第九章 クソゲヱの世界よ、ようこそ!<体験版>

第019話 √0-9 『ユウジ視点』『五月十一日』END



「――が俺は好きだ、付き合ってくれ」


 俺の一世一代の告白は


「ちょっとまって」


 彼女はそう言い残すと共に翌日、彼女はこの町から姿を消した。

 

 別れの挨拶なんて一つもなく、どこに行ったのかも知らされることもなく。

 ――は俺と――と姉貴を残していなくなってしまったのだ。



== ==



「……なんとか言いなさいよ。なんでっ、なんでってば!」


 今思えば――も相当にショックで、ヒステリックになっていたのだろう。

 その時の俺は無気力ながらもその非難の言葉が声が胸にずぶりと突き刺さっていた。

 だが俺は答えなかった。 

 堪えるのみだった。


「なんで……そんなことするの……どうして……っ」


 ――の泣きはらした瞳から再び一滴、そして。


「きらい……ユウ兄なんてだいっきらい!」 


 不幸な偶然が重なって、本当に軽く押したはずの――をキッカケに足を滑らして俺は階段から転げ落ちていく。



「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 泣くように、叫ぶ。その音が最後だった。

 聴覚がプツリとミュートにされたかのように面白く切断され、視界はテレビが寿命を迎えてブラックアウトするかのように黒に染まる。

 そして意識は闇に沈む。



== ==




「どうしたら…………の。もう……」

「お姉ちゃん……だからって……ぜんぶぜんぶぜんぶ………………っ!」


 その時姉貴は腕を振り上げた。

 もちろんそれに気づくこともない俺は、



「ユウジっ!」



 パチィンッ。

 

「っ!?」


 頬に鋭い痛みが走る。

 その痛みの正体を知ろうと、ようやく俺は姉貴の姿をとらえた。

 そこには姉貴がいた。涙に濡れていた、目元を真っ赤に腫らせて、悲痛の表情で俺に向かって。

 

「ばかぁっ!」


 そう姉貴らしくない言葉遣いで、いつもの何倍も人間味に満ちた表情で、姉貴が崩れ落ちるように膝をついて、俺の腹部を軽く叩き始めた。


「ばかばかばかばかぁっ! お姉ちゃんだって人間なんだよっ! 一人だけ悲しくないわけなんかないのにっ!」

「っ……っ!」


 声が出ない。


「――ちゃんがいなくなって、――ちゃんも閉じこもって、ユウくんもダメになって……どうしたらいいのよ! お母さんでも聖人でもないただのお姉ちゃんに全部おしつけないでよぉっ」

「ぁっ……」

「ユウくんがダメになったら私もダメになっちゃう……やだよぉ……ユウくんがこんな表情するの、ユウくんが私とお話してくれないのっ、目を覚ましてぇ……お願いだから……お……ねがいだから」


 姉貴が怒るのを俺は初めて見た。姉貴が俺に手を挙げたのも生まれて初めてだった。

 こうして懇願するように、叩くのも力尽きて俺の腰回りに顔をもたれかけさせて、泣き続ける姉貴を初めてみた。


 それで俺はだいぶ目を覚まされたのだ。



== ==



 中学三年生を迎えた俺は教室で一人、一人ぼっちを紛らわす為になんとなく買ってみたライトノベルを読みふけった。


 一人なら一人を楽しむべきだ、俺は休み時間誰とも話さずに小遣いをほとんど費やしたライトノベルで三年生の春は終わりを迎えようとしていた。

 その時だったのだ――


「お、下之ってハルヒとか読むんだな」


 声をかけてきたのは高橋マサヒロという、あまり接点のない男子だった。


「アニメ版とか見たことあるか? なかなかいい出来だぜ」


 オタク趣味ということで一部の女子には噂されていた……気がした。

 別にルックスが悪くないだけにオタクで損していそうな男子の印象だった。


「高橋……だっけ?」

「おう。今読んでるのは……消失か! いや消失は――」


 こうして俺はなんとなく買ったラノベから、オタク趣味に没頭していく――

 それが、高校卒業まで続く俺とマサヒロとユイのオタクグループの始まりだった。

 


* *



 ようやく夢から覚める。

 悪夢三本立てに、珍しく普通の夢一本の豪華四本立て。

 一夜に見るにしては大盤振る舞いすぎるだろう……。


 少なくとも三つの悪夢に関しては何度も夢に見て、起きた時の気分はいつも最悪といっていい。

 俺にとっての最大級のトラウマ、かつての俺・・・・・にとっての思い出したくない出来事三銃士とも言えた。



「かつての俺ねぇ……」



 中学二年最後、あの時から俺にとっての全てのことがガラリと変わってしまった。


 それまで俺の手にあったものは、殆ど失った――

 

 そして最後の一つさえも失うところだった。

 でもその最後の一つ……一人は手を差し伸べてくれた。

 何度俺が手を振り払っても、はたき落しても、背を向けても、無視しても。

 

 その一人は傷つきながらも手を差し伸べ続けてくれていたのだ


 これ以上何も失いたくない、と。

 これから手に入れて増やしていこう、と俺はようやく思うことが出来た。

 

 中学三年初頭。

 そこでマサヒロが声をかけてきた。

 更にユイと出会った。

 それからは騒がしいながらも楽しい日々が始まった 

 

 高校一年初頭。

 色々な期待を背負って入学して――今がある。


「…………」


 色々あったもんだ。

 失ったものは戻ってこなくても、新たに手に入れたものは失ってない――はず……だといいのだが。


「あ」

  

 いかんいかん、想いにふけるのも止そう。

 いくら夢に見ても、いくら考えても、いくら願っても。


 俺が失った人達、俺の失った時間、そして――俺の失った記憶は戻って来ないのだから。


 俺は記憶をいくらか失っている、おそらくは階段から落ちた時の後遺症なのだろう。

 そして都合が良いのか悪いのか、俺にとってのいい思い出の殆どを忘れ、悪い思い出の多くが残された。

 そんな悪い思い出ばかりが夢で再上映されるというものだ、神様は俺にそんなに優しくないのかもしれない。

 だからきっと、多くを忘れてしまった俺はかつての俺なんかじゃない。

 そんな俺はこの世界で主人公になってしまった……まぁ、何もない俺の方が都合がよかったのかもしれないな。


 過去を失くした俺にとっては今と未来しかないのだ。

 そんな未来が奪われてしまった。

 俺にとっての……皆にとっての未来を取り戻す為には、この一年間を抜け出す為にはこのクソみたいなゲームを攻略しないといけないらしい。


「……やってやろうじゃねえか」


 こうなりゃヤケっぱちだ、やれるだけやってやろうじゃねえか。

 かつての俺じゃ、現実の俺とじゃ付き合えないような可愛い女の子たちとこれから付き合えるんだろうから、それを少しは楽しんだって悪くないだろう。

 だから俺は――



「さて、起きるか」


 

 俺はこの現実を受け入れる。

 ……もっともその現実はギャルゲーとハイブリッドしたという、激しくクソゲーな代物なのだが。

 

 ――そんなこのクソゲーを俺の手で終わらせてみせる。

 

「よし」


 そうした決意と共に、俺の一日は始まった。



五月十一日



* *



 これは彼と彼女たちの繰り返される物語、そして何度でもやり直せる世界の物語。

 皆が前に進む為の、皆の願いを叶える為の、皆が幸せになる為の――現実とギャルゲーのハイブリッドでリミックスでカオスなモノガタリ。


 彼が例え何度忘れても・・・・・・、その度に一人の女の子と向き合っていく、そんな学園恋愛ストーリー。

 

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