて周囲を見渡す。まだ山しか見えないが潮の香りもする。海に出れば漁港があって人もいるはずだ――だとしたら、どうしたものか。このままでは本当に遠方で不審者扱いされてしまうかもしれない。かといってこのまま人気のない場所でうろうろしていれば余計に怪しまれること間違いなし。

 開き直って人のいる場所に出たほうが誤魔化しのきく可能性がある。

 伊織は踵を返してバスの営業所へ向かった。隣を気にしつつ、案内所に向かう。

「どうされました?」

 訛った声で訊かれて、伊織は挙動不審にならないように冷静に応える。

「この辺りには来たことがないんで、地図とかそういうものがあれば、と思いまして」

「ああ、観光のほうですね? だったら無料でお配りしているパンフレットと、販売しているマップがありますよ」

「じゃあ、二つともお願いします」

 そう言ってマップを購入、無料のパンフレットも一緒に伊織は心臓をバクバクと鳴らせながら営業所を離れていく。こんなにも緊張する必要などないのだ。悪いことはしていない。ただ、ここに来たのは祖母と祖父と――

「くそっ……」

 舌打ちをして少し早足でマップを眺めながら伊織は足を進めた。

 景色は実に穏やかだった。しかし、荒んだ心は変わらない。だからだろうか――本当ならば、こんなに口調が悪くなることもないはずなのだ。

「付いてくるな」

 ちょうど海が見えた頃、伊織は立ち止まって振り返る。目線をやや下へ向けて、不機嫌そうに見る――それでも、少女は笑っていた。

 営業所に降り立ってすぐ、少女は伊織の後ろを、そして隣に、ずっと付いてきていたのだ。隠れる様子も見せず、逃げる様子も見せず、臆する様子も見せず。少女はただ無言に伊織の後ろを付いてきていた。

「……いいか、付いてくるなよ?」

 再び歩き出し、しかし少女は付いてきている。無視をし続ければ、きっと飽きてどこかに行くだろう。そう思って伊織は歩き続ける。とはいえ、やはり気になってしまう。まだ付いてきているか確認を――と。

「ば……馬鹿野郎!」

 慌てて伊織は駆け出した。海岸沿い、ボロボロの木の柵から身を乗り出した少女は今にも落ちてしまいそうなほどにバランスを崩していた。急いで両脇を抱えて道へ少女を下し、冷や汗を拭う。まさか、目の前で子供が転落死、など見たくもない。

「お前……危ないだろ」

 少女は小首を傾げて、笑みを絶やさない。何が悪い、何が危ない。そういうことを理解できない年齢なのだろう。伊織は叱りつけるのを堪えてその場で胡坐を掻いて座った。車が走ってくる気配もない。そのくらいの田舎道。少女を見つめて、伊織はため息を吐く。一人でバスに乗って、知らない人間の後を付けて、挙句の果てに転落死寸前。このまま放っておくのは、人間としてどうなのだろうか。本当は一人で歩いて行きたいところだ。一人でいたい。だが、そうなると少女を町の駐在所にでも送り届けてからのほうが気も楽なのかもしれない。

「名前は?」

 少女は反対方向へ首を傾げる。

「家の住所とかはわかるか? 電話番号は?」

 少女は反対方向へ首を傾げる。そしてニッと笑って白い歯を見せる。ガクッと項垂れた伊織は仕方ない、と立ち上がってマップを広げた。ここから少し行けば民宿があり、その先に町がある。考えて、やや不安げに少女を見る。危なっかしい少女は何が楽しいのか、面白いのかわからないが、とにかく笑顔を崩さなかった。伊織は歩き始め、少女も歩き始める。名前を訊いて、住所も訊ねた。なのに、少女は一言もしゃべらない。どうしても、まるで、自分と少女の間に透明の、見えない何かが遮っているかのような感覚が伊織にはして仕方なかった。

 海岸沿いを行くと小さな定食屋が視界に入る。そういえば昼飯がまだだったな、と少女を見る。本当は一人で歩いて、一人で過ごしたい。何故自分に付いてくるのか。何故しゃべらないのか。ここで会ったのも何かの縁か、誘拐犯か何かと間違われないか怯えていたが、しかし、山に一人、子供を置き去りにするのは残忍だ。この少女を町に連れて行き、駐在所で警察に任せるしかない。そこまでの道のりを一緒に過ごすくらい、我慢はできるというもの。そのくらいの良心はまだ伊織も持っている。

