第4話



 覚悟を決め聖剣を握りしめてデュラハンに向き直る。


 もちろん勇者だから魔王軍を倒そうなんて考えていない。ただ、あらゆる理不尽から己を守る為の行動なのだ。


「…ふん、流石勇者といえる。その出で立ち、溢れ出る闘気……賞賛に値するぞ!」


 俺が剣を構えるとやたらとテンションを上げてくるデュラハン。いや、出で立ちもクソもこちとらシャツにズボンだ。鎧も無いんだぜ?そして闘気なんてものは微塵も出ちゃいない。

 しかし魔物といえど剣士のサガなのだろうか、騎士道を前面に押しだしてくる感じが苦手だ。暑苦しいことこの上ない。


 そしてデュラハンの身体だが、首が無いのは当たり前だとして鎧の継ぎ目、つまり関節にあたる部分に目が行った。よく見ると、関節となっている所は紫色のオーラの様なもので繋がっており、首だけでは無く肉体すらも無いという事らしい。


(これ…そもそも剣で斬って倒せんのか?)


 普通の魔物なら叩き斬れば倒せるだろう。しかし今目の前にいる相手は肉体を持たない鎧のバケモノだ。鎧ごと斬るにしても素人の剣技でどうにか出来る訳もない。


「さぁ勇者よ!最高の戦いにしようぞ!」


 ごちゃごちゃ考えていたが、勝手に盛り上がっていたデュラハンが剣を構えて走り出してきた。

 いや待ってよ、まだ心の準備が出来てない。




(だが、迷ってる……暇は無ぇか…!)





 俺は考えるのをやめ、一心に剣を縦に振るった。















ーーザンッ!!













「……………み、見事…だ」


「…は?」




 ガラガラと崩れ去るデュラハン。



 それは人の形を成さない鎧となって地面に散らばった。

 俺の攻撃に魔王軍に騒めきが起こる。そりゃそうだろう。魔王軍の幹部が一撃で沈んだのだ、無理もない。


 そして一番困惑しているのは俺だ。


 ズブの剣の素人が、魔物の幹部、しかも剣を扱う奴を一撃で屠ったのだから。





 やがて立ち竦む俺の目の前に、光が収束して見たことのあるシルエットが現れる。


『おほー、流石は聖剣エクスカリバーだね!オリヴィアちゃんのフルカスタム Verはダテじゃないか♫』


 突然現れたクソ女神。こいつ、肝心な時には居なくなったクセに神出鬼没すぎだろう。

 そして何故か自慢気にペラペラと喋り出した。


『これは元々聖剣だったものに私が独自のカスタマイズを施した一振りでね、まず相手の能力と自分の能力を同格まで引き上げるの。そしてコッチだけに上から5割増しの補正が掛かる神魔法が付加してあるから、いわば誰が相手でも無敵って寸法よ。いやー苦労したけど自慢の剣でね、嬉しくて直筆のサインまでしちゃった。テヘ♫』


 バチッと音がしそうなウインク。しかし、女神の言うことが本当なら言葉通り無敵じゃないか。原理は分からないが、神の操る魔法というのは本物らしい。


「…すげぇ」


『んふふ、さぁユーリくん!その剣で魔物をバッサバッサ斬り倒して勇者として名を挙げようか!いやーこれで私もポイント稼げるわ、今度の天空議会で昇格間違いないねコリャ』


「…ぐ、勇者がよもや此処までやるとは!」


 女魔王の顔に焦りが浮かぶ。まぁそうだろう、今まで干渉してこなかった神の存在がここまで強大だとは思わない筈である。そして女魔王だって即位したばかりだと言うなら、いきなりこの様な事態に陥って冷静なれというのは酷な話だ。


『ひれ伏しなさ〜い!下賎な魔物達!今までは私の上司が邪魔して殲滅出来なかったけど、その上司ももう居ない!なら私がスタイリッシュかつ迅速に世界平和をもたらしてあげる!』


「…あ?待て女神、上司が邪魔してって何の事だよ」


『ん?いや魔物がいても世界の均衡がどうとか言う甘ちゃん上司が居たのよ。だけどおかしくない?均衡を保つのって魔物がいるから大変であって、それを排除したら終わりじゃん』


「……………」


『でもさ、それを言ったら上司が言うの。「この世界はそんなに簡単では無い」だって。いや、いやいやいや!シンプルこそ正義でしょ?こーれだから歳をとると考えが固くて嫌だわー』



 女神はツラツラと喋るが、その言葉は俺の中に響いた。確かに魔物は危険だ、命に関わる場合だってある。しかし、今のこの世界の均衡は確かに魔物が居て成り立っているのも頷けるのだ。

 仮に居なくなれば失ってしまうものもあるんじゃないか?


ーーここで簡単に決めていい事じゃない。


 それに女神の上司の言葉が本当ならこの女神を野放しにするのは人類にとって良くない。天真爛漫なのはいいが、世界の理に関わる女神には適していないと心底思った。それはあの国王達を見ても一目瞭然だろう。




『さ、ユーリくん。スパッといっちゃいなよ!』


「…………」


『……どしたのかな?』


「…………」















「……決めたわ」


『ん?』








 俺は女神に向き直り、そして聖剣を地面に刺した。柄を握ったままなら先程の得体の力が発動するみたいなので、俺は柄を握ったまま思いっきり聖剣に蹴りをお見舞いした。






ーーバキィ!!







『は!?……ちょ、は?…えぇ!?』


 見事にポッキリと鍔の根元から折れた聖剣。すると、先程の魔法の力が消えていくのが分かる。そして女神をはじめ魔王の軍勢が驚きの表情を浮かべて観ていたのだ。




「あのさ、俺は世界がどうとか分からねぇけど、多分お前の目指す所が間違ってると思うんだわ」


『…どうゆう事?』


「魔物だから殺すってのは短絡的だって事だよ。確かに危ない存在だが根絶やしにするのは早合点だってんだ。前の魔王だって、その気になれば人間なんていつでも殺せただろ?だけどしなかったし、お前の上司も同じ感じだろうがよ」


『そ、それは訳の分からない条約を出してきたからーーーー』


「だからそれにも何か訳があるんじゃないのかって話だ。もう少し客観的に見てみないと分からない部分もあるだろ」


『……女神に逆らうの?勇者なのに?』






「……………」














「なぁ魔王、俺をお前の仲間にしてくれねぇか?」


「!?……は?」


『いやいや!ちょっ…本気で言ってんの!?』


「ああ、お前との話が平行線なら俺は俺なりに考えてみるわ。魔王やお前の上司が何を考えていたかをよ。聖剣は折れて使い物にならねぇけど、さっきの戦いでかなりレベルアップしたし。多分、あのデュラハンと同じくらい強くなった気がする……だから魔王、俺をデュラハンの代わりに雇え」


「………本気か、勇者?」


 女魔王は困惑の表情を崩さない。


「ああ、そんで勇者の称号は熨斗つけて返してやるよ女神。俺は今日からーーーー」



 俺は落ちていたデュラハンの鎧を身に纏っていく。そして魔王軍の方へ歩み寄り、女神に向き直ると宣言する。













「俺は今日から、魔王軍の暗黒騎士としてやっていくわ」

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