第八章 下之家へのある意味侵略者!?<体験版>

第016話 √0-8A 『ユウジ視点』『???』

 俺は時折昔を夢に見る。

 夢そのものが記憶の整理とも言われていることもあって、俺はふと昔を夢の中で思い出すのだ。

 もっとも俺の見る夢というものはろくでもないものばかりだ。

 大抵が悪夢に近しいものであり、トラウマが蘇るような、いわゆる嫌な思い出ばかりが夢の中では再上映される。

 楽しかった思い出に関しての上映予定はなく、俺が夢を見るとなれば大抵は良くないものでしかない。


 だから夢なんて見ない方がいい、寝たらいつの間にか睡眠をとって朝目が覚める、俺はそれで十分だと思っていたのだ。

 


* *



 俺はゆるやかな覚醒などではなく、不意に寝てしまった故に飛び起きるようにして目が覚めると顔を上げた。


「はっ!?」


 こ、ここは何処だ!? 

 きょ、教室っ? え、俺寝てたよな! 家のベッドで寝てたよな!?

 ユイに続いて、自称神様にして超可愛いホニさんが住むにあたっての部屋の整備などをして、疲れで風呂に入ったらベッドに倒れ込んだはずだった。

 思えばここ数日の間に空き部屋を掃除したり物を移動したりと、部屋の整備ばっかりしている……主人公ってなんなんだろうか。


 そんな俺が今は何故か学校の教室にいて、そして教室の愛すべきマイデスクのマイチェアーに座って――


「俺……自分の部屋で寝てたよな?」

 

 思わず呟いてしまったが、俺が起きたとされるのは学校の教室だったのだ。

 それもおそらくは藍浜高校の一年二組、俺のクラスの教室に相違ない。

 机横にかかっている各クラスメイトの荷物や、黒板に残った特徴的なキズでさえも一致している。


 しかし、不思議なのは一年二組の教室の窓から見える景色は校庭と少しの街並みとそして海――の、はずなのだ。

 だが興味本位で立ち上がって窓際まで行って、カーテンを払って教室の窓越しに今俺に見えているのは、真っ白に染め上げられた景色だった。

 雪が積もったとかそういうレベルでなく、ペイントソフトでの白塗りつぶしのような、まるで何も無いような風景が延々と広がっている。 


 そして俺以外に誰もいない。

 それぞれの机には使用感がある、というかついさっきまで主が居たかのような雰囲気を匂わせてはいても、俺以外には誰一人いないのだ。



「なんだ、夢か」 



 実際これは夢なのだろう、はっきりって俺がこれまで見ていた夢と毛色は違うし意図は分からないしで謎なのだが。

 ここ最近では久しぶりの悪夢ではない夢ということもあって、はやく夢から覚めろという気持ちは湧いてこない。

 むしろこの教室には興味を抱くほどだ、俺はどういう思考で教室を夢の中に作り、外はどうして真っ白な表現となっているのかを。 


 窓を開けようとしたら――開かなかった。

 簡単な鍵を開錠し、窓を引きにかかるのだが……接着剤や溶接されているレベルでビクともしない。

 クラスメイトの机の中を覗いてみると、そこには教材だったり私物だったりが詰まっている……なんだか悪い気がして、一人の机を見ただけでやめておいたが。


 あとこの空間に変化をもたらせそうなのとすれば、教室の前後端に設けられた二つの出入り口にして扉だろうか。

 俺は扉の前まで歩いて行き、ドアの取っ手に手をかけた。

 その時、少しだけ扉が動いた気がして「お!」となったその次の瞬間――


『扉を開けるのですか?』

「!?」


 無音の支配していた教室に、不意に一つの声が響く。

 注意が行っていた扉から目を離し、声の主を探す為に目を泳がすと――


 『あなたは扉を開けてしまうのですか?』


 その声は女性の声ながら、どこか親近感を抱く優しい声だった。

 声の主は俺とは逆、黒板側でも窓際の一番黒板に近い机に彼女は座っている。


「さっきまでは居なかったよな……?」


 俺以外には誰もいなかったはずなのだ、俺一人がこの空虚な教室に存在していたはずだった。

 それならば、彼女が入って来るのに気付かなかったのか……いや、それは違うと思う。 

 二つの戸は閉じたままで、開けられた形跡は見当たらない。

 しかし窓を超えて入るというかなり遠まわしな現れ方も、カーテンが空いていなく、微動だにしないことから窓が空いているいう可能性も少ない。

 そもそも俺が窓を開けようとしてもビクともしなかったのだから。


『その扉を開いてしまうのですか?』


 彼女は殆ど同じ言葉並び、ほぼ同意味の言葉を繰り返す。


「……開いちゃいけないのか?」


 俺にとっての素朴かつ単純な疑問を口に出す。


『開いてはいけません』


 彼女は言葉を返してくれた。

 その彼女はというと、俺らと同じ高校の一年の学年色のリボンの付いた制服を着ている。

 この時点でおおよそ俺とは同学年の藍浜高校の在籍者か、当学校の学年色は三色をローテーションするので卒業生あることが証明できる。


 しかし肝心の顔はというと長く深い緑色の髪は額まで行き届き、顔の上部は伸びた前髪で隠れ、顔は見れず輪郭の形も正確には分からない。

 この状態では誰か検討のしようもなかった訳で――


『その扉を開いてはいけません、開いたその時、僅かな狂いを起こしたこの世界は崩れ始めるのです』

 

 何かポエムのようなことを言っている。


『扉を開くというのは”抗い”を意味します。抗っても、失ったものは手に入りません、所詮は無意味です。”抗い”によってまた違うものを失うでしょう』


 この人は、一体何を言っているのだろうか。

 俺は一方的に言われるがまま呆然と立ち尽くしていた。


『世界の崩壊を避けたいならば、その扉を開いてはいけません』


 しかし、この扉を開けたかったのは単なる興味本位なのだが。

 だが開くのがダメだと言われてしまうと、もっともらしい言い訳を考えてしまう―ダッシュ


「でも俺は外に出たいんだ。この教室から外に出たいんだよ」

『……それならば、教室の扉を開く必要性はありません』


 ……トンチかな? 二つしかない扉と開かない窓意外から外に出る方法があるというのか。

 これは本格ミステリーの幕開けなのかもしれない。


「じゃあ……どうすんだよ」

『あなたはまた、眠りにつけばいいのです……かつての眠りの場所で』

「眠り?」


 かつての眠りの場所……というのは、俺が起きた時点で座っていた自分の席を指すのだろうか?

 

「そこで眠りにつけば……本当に眠ればいいんだな?」

『嘘はつきません』


 俺は言われた通りにする事にした、まずは自分の席に座ることにした。

 実際好奇心が勝っていたはずの俺が今は無性に眠たくてしょうがない、まるで早く寝ろと言わんばかりだった。


「……眠る前に聞きたいことがあるんだが」

『…………』


 否定肯定がその隠れた表情からは読み取れない、しかし俺は続ける。


「お前は誰だ?」


 非常に簡潔な質問だと我ながら思う、そして答えは返って来た。


『名前は……今は言えません。でも、いずれ答える機会が出来るでしょう』


 なんとも納得がいかないというか……俺が聞いちゃいけない訳でもあるのだろうか? 


「ヒント一つもないのか?」

『きっと下之ユウジ、あなたのすぐ傍に居るでしょう』

「!?」


 彼女は確かに俺の名前呼んでいた。

 ……しかし、その頃にはとてつもない睡魔が俺に襲いかかり――


『それでは、また』


 ……俺の意識は落ちていき、そして眠りについていた。

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