第015話 √0-7C 『ユウジ視点』『五月二日・五月五日』END



五月二日



 日曜日はゆっくり起きる、のだが特にゴールデンウィーク真っ只中なこともあって余裕のよっちゃん。

 本当ならばニチアサ的なものをリアルタイムに視聴したい気持ちはあるのだが、睡眠には抗えないのだ。

 日曜日はまるまる休日なだけに時間はたっぷりある、惜しむらくは録画でこそあるもののニチアサ的なものを時間をかけて見れるものだ。


 そうして、起きると――


「ユウジさん、朝だよー」


 ぼやけた視界に見慣れない女の子の姿が。

 フッ……ついにギャルゲー主人公と化した俺は眠っている間に女の子を攻略するスキルを手に入れたようだな。

 ええ、寝ぼけてるんですよ大目に見てください。


「ホニ……さん?」

「うんっ、おはよっユウジさん!」


 そこには頭からもふもふしてそうなケモ耳をぴこぴこ、お尻辺りから生えているケモノ尻尾をフリフリした姉貴のお下がりらしいピンク地の可愛いパジャマを着たロリっ子ケモノ少女の姿が。

 なにこれ超かあいい。


「これはケモっ子アリだな――」

「けもっこ?」

「いつまで寝ぼけてるんじゃお主」


 そうして俺は夢から覚めた。


「ああ、なんだ桐もいるのか……」

「なんだとはなんじゃ! もうちょっと初代ロリっ子のことを敬ってほしいものじゃな!」


 ロリっ子を敬うって字面がおかしくね、というか初代だろうが速かろうが問題は中身であり”質”だから。


「正直ホニさんなら敬えると思う、というか尊い」

「ありがとーユウジさん」

「ぐぬぬぬ、どちらも美少女度では変わらないというのにどこに差が……」


 強いて言うなら、その喋りと性格がムカつく。


「お主の心の声など分かっておるからな! これは仕様じゃ」

「じゃあもうどうしようもないじゃん」

「なんじゃとー!」


 そうして桐と取っ組み合いのケンカのようになる、もっとも桐はポコポコ殴ってきても全く痛くない上に俺はくすぐりで応戦してすぐに決着が着くのだが。


「よ、幼女を弄びおってからに」


 と、粗く息を吐きながら涙目になって身体をビクンビクンさせるのやめろ――例の組織に目を付けられるだろ。

 俺は普通にくすぐっただけだから、俺は不純なことはしていませんよ、ええ!


「ユウジさんと桐は仲良いねー!

「ふふん、じゃろう?」

「いやホニさんそれは無いから」 

「なんじゃと貴様ー!」


 以下ループ。




 

 そうしてしばらく桐とのコントを繰り広げたあと。


「そういや、なんでホニさんはこの部屋にいるんだ?」

「桐に入れてもらった」

「はい、くすぐりポイント十追加」

「ポイント制だったのかの!?」


 まぁ、それは半分冗談として。


「ユウジさんにその……この現代のこと教えてほしくて」 

「現代?」


 それはニッカンかシュウカンかの話……では無さそうだな。

 

「そういえばホニさん」

「なにー?」

「昨日岩から離れたのは八百年振りって言ってたけど……それってさ」

「あ、うん……ごめんそれ違った」


 ごめんっと手を合わせて謝る、やっぱりそうだったのか。


「流石に八〇〇年も生きてるはずないよな――」

「それは本当だよ?」

「ええっ!?」

「まぁ岩から離れたのは正確には七百九十四年振りだったってこと!」


 六年の違いしかない……八百年の中じゃ六年の差じゃ正直大差ないだろうに!


「ああ……ソウダッタンデスネ、トンダシツレイヲ」


 先輩とか身上とかそういうレベルじゃねぇ。


「敬語はダメ!」

「あ、すまん」

「我が生まれたのはユウジさんらの年号に合わせて西暦一二〇〇年ぐらいってことだね!」


 わぁい鎌倉時代……とりあえずホニさん凄ぇ! 敬うべきなのかっ!

