第9話
ーー自室。
「…さて、何となく人助け?はしたけど次はどうすっかなー」
マーリンの人生復帰作戦は成功し、俺はいい事をした満足感に浸っていた。
とりあえずあのバカ女神について情報を集めるのが先決だが、これといって上手い方法が見つからなかった。正直、あの女神がおとなしくしてくれれば俺だって苦労しないのだが。
「そもそも女神は僕らとは次元の違う存在だからね。個体の数から何もかも、謎多きままなんだよ」
「だよなー………ッて、なんで居るんだ⁉︎ここ俺の部屋だぞ?」
当たり前の様に部屋で寛ぐカルロ。なんだ、こいつ幹部って言う割に暇なのか?
「いやいや、ユーリが早く一人前の暗黒騎士になれる様、とにかく世話を焼きたくて仕方なかったんだよ」
「…そうかよ」
大袈裟に手を広げ天を仰ぐ様に立ち上がる。ペラペラとよく喋るやつだが、平気で盗聴器紛いのものを仕掛けるコイツに俺は警戒を怠らなかった。
まぁこいつからしたら、単に人間に興味があるだけかもしれないのだが。
「さてユーリ、話は戻るが君は残りの幹部には会ったかい?」
「他の幹部?…ああ、あのでけぇドラゴンとドス黒いスライムか?」
外で見た幹部らしき魔物。確かにこの城に来てカルロとフィーネとは話をしたが、残りの二匹にはまだ会っていなかった。
「そこで、だ。僕はユーリが1日でも早く馴染める様にと歓迎会を開くことにしたんだよ。魔王様と幹部全員を集めてね」
「は?」
「連絡はしておいたから、もうすぐ集まる筈だけど」
「あ?何勝手な事いってーーーー」
ーードスン!
カルロと話をしている最中に突然地鳴りが起こる。全体的に部屋が揺れているのか、断続的にそれは続いた。
「な、なんだよ!地震か⁉︎」
「いや、来たみたいだね」
すると、遠慮無しにドアが勢いよく開いた。
壊れるんじゃないかって位の勢いで開かれ、結果的にドアは吹き飛び粉砕された。
そして、狭そうに部屋に入ってくる魔物に俺は固唾を飲んだ。
「がはは、来たぞカルロ。お?そやつが新しい暗黒騎士か?」
「やぁ大将、相変わらず豪快だね」
ドアを壊した馬鹿でかいドラゴン。この部屋自体はかなり大きな作りとなっているが、それでもその巨体を収めると一気に狭く感じる。
いや、そもそもドラゴンを部屋の中に招き入れる事自体が異常なのだ。
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「おいこらデカブツ!ドア壊してンじゃねぇよ!」
「ウン?軽く小突いただけなんじゃがな。悪い悪い、怒るな若造!器の小ささはナニの小ささと言うが若造もそうなのか?がっはははははは!」
多分、こいつもあまり話が通じるタイプではないのは即座に分かった。なんだ魔王軍の奴らはクセが強いのしかいねぇのか?
俺は色々と諦めかけソファに腰を下ろす。すると、尻に変な感触を覚えた。
ーズリュン。
それは生暖かくヌルリとし、弱めの弾力でまるでウォーターベッドの様な感触で俺の尻を受け止める。
よく見ると、そのプルプルした黒い存在が座布団の様に薄く伸びていた。多分、これ外で見たスライムの幹部だろう。えらく大きさが控えめであるが、毒々しい外観ゆえに見間違う事は無かった。
「おわッ⁉︎いつの間に……お、おもいっきり座っちまったけど…大丈夫か⁉︎」
俺が心配そうに声をかけると、スライムはズルリとソファから垂れ落ち大きく形を変えていった。
そして、それはやがて人型となり見違える様な姿へと変貌した。
「ーーふぅ……大丈夫ですわ。ご心配ならさないで下さいませ。ああ、殿方の臀部がわたくしの上に……うふ、くふふふふふふ」
ゆったりとした口調で話し出したスライム。いや、今は人型でありその外見はまさに女性の姿をしていた。
色味もかなり明るくなり、随分と違った印象を受けた。やや、喋り方に狂気を帯びているがそれは一旦置いておこう。
それより気になるのは、変身したが故に見た目がどうみても全裸なのだ。スライムだから当たり前といえばそれまでだが、人の形をしている所為で目のやり場に困る。
「?…どうされましたかユーリさん?わたくしの顔に何か付いていまして?」
「べッ……べべべ別にぃ⁉︎」
「大丈夫だよアウラ、ユーリは童貞だから裸同然の君の姿に興奮してるだけさ」
「まぁ!」
「おいコラ、カルロ!てめぇ余計な事言ってンじゃねぇぞ⁉︎」
「あらあらまぁまぁ、でしたら前にカルロさんから頂いた………んしょ……はい、これでどうでしょうか?」
アウラはどこからかシャツを取り出し身体をくねらせそれを着る。まぁ一応隠すとこは隠せている為、これで目のやり場には困らなくなった。
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「…あ、ああ。とりあえずそれで頼む」
しかし、このシャツを買ったのがカルロだとするならコイツの服のセンスは絶望的だ。無地の白シャツに刻まれる「こんにゃく」の文字。いわゆるダサTというヤツなのだろうが魔物のセンスとはこんなもんなのだろうか?
「なんだ?またユーリが女体に興奮していたのか?お前も懲りない奴だな。若いとはいえ多少は控えた方が良いぞ?」
後方で声がしたかと思えば、ニヤニヤとしながらフィーネが此方を見ていた。やめろ、その目つきは何だか腹が立つ。あとお前の俺に対する認識は多分おかしい。
下手に絡むと話が逸れるので俺はこれ以上ツッコむのを放棄した。そして、カルロはフィーネの姿を確認すると俺を御構い無しに手を叩いて皆を注目させる。
「さぁ、全員集まったね。ではこれより「ユーリ君を歓迎する会」を始めようじゃないか!!」
「「「おーーーーーー!!!」」」
こうして、混沌とした歓迎会が幕を開けた。
勇者の肩書きを捨てて魔王に寝返り暗黒騎士はじめました 名無し@無名 @Lu-na
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