第3話



ーーなんだかもうウンザリだ。


 突然勇者に選ばれて


 突然へんな白服に拉致られて


 そして牢屋にぶち込まれ


 あまつさえ頭のおかしな女神に絡まれる始末。





『んふふ、まるでラノベ主人公みたいな口上だね♫やれやれとか溜息ついたりラッキースケベが連発するのかな⁉︎』


「ねぇよ馬鹿かよ」


 言葉を交わす度に、少しずつ何かが擦り切れる感覚。あぁ、多分これ俺がダメな人種…もとい神種に違いない。

 国王も顔を背けているし、こいつらも多分この馬鹿女神に振り回されている側なのだろう。


 だとすれば道は1つしか無い。魔王側の意向は「勇者が現れなければ世界は滅亡させない」だ。

 ならば、なんとか此奴をやり込めて勇者の資格を剥奪させる他にないだろう。俺は必死に頭を回転させこの状況を打破しようとしたが、この方向にぶっ飛んだ奴に出会った事がないので直ぐには何も浮かばない。


『んん〜どうしたのかなユーリくん?』


「あ?どうやって馬鹿女神を上手い事やり過ごせないか考えてんだよ」





ーーしまった、そのまま口に出てしまった。


 俺は恐る恐る女神の顔を見上げてみたが、こいつはニコニコするだけで特に怒ったりもしない。それが逆に不気味だ。

 こんな浅い言葉ばかり吐く奴の懐が深い訳が無い。ならば何か企んでいるに違いないが、俺がそれが何かを突き止める前に、この女神は爆弾を放り込んで来た。


『でもぉ〜、もう少しやる気を出した方がいいと思うよ?』


「…なんでだよ」


『だって、もう直ぐ魔王軍が攻めてくるから』


「………………」




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「……はぁ⁉︎」


「なッ…め、女神⁉︎我々はそんな事聞いてないぞ⁉︎」


「ど、どどどどうしましょう国王!!」


 慌てふためく国王と大臣。それもそうだ、俺だって意味がわからなすぎて変な汗が吹き出してきた。


『いやー勇者降臨の儀が上手くいってぇ、私嬉しすぎてその足で魔王の城に行ったのよ。んで、勇者が現れたからって伝えたら顔色変えて進軍の準備を始めたの!急にバタバタしだして超ウケない?』


「ふざけんなよ!おい女神!じゃあ魔王はここに向かって来てるってのか⁉︎」


『もぅ、怒んないでよぉ!それなら安心していいよ』


「…あ?」


『だってぇ…』













『もうそこまで来てるから♫ほら行くよー!』


「⁉︎……ッ!なんだ、やめろ!!」


 突然、女神は俺に抱きついて光を纏い始めた。身体が浮くような感覚が支配すると、視界が揺らぎブラックアウトする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









「ーーーという経緯があったんだよ」


「ふむ、なるほどな」


 目が醒めると、俺は魔王率いる軍勢の真ん中に放り出されていたのだ。


 魔王にしても、事の経緯を割と静かに聴いてくれたのが意外だった。いや、むしろ少し面白そうだと言わんばかりに好奇の目を向けられていた感はある。



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 そもそも、肝心の女神は転移の後すぐに居なくなっており、傍にいかにも聖剣みたいなゴツい剣が雑に置かれていた。そしてご丁寧に刀身に汚い字で『えくすかりばー』と書かれていた。