 そういえば――


「何で岩から離れられなかったんだ?」


 実は昨日から疑問だったのだ、何故そんな長期に渡って岩から離れることが出来なかったのか。


「我にもわからないんだよね、気づいたら岩の近くに居てそこから僅かな距離しか行動出来なかったの」

「ようするにわからない、と」

「うん、ようしなくてもわからない」


 そもそも神様とは元がなんだったのか、もし人や動物……だとしても狼だから動物か。

 だとすると、いつの間にか死んでいて岩の周囲僅かに束縛されてしまったと考えるべきだろうか。


「それにしてもホニさんの喋り方は不思議だな」

「? 何が?」

「いや八百年前に生まれたのにも関わらず、随分流暢な現代喋りをするなぁと」

「むぅー、若干バカにされた気がする……」

「んなぁこたぁない」

「……まぁいいっか、でもね。我は耳がいいんだ だから遠くの会話も聞こえて来るの」

「なるほど地獄耳か」

「……ユウジさん確かに溜め口で話してとは言ったけど、ところどころに毒舌が挟まれてるよう感じるのはなんでだろう!?」

「んなぁこたぁないぞ……で、遠くの会話も聞こえて?」

「……聞こえるからそれらの現代的な言葉の使い方を覚え始めたんだよ」

「なんでそんなことを?」

「……退屈だったんだよね。 だからもし我と話せる者が現れた時に差し障りなく会話できるようにと始めたの!」

「……そっか」


 七百と九十四年間神石から離れられなかったってことだからな……そりゃ退屈だよな。


「それにユウジさん、約八百年前に生まれたからって古い喋りをするという偏見は間違ってるよ! 長く生きていれば知識は増えていく、そして喋り方も変わっていくものなの……何故か”我”という口調は残ってしまったけど」


 確かに偏見だった、自分の知識を押し付けちゃいけないよな……。


「ああ、そりゃ悪かった……すまん」

「謝ってくれたから全然いいよ!」


 古い言葉喋りよりも親近感が沸くのは確かだし、なによりホニさんの努力が実った結果なのだから素直受け入れることにしよう。


「大体わし、とかのじゃとか喋りはわざとらしすぎ!」

「ぐはぁっ!? なぜホニはわしにクリティカルを……?」

「そ、そんなつもりは無かったんだよ! でも古臭いし、正直可愛くないよねって」

「ぐぐぐぐっ!?」


 もうやめてホニさん! とっくに桐のライフポイントはゼロよ!

 まぁ……俺は嫌な思いしてないから、どうでもいいんだが。

 というか、まったくの正論!




「そういえばホニさんの知りたい現代のことってどんなことなんだ?」

「えーっとね、例えば世界一美味しい食べ物って何? とか!」


 うーん、それは俺にとってのものを答えるべきなのか。

 それとも全人類的に考えるべきなのか、後者だと俺は答えられないが――


「我が知ってるのはね――ハンバーガーとコーラは世界一売れてるから世界一うまいもの、だって!」


 うーん、偏った知識!


「あとね! 世界一可愛いのは般若!」

「屋上へ行こうか」


 久しぶりにキレ……はしなかったし屋上にも行かなかったけども。

 それからホニさんが地獄耳によって聞いてきた微妙にズレた現代知識を訂正していった。


「……そうなんだー、我の聞いた事とは結構違いがあるねー」

「ああ、今はそんな感じだな」

「色々わかったよ! ありがとうねーユウジさんっ!」

「また何かあったら聞きに来てくれ」


 そう言って「またねー、と」ホニさんは俺の部屋を後にした、去り際もかわいいとか反則じゃん?

 俺の妹にしたいっっっっ!