「昼ご飯、一緒に食べるか?」

 一応訊ねて、伊織は定食屋の扉を開く。少女は頷いて走り、定食屋へと入って行った。続けて伊織が入り「いらっしゃあい」と店員さんが声を上げた。他に客はいない。奥の席に少女がすでに座っているのを確認し、その席へ向かう。椅子に腰かけてメニューを開く。最初に目に留まったとんかつ定食を選び、目の前の少女にもメニューを見せる。すると、少女は『あんみつ』を指差した。一瞬、少女があんみつと言ったような感覚があったのだが、少女は変わらず笑みを浮かべているだけだった。注文をしてしばらくして気付く。

「……水はセルフ、か」

 田舎はどこもそうなのだろうか、伊織は水と冷えた麦茶を一杯ずつ持って席に戻る。少女には水と麦茶のどちらかを選ばせ、麦茶を選んだ少女はやはり笑顔で受け取った。

 とんかつ定食が運ばれてくる前にあんみつはやって来た。僅かに嫌な顔をされた気がしたが、気にせず伊織は受け取って向かい側の少女の前に置いた。感動するほど美味いとも言えない。しかしどこか懐かしい味がするとんかつを頬張っていると、あんみつを食べていた少女がじっと見つめていることに気付いた。

「とんかつ、食べたいのか?」

 こくん、と頷いた少女はよだれを垂らす。ナプキンはない。代わりに置いてあったティッシュ箱から数枚抜き取って口元を拭ってやる。そして伊織はとんかつを食べやすい大きさにして、少女の口元に持って行った。少女は小さな口を思い切り広げてぱくりと、とんかつにかぶりつく。

「美味いか?」

 こくん、と頷いた少女はスプーンであんみつをすくい、まるでお礼といったふうに伊織のほうへとスプーンを持ってきた。乗っているのは白玉一つ。潰れた小豆が僅かに付いている。

「…………」

 伊織はぱくりと食べる。味はほとんどない。ほんのりと小豆の甘みが口の中に広がる程度。しかし少女の笑顔を見てしまうと、感想の一つも言わないのは心苦しくなる。

「ありがとな。美味かった」

 ぱあっと、太陽のような明るい笑顔を見せ、少女は残るあんみつを食べ続けた――本当は一人で食べたほうが落ち着く。田舎の静かな場所に行きたかった伊織は、確かに静かな場所に来た。車も通る気配がない。鳥や蝉の声がよく耳に届き、今は潮の香りが漂う海岸沿い。人が少ない、静かな場所。しかし、今、目の前にはどういうわけか自分に付いてくる少女がいる。騒がしく泣くことも笑うこともない。言葉を口にしないで黙々とあんみつを食べている。不思議と少女といるこの時間は心が落ち着いている。最初はそうでもなかったというのに、時間が経つだけ、心が落ち着いていく。この無垢な笑顔に癒されているのだろうか。それとも、ただ少女が何もしゃべらないことで祖母や祖父のことを忘れさせてくれているのか。

 ――大学に入ってから伊織の生活習慣はガラッと変わった。服装も、髪形も、おそらく気付かない内に言葉遣いも変わってしまっていたのだろう。ここに来る前に、伊織は祖母と祖父の二人と大喧嘩をした。大喧嘩といっても伊織が一方的に熱くなってしまった結果の事態だ。

 元々お節介な性格をしていた二人は、伊織の変化に不安を感じていたのだろう。それをきっかけに言い争いなり、伊織は止める二人を振り切って家を出てきた。一人暮らしを始めるにはいいきっかけになった、と最初は思っていた。それだけの資金もバイトで稼いで、実のところ準備も進めていた――だが、伊織は躊躇っていた。

「ごちそうさまでした」

 定食屋を出て、少女は少し欠伸を漏らした。眠たくなったのか、しかし少女は伊織の隣に来るとニコッと笑って前を向いた――伊織はあまり笑顔を浮かべない。無表情というわけではないが、それほど感情を表に出すことはない。人とは少し違う環境に身を置いているということがコンプレックスになって、人付き合いがあまり得意ではなかったせいでもある。