「では、お前は勇者の資格を得たはいいが、元より勇者になる気はないというのか?」


「…まぁそうだな。なぁ、俺もいっこ質問いいか?」


「?…なんだ?いいだろう」


「じゃあ聞かせてもらうけどよ、いくら勇者が現れたっていっても、魔王が始めの街に幹部を全員引き連れて現れるってヒドくねぇか?こっちに勝ち目ねぇだろ」


 それを聞いて魔王は四天王と顔を見合わせたが、少し照れたような表情でボソボソ切り出す。


「いや、そのな…」


 歯切れ悪く話し出した女魔王。その話を要約するとこうだ。





 まず、勇者が現れるまで世界を滅ぼさないと条約を結んだのはこの女魔王の父親、つまり先代の魔王らしい。

 しかし、その魔王は昨日の夜に亡くなったらしく、まだ若いが女魔王がその座を引き継いだのだ。そして、今日は魔王の葬儀だったが馬鹿女神がそこに乱入して勇者の誕生を触れ回り、父親の遺言になった世界侵略をする為に、葬儀に参拝した部下を連れて来たという事らしい。



「すまんな、みな長い年月の間くすぶっていたのだ。私を始め、幹部クラスは容易に人間界に行く事を父上から禁じられていたので開放感でつい…」


「魔王様はおてんばですからねー」


「がははは!ワシは外の空気が吸えて気分がいいぜ。翼も思いっきり伸ばせるしよ!」


 仮面を付けた骸骨の神官と巨大な竜が笑う。その横にいた大きなスライムも笑っているのか身体を震わせながらプルプルしていた。

 女魔王も部下の談笑に乗っかっていたが、俺からすれば何一つ状況は好転していない。結局、勇者として剣を与えられて魔物の軍勢に放り込まれた事実は変わらないのだから。






「……その剣、まさか聖剣エクスカリバーか?」


 笑い声を断ち切る様に、低いがよく通る声が投げかけられた。視線を移すと、首の無い漆黒の鎧がこちらに向かい歩いてくる。


「…なんだ?首なし騎士ってやつか?」


「戯言を…我は魔王軍幹部、暗黒騎士デュラハンである。勇者よ、同じ剣の道を行くもの同士……手合わせしてみないか?」


 背中からスラリと剣を抜くデュラハン。言っておくが、俺は剣の道など歩んだ覚えはない。しかも、旅立つ前の勇者だぞ?俗に言うレベル1だ。幹部相手に勝てる訳がないだろう。


 しかし、俺の事など気にせずデュラハンは一人で盛り上がっていく。


「魔王様、このデュラハンめに勇者と戦う権利をお与えくださいませぬか?」


「そうだな…私も手合わせしてみたいがまぁいいだろう。一番まじめに勤務しているからな…皆、異論はないな?」


「僕は構いませんよ」


「ワシも構わぬぞ」


「……!」(構わないと言っている)


「満場一致だな…では暗黒騎士デュラハンよ!お前に勇者を倒す役目を与える!」


「ははぁ!有難き幸せ!このデュラハン…この剣で魔王様の名に恥じぬ戦いをお見せしましょうぞ!!」


 わーわー!

 やれやれーデュラハンさまー!

 がやがや…







 まるで何かのフェスかの如く盛り上がりを見せる魔王軍。え、何?俺まさかいきなり幹部ってかあのデュラハンと戦わなくちゃいけないのか⁉︎

 いや、勝てないだろ。めちゃめちゃ強そうじゃないか。なんか紫のオーラ纏ってるし、魔剣?的なのも禍々しくて足が竦む。


「さぁ、勇者よ!剣を取るがいい!」


「ちっ…!」


 このまま丸腰ではいけないと聖剣を手に取る。流石に伝説の剣だけあって羽の様な軽さだ。そしてやたらと手に馴染む感覚が、やはり勇者になったのだと痛感させられた。


(案外…いけるんじゃないか?)


 半信半疑だが少しだけ勝てそうな気がしなくもない。聖剣と言うくらいだ、邪な魔物相手なら何かプラスの補正があるに違いない。


「…やれやれ、仕方ねぇな」


 無意識にラノベのテンプレ台詞を吐いてしまいあのクソ女神の顔がチラついた。つか今から魔王と戦おうってのにどこに行きやがったんだあのボケ。


 元より自力でなんとかするしかないと踏んだのだ。俺は剣を握りしめて首なし暗黒騎士に向き直り構えた。


「…とりあえず、やってやんよ!」

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