「妹はわしじゃが?」

「悪いな、この俺の妹枠二人までなんだ」

「もう一人をもったいぶるでないわあああああああああああ!?」


 いや、別に隠しているわけじゃないし。

 でも、なんというかその名前を出したら俺のトラウマ的なのが再発しちゃうから許してほしい。





 それから休日中、ホニさんは姉貴に家事のいろはを教わった。

 最初こそズレた現代知識によって、中途半端に出来る感じだったものの……桐の予告通り家事スキルが高いのか、物覚えがかなりよかった。

 日曜日が終わる頃には、姉貴に次ぐほどの家事マスターとなっていたのだからホニさんの潜在能力はかなり侮れなかった。

 教えていた姉貴が舌を巻き、最終的には――「免許皆伝! 教えてることはもうないよ!」とあの姉貴の太鼓判。


 そして夕飯づくりもホニさん主導にやって行われた……和食がめっちゃ美味かった、姉貴に匹敵するぐらいだから相当だ。

 正直姉貴にも、和食に限ればホニさんにも俺は及ばないとはいえ……居候翌日には姉貴を手伝えてしまう、そんなホニさんにピコグラムほど嫉妬してしまうのだった。



五月五日



 不思議と最近は少しだけ早く起きるようになったのだ、住人が増えるような環境の変化からだろうか。

 それでも姉貴の顔を見るのには間に合わなかった、ほぼ毎日こんな朝からお疲れさますぎる……早朝生徒会参加を免除されているのが微妙に後ろめたい気もする。

 そうして俺は居間にやってくると――


「あ、おはようございますユウジさん!」

「おはようホニさん」

「もう少しで出来ますからー」


 和食においては姉貴並と巷で噂のホニさんの料理スキルが姉貴に評価された結果、和朝食の日はホニさんが作ることになったらしい。

 ホニさん曰くは「働かざるものに食わせるタンメンはねぇ! って言うよね!」と微妙に間違った知識を正しつつ、家に置いてもらってるから出来ることを……ということらしい。


「朝早くからありがとうな」

「いいえそんな! 我に出来ることなら是非させてください!」


 ええ子や……。

 老婆喋りだが基本幼女な桐は戦力外だし、ユイに家事をさせられないことは分かったし、新メンバーだとホニさんが最高すぎる。

 

「じゃあ、いただきます」

「はい!」


 なんだかホニさんが炊くご飯は、姉貴に教えてもらって炊飯器を使っているはずなのに釜炊きしたかのようにおいしくふっくらとしている。

 味噌汁に関してもこれまで違って特に特別な食材を買って来ていないというのに、なんだろうこのポットに詰めて学校に持ってきたいぐらいの美味しさは。

 焼き魚の銀鮭に関しても冷凍モノのはずだが、なんと骨が一本残らずすべて取られていて香ばしく焼き上がった皮とほどよくジューシーな身と絶妙な塩加減。


「うまいなぁ」

「よかったぁ」


 そうしてほんにゃりと微笑むホニさんの破壊力よ、朝からありがたやありがたや……。

 そしてこの和食に関しては姉貴を凌駕しているのかもしれない、我が家の食卓のインフレがヤバい。

 最後は味噌汁で締めるべく、ずずずと飲んでいるがそれにしても――


「この味噌汁を毎日飲みたい……」


 と思わず呟いてしまったんのだが、ホニさんは興奮気味に目を見開いて尻尾とケモミミをぴょこっとさせながら興奮気味に――


「っ! それは”ぷろぽーず”!?」

「え」

「昼ドラで見ました! ”お前の味噌汁を毎日飲みたい”って!」


 あー……いや、そんな意図は無かったんだけども。


 ホニさんはずっと家に居ることもあって姉貴からそこそこの量の家事を託された。

 本来朝早く家を出た姉貴が帰ってくる頃には結果蓄積してしまう家事おおよそを、昼出来ることに関してはホニさんがやることになったらしい。

 そんな訳でホニさんは一人で昼食になる、その昼時に見ているのがテレビで流れている昼ドラらしく、かなり気に入ったようだった。


「ごめんホニさん、プロポーズではないんだ。でもホニさんの味噌汁があまりに美味しかったからつい。ごちそうさま」

「そ、そうですか……でも、ありがとうございます。おそまつさま」


 そんなホニさんと二人の朝、残りの二人は少し遅れて起きて来るのがデフォルトだった――

 そうこうして今日も実に平和に一日が終わる、そしてゴールデンウィークも終わりを迎えた。

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