第7話
コスプレ魔法使いと戦う事になったが、どう攻めていいか悩んでしまう。
デュラハン戦で聖剣と勇者の能力を失い、デフォの俺のレベルだけが上がった状態だ。だからさっきの咄嗟の回避行動など、基礎能力の増大はある程度実感している。
しかし、あの魔法を相手取るには些か不安が残る。そう、今の俺は自分の能力を掌握しきれていないのだ。
(こんな事なら、魔王城で手頃な奴に相手してもらえば良かったなー)
一応背中の魔剣を抜きながら構えはとってみる。雰囲気だけで凌ぐには辛い相手かもしれないが贅沢は言ってられない。
しかし、そんな俺の耳元で何かノイズの様な音が響いてきた。
『ザーッ…ザーッ……あーテステス。聞こえるかいユーリ?』
「!?……その声、まさかカルロか!?どうして…」
『いやーその鉄仮面は僕のお手製でね、予め通信機を埋め込んでいたんだよ。しかも視界は僕の部屋に映像として出力できる優れものさ』
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「ちッ…盗撮に盗聴まがいの事しやがって」
『ははッ、でも悪いことばかりじゃあないよ。この戦いを乗り切る術を僕は知ってるからね』
「!?…マジか」
『ああ勿論だとも。君はまだそのデュー君の鎧や魔剣の能力を知らないだろうからね。とりあえず簡単に説明していくから適当に戦っててよ』
「お、おう!」
「何をさっきからブツブツと!!来ないなら此方から行くぞ……巻き起これ爆炎!【ボルカニックトルネード】‼︎」
初っ端から恐らく上級魔法と思われる術を放ってくる。元々回避に専念するつもりの為、直ぐに横に飛んでなんとか避けることが出来た。
『いいね、じゃあ説明するよ。まずデュー君の能力…それは鎧になった今でも残っているのはコッソリ確認させてもらったんだ。つまり鎧と剣に付加された能力は、そのもま君も扱う事が出来る』
「ーーっとと、じゃあなんだ?凄い攻撃でも出せんのか?」
『攻撃もそうだが、デュー君の筆頭すべき点は守りの強さ。火、水、風、地、氷、光、闇……この地で生まれるマナに対する絶対魔法耐性を有しているんだよ。後は純粋な防御力だね、ギガントドラゴンの重さにも耐えれる硬度を誇る。つまり魔法は勿論、属性を付与した技でさえ無敵という訳さ』
「…おい待て、つかアイツがどうやって俺に倒されたか見てたろ?聖剣とはいえ俺のザコい剣技で一撃だったじゃねぇか!?普通に光属性にやられてンだからな!?」
『君は大きな勘違いをしているね。僕は言った筈だよ「この地で生まれるマナ」だって。恐らくあの聖剣に付与されている属性は『聖』。光属性なんてヌルいもんじゃあないし、天界にしか存在しない属性だろうね。後はあの聖剣のスペックが馬鹿げているんだろう。女神が直々にカスタマイズしたのなら、外傷は無くてもデュー君の核だけを消し去る攻撃でも出来るんだと推測できる。まぁ典型的なチート武器だったという話だよ』
「…何だか壮大な様で薄っぺらい話だなオイ。じゃあ何か?アイツの放つ魔法は食らってもノーダメって事でいいのか?」
『理論上はそうなるね。試してみたら?』
「……嘘だったら殺すかんな」
『その前に君が死ぬけどね』
「ちッ…どの道、それは確かめとく必要はあるし………ええい!なる様になれ!!」
俺は腹を括り逃げるのをやめた。
そして、コスプレ魔法使いはそれを見るや否や杖を構えて詠唱を開始する。しかしながら、殲滅すると決めた相手に対して躊躇の無さが気持ちいいレベルだと思った。
やがて、女の周りに大気が渦巻くとカラフルな光が織り混ざりながら増幅する。
「火よ、水よ、風よ、地よ、氷よ、光よ、闇よ!!この世界を構成せし力を集いて、我が仇なす敵へと撃ち込め!!」
激しい魔力に大地が震える。恐らく、こいつの有する魔法の中で最大のものだろう。商人の息子で街から出ない俺にとって、先程の火系の魔法でさえ見たことも無かったが、これに至っては想像すら追いつかない程に強力なものだと本能で理解した。
「お、おい…本当に大丈夫なのかよコレ…!」
『まぁあの詠唱の口上が本当なら大丈夫だね。むしろこの一撃で全属性への耐性を確認できるチャンスだと思うよ?そもそも『聖』なんて属性は普通の人間の扱える代物じゃないし君の負けは無いさ』
「まだブツブツと……ではこの魔法で消し炭にしてやろう!!万象の理を凌駕せよ!【エンド・オブ・エレメンツ】!!」
放たれた莫大な魔力。この地に溢れる全属性を帯びたその衝撃は俺を全方位から囲い、逃げ場を無くした上で一瞬の内に降り注いだ。
「お……!うぉぉおおおおおおおああああ!!」
「どうだ!消え去れ悪しき魔物め!!」
尚も降り注ぐ魔法。視界はずっと白く染まり絶えることは無かった。
そして、数分間に及ぶ魔法攻撃が止むと消炎が辺りを支配する。だんだんと晴れていくが、その攻撃に大地は抉れその威力の爪痕を色濃く残していた。
ーーーーが。
「ま、マジじゃねぇか……すげぇ!」
『うん、見立ては間違いなかったね』
そこには傷一つ無く、ピンピンとした俺が立っていたのだ。
いや、カルロの話だって半信半疑だったから本当に驚いた。痛みもなければ衝撃もない。何となく雰囲気で「うぉぉおおおおおおおああああ」とか言ってみたけどビクともしなかった。
「う……そ?」
自らの全力を打ち付けた筈が、無傷であった事に女は落胆し膝をつく。カランと転がる杖の音だけが虚しく鳴り響いた。
「わ、私のこれまでの人生は……い、一体なんだったのだ?羞恥に耐え、魔法に全てを注ぎ込んだのだぞ?なのにーーー!!」
「…………」
その落ち込みぶりに少しだけ罪悪感がこみ上げた。あのデュラハンもそうだが、俺は他人の力で誰かの積み上げたモノを簡単に壊しているのだ。
そうした思いが俺を突き動かしたのか、知らず知らずに足が前に出ていた。
そして、無意識の内に魔法使いの女に対し手を差し伸べていた。
「くッ……魔物に同情されるなど屈辱!殺せ!一思いに殺せぇ!独身で孤独死を待つくらいなら戦いで死んだ方がマシだ!」
「簡単に死ぬなんて言うんじゃねぇ!!」
「ーー!?」
「確かに努力だけでどうにかならない事もある、それは俺だって分かる!だけどな、そこで終わっていいなんて俺は認めねぇ!格好悪くても、ダサくても、足掻いて足掻いて生き抜いた奴の方がカッコいいじゃねえか!?俺だって、何とかドン底でも道を見つけてそれを進んでる!あと童貞のまま死ぬわけにはいかねぇ!!」
「……それは」
「だから……これは提案なんだが」
「…?」
俺は勇者を放棄し、結果としてコイツの人生をかけた魔法使いという生き方を否定してしまった。これはどうあれ変えられない事実。
ならば、俺がコイツにしてやれる救いがあるとすればコレしか思いつかなかった。
「ーーーー俺が…お前がモテる為に必要な事を教えてやる」
「…は?」
俺はこうして、世界を救う前に30代を目前とした魔法少女(?)を救おうと決めた。
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