第6話
「さってと、どうするかなー」
魔王城でイキって大風呂敷を広げたものの、割と広大な大陸で果たして何が出来るのだろうか。
幹部だが俺だけは例外として人間界に干渉していいという話だが、ハッキリ言ってどこから手をつけて良いか分からないままである。
目先で出来ることと言えば、あの狂った女神が俺以外の人間にもホイホイと勇者の資格を与え、魔王軍に攻めてくる事くらいではあるが、その女神に関する情報なんて仕入れるアテもない。
「八方塞がりか……しかし鎧ってやつは暑いな。めちゃくちゃ蒸れんじゃんコレ」
フル装備で顔までカルロにもらった鉄仮面で覆った所為もあり通気性ほぼ皆無だ。その鎧の洗礼が容赦なく遅いかかる。
元々デュラハンは肉体を持たない魔物だったが、この装備自体はなんでも遥か昔は人間の鎧だったそうな。それ故に、なんとも香ばしい年季の入った臭いが充満していた。
消臭魔法という都合のいい魔法をカルロが扱えた為、今は無臭だが効力は3時間程度らしく、外での活動中に切れようものなら己の汗と相まって激臭となるのは必至だろう。救いなのは、俺がワキガで無かった事くらいか。
「あー…偵察って言ってもどうすっかなー。顔が割れてる可能性があるから人間の格好で出歩く訳にはいかないし、でも街で情報集めるならこの格好は駄目だろうし…」
林の中で頭を抱える。昔から活発では無いが、変なところだけ勢いのある自分の性格と行動力にため息がでた。
ーーガサガサッ。
「あん?」
後方の茂みより何やら物音が聞こえる。
魔物か?まぁこんな鬱蒼とした場所だ、魔物くらい居て当然と言えば当然だろう。
しかし、その正体は俺がそれを確認するのを悠長に待ってはくれなかった。
「ーーーーあぶねッ!」
一瞬だった。
俺の顔面目掛けて高温の何かが放たれる。ギリギリで回避したが、その熱源は後方にある木に命中し炎上していた。
驚きと困惑に地面にへたり込むが、それを見て魔法を放った主が茂みより現れ、杖をガンと地面にぶっ刺し悔しそうな声をあげた。
「避けられたか……不覚…ッ!」
その正体は人間の魔法使いの女である。
しかし、何か違和感があり俺はまじまじとその顔を見た。
「ーふん!魔物のクセにやるな!次こそは私が屠ってくれる!………って、何をそんなに見ている?」
「……あ、いや」
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俺はやっとその違和感に気づいた。
ーーそう、多分この女、そこまで若くは無い。
そのクセ全体的に明るめの服装で、薄いピンクや白などのカラーリングとなっている。魔法使いと言うよりは、どちらかというと魔法少女のそれだ。
しかしながら顔にはきっちり年相応の化粧を施し、推測だか20代の後半なのは間違いないだろう。短めのスカートもそうだが、ハイソックスとの間に見える太もものムッチリ感、あとノースリーブの無理してる感がそれを物語っていた。
「……なぁ、アンタもしかしてアブナイ系の店の店員じゃないよな?」
「ーーーーッ⁉︎」
素直な感想を述べた。しかし、それを聞いたコスプレ感満載の魔法使いは、怒るかと思いきや涙目で赤面し反論してきた。
「き、貴様もそれを言うか‼︎…確かにこの格好はもうキツイ…私だって理解している‼︎だが、誓約の所為でこれ以外の服が着れないのだ!」
「…誓約?」
「くッ…魔物相手に話しても仕方ないがいいだろう。これはな……魔力増強を目的とした伝説の魔法衣なのだ。着た上で鍛錬をすれば、通常の倍の速度で魔力が増大する。しかし……こんな…こんな筈では無かったのだ」
恥ずかしさを堪えながらの、コスプレ魔法使いの言い分を要約するとこうである。
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まず、こいつは魔法使いになる事が幼い頃からの夢だった。そしていつかは勇者一行のメンバーとして活躍できる様に毎日修行に明け暮れていたらしい。
そんな中、なんと何故か通販で売られていた伝説の魔法衣を買ったのが発端だった。
そしてこの衣装は、開封時に誓約を課す事で能力を発揮するとの事で、無邪気な少女は「勇者パーティに入る」と誓ったらしい。当時は12歳で周りもまだ微笑ましく見てくれていた。そして確かにこの魔法衣は本物であり、彼女はズバ抜けた魔力を得る事が出来たのだ。
ーーしかし年月が経ち、18歳で進学した魔法学園で事件が起こった。当然、あの衣装は風呂に入る以外は常に着用しているのを念頭に置いてもらおう。
ここは魔法に関するサークルが多く存在し、彼女はその中でも一番所属する人が多いサークルに入ったらしい。魔法に対して志の高い人が集うと胸に信じて入ったが、それはあまりに現実離れしたものだった。
そう、それは魔術サークルと言う名の「飲み会サークル」だったのだ。
皆が派手な格好で、しかも魔法学園にも関わらず杖さえも持っていない様な男女が集い、日夜ずっと飲み会を繰り返していた。
それを知らず、新人歓迎会に赴いた彼女を待ち受けていた洗礼は言葉にするのも酷い。
「あれ?君コスプレして来たの⁉︎ウケるー!」
「ねぇ、あの子ヤバくない?」
「ぷふッ…ぎ、逆にイケてんじゃね?写メっていい?」
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「あの時から全てが崩れた。正直、この格好だって私自身は特に嫌いでも無かった。しかしあれからと言うもの、あの光景がフラッシュバックしこの服も嫌いになった!私は悔しさをバネに一心不乱に魔法に打ち込み、なんとか実力をつけて勇者一向に加わる為に励んだ…‼︎しかし、実力はついてきたが学園生活も浮いてしまい男性と恋に落ちる事も無く、成績だけは主席で卒業を迎えた!そして今日まで勇者に巡り会えず、結婚適齢期を迎えてしまったという話だ!」
「………お、おぉう」
「しかも!この服は私の成長に合わせて勝手に大きくなるのだ!こんな親切設計なんて要らない!有難迷惑もいいとこだ!あぁぁあああぁああアアアアアア!!」
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波乱万丈だけで片付けるには重たい人生。この魔法使いコスプレ女は、俺の想像を絶する生き方をしてきたのだ。
「しかもだ!勇者が現れたと聞いたが何故か数日で撤回された!大した理由の説明も無くだぞ⁉︎おかしいだろ!私にとって勇者とはこの服を脱ぎ捨てる為のキーパーソンなのに‼︎」
(いや…これ仮に俺が勇者を辞めてなくても、パーティメンバーとして連れて行かないからな?)
「…そこで私は決心したのだ。勇者のパーティに入れば脱ぎ去る事が出来るなら、私が自ら勇者になればいいと。魔法使い兼勇者として魔王を滅ぼしこの服も滅ぼしてくれよう!」
成る程、その先駆けとして俺を駆逐しようとした訳だな。先ほどのヘッドショットや威力といい、実力は本物だろう。
「貴様、見たところ普通の魔物では無いな?まさか魔王に仕えているとされる幹部ではあるまいな?」
「…えらく察しがいいな。確かにその幹部の暗黒騎士をやっている」
「なら話は早い、ここで私の魔法で消し炭としてくれよう‼︎」
ーーこの時、俺は余計な言い訳も嘘もつかなかった。
だってこの手のタイプって話聞かないじゃないか。
だから俺は、殺さない程度に真っ向から受け止めて打ちふせると決めたのだ。
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