 変に目立たないように、静かに過ごすため。大学生になって交流の幅が広がり、多少は表情も豊かになったつもりだった。だが、感情を表にあまり出さない、ということは変わらないまま成長してしまった。ところが、祖母と祖父、二人と喧嘩した際、伊織は今まで誰にも見せたことのなかった怒りの感情を表に出してしまった。驚く二人の顔は今も脳裏に焼き付いて消えてはくれない。今も二人が自分を止める声が耳に残っている――忘れたい。聞きたくもない。もう自分は大人になった。自分で生きていける。祖母と祖父はいつまでも自分を子供扱いする。グチグチと生き方に口を出してもらいたくもない――だから伊織は家を飛び出した。

 突発的な行動で荷物は置きっぱなしだが、二人が留守の間に全部持っていく。それでお終い。あの家とは、祖母と祖父とは、それでお別れ――そう、考えていた。しかし、伊織は躊躇っていた。

 少女が揺れる自分の手を握ってきて、眠たそうに目をこすっていた。伊織はふと祖父の姿を思い出し、そっと少女の前に行き、屈む。

「……おぶってやる」

 小さい頃、腰を痛めていたにもかかわらず自分を背負ってくれた。父の代わりに、祖父は無理をしてくれた。

「何を思い出しているんだか……」

 そんな過去のことを思い出しても、もう元には戻れない。おぶってくれた祖父とも、家に帰ると温かい笑顔でおかえりと言ってくれた祖母とも、もうお別れなのだ。あれだけ酷い別れ方をして、きっとあの二人もお荷物が減ってすっきりしたことだろう――しかし背負った少女の寝息が、温もりが、身体の強張りを解していく。

 躊躇っている。それは、バスの中ではなかったものだ。この少女と一緒にいると、どこか懐かしい気持ちになってしまう――早く、少女を引き渡して一人になろう。

 緩い坂道を登り切ったとき、伊織は定植やから少し離れた場所山側に民宿を見つけた。少し足が痛くなってうめき声を上げると、目を覚ました少女が肩を軽く叩いた。どうやら下りたいという意思表示。すぐに伊織は少女を下して腰をさする。すると少女は真似をして伊織の頭をさすってきた。つい笑いそうになったが、表情が緩むことはなかった。

 すぐ着くだろうと思っていたが、想像以上に町は遠かった。明日の朝に民間のコミュニティーバスが通るらしく、今夜はこの民宿で伊織は過ごすことにした。とはいえ、一つ問題があった。いつまでも付いて来る、この少女だ。

 二人分の民泊料を払うことに何の問題はないが、見知らぬ少女と寝泊りするのはいかがなものか。考え込む伊織を余所に、少女はあちらこちら走り回り、従業員が来ると民宿の中に入ってきたトンボを追いかけてそのまま追いかけて外に出て行ってしまった。

「素泊まり一部屋三千円ね」と店員に言われ、三千円を支払ったところで、迷った挙句伊織は訊ねることにした。

「一人、連れがいるんですが……」

 恐る恐る訊ねた伊織に、店員は素っ気なく「ええよぉ、別に二人やからって料金を倍になんかせんて。晩飯は言ってくれたら何か準備するよ」と鍵を取り出し、伊織が払った三千円をポケットにねじ込んだ。


 あまりにも呆気なく、むしろ気楽になれた伊織は案内にされた部屋に入ってすぐに寝転んだ。畳の香りが懐かしくなり、大きな欠伸をしてうとうとし始める。そこにあの少女が走り込んできた。伊織の腹に小さな足が減り込み、眠気が一気に吹き飛ぶ。むしろ昇天しかけた。

「おい! 走るな!」と痛みを堪えながら少女を捕まえる。ケラケラ笑っているようだが、声は聞こえない。不思議ではあるが、とにかく騒がれて変な目で見られたくはない。

「どうして俺に付いて来るかな……」

 困り顔の伊織と相反するような眩しい笑顔の少女。何が理由で付いて来るのかはまったくわからない。かといって放っておくのも忍びない。

「……少しの間だけだからな?」

 言っている意味がわからない、そんなふうに笑う少女を前に、伊織は立ち上がって首を鳴らした。

「風呂入って、少し休んだら飯にするか」

 うん、と言うように大きく頷いた少女が部屋を出る。部屋にあったタオルを二枚手に取った伊織は、まるで自分が親になったような感覚に、下りかけていた階段で無意識に立ち止まった。少女が下で伊織を見上げて手招きをしている。

「…………ったく、人の気も知らないで」

 いろいろと考えるのをやめた伊織は、夕飯に少女と何を食べようか思案しつつ、階段を下りていく。時刻はちょうど三時を回ったところ、二人は浴場へと向かった。


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