第012話 √0-6C 『ユウジ視点』『四月二十九日・四月三十日』END



四月二十九日 



「朝か……」


 昨日はまぁ、なんというか……人間やる気が出てしまうと頑張ってしまうというか。

 俺は昨日、夕食終わりに奮起して一つの部屋の大掃除を行ったのだ。



 諸事情でユイが引っ越してくることにはなったものの、じゃあ我が家に受け入れる余裕があると言えば――衣食住の”住”に限ればあるのだ。

 

 我が家の大まかな間取りはと言えば、一階に少しの庭・風呂・トイレ・キッチン・居間・和室・仏間・両親の部屋が揃っている。

 そして居間自体もそんなに狭いわけではなく、両親の部屋もちゃんと二人分存在しているのだ。

 和室も客間として数人が雑魚寝できるぐらいの広さを持っている。


 と、いうことは平米で考えれば……我が家は相当広い。

 そして注目すべきは二階であり、二階は階段を上ると双方向に廊下が伸び――どういう訳か部屋が十個近く存在している。

 そんな部屋それぞれも六畳間どころでない贅沢さであり……まぁ全体的にだと広さだけ見れば豪邸レベルと差し支えないと思う。


 しかし間口の見た目には普通の現代風二階建て一軒家であり、秘密は家自体の奥行にある。

 ようは縦長の敷地をしているのだ、おそらくその大きさは一軒家二つ分はあるほどであり。

 道路と道路の間めいっぱいに家を建てているので、普通なら別の一軒家が背中合っているところを一つの家としている。

 実際そういうこともあり隣の道路に抜ける為に一階両親の部屋の方には裏口が存在している、もっとも今は殆ど使われていないのだが。


 いつか酔った母さんが話していたが、この家のルーツは俺の親父の実家にして、その父方の祖母にとってここは旧家だったらしい。 

 もともとは由緒ありそうな木造の屋敷だったそうだが、立て直した際に「周囲から浮かない方がええじゃろ」と祖母の意思で現代住宅風、結果やたら広い現代住宅が出来上がったという。

 そんな祖母が「ほほほ、この家に将来多くのものが過ごすことになるじゃろうな」と予言か願望めいたことも言って、二階に部屋が十個作られたという逸話もあったりする。


 そんな祖母は仏壇の位牌に記された没年月日から察するに、俺が産まれてあまり経たずに亡くなっている。

 そしてそれから二年経たずに親父が亡くなっているので、母さんは話そうとしないが短い間に不幸が続いたようだ。

 そんなこともあって亡き父と亡き父の母が遺したのがこの家とも言える。


 もちろんこれまで部屋を十個使うなんてことはせず、俺と姉貴ともう一人の三人だけが使っている為に、ほかの空き部屋は一部物置にされている。

 そんな中の部屋の一つが、桐の登場で桐の部屋としてリメイクされていたことが分かった。

 そして引っ越してきたユイの部屋もまた、この余りに余っている部屋を使うことになるだろう。


 果たして俺の祖母はそのことを見越していたのが、今は謎ではあるものの。 

 この時期になって二人家族が増えたのだから、先見の明というのがあったのには違いない……祖母に感謝。



 そんな家の中で、物置としてもあまり使われてこそいないが埃っぽい空き部屋の大掃除をしたのだった。

 ちなみにユイはまたあの家に帰らせれば元の木阿弥なので、最低限の学校制服やカバンなどを持ってきて一階の和室に泊まってもらう形にした。



 和室のふすまを開けると仏間があることもあって、今日はユイには親父と祖母などの先祖様方と一緒に寝てもらった。

 姉貴がいつでも来客があっていいように、と来客用布団などは定期的に天日干しなどしていてメンテナンスも怠っていないので、ユイも快適に眠れたことだろう。



 俺はそんなユイが入居予定の部屋を一人で必死こいて掃除しただけに、家族最後の風呂に入る頃には睡魔がギリギリ、そして寝間着に着換え自分の部屋にたどり着いた時にはこと切れた。

 そうして朝がやってきたのである、正直あんまり眠れた気がしない。


 実はゴールデンウィーク初日なこともあり、今日一日あとはのんびり過ごした。

 


四月三十日


 

 ゴールデンウィーク二日目……と、行きたいところだが無慈悲の平日である。

 そうして朝七時、俺は居間へと足を運ばせた――


「おはユウジ!」

「おはようじゃ!」

「お、おう……」


 うるさそうな友人と、うるさい自称妹がお出迎え。


「……なんだ、夢か」

「何を思ってそう思ったし!?」

「いや、だってユイが俺の家で朝飯食ってるとか……悪夢だろ」

「悪夢はひどい!」


 しかし俺も現実が分かってくる、ああどうやらこれは残念なことに現実らしい。

 俺の母親とユイの親父が再婚した結果、ユイが俺の妹になり、ユイの生活力の低さを見かねた結果ユイが一緒に住むようになったこと。

 

「……どれか一つでも夢なら良かったのに」

「どれじゃんよ!?」


 そんなユイのツッコミはスルーして俺も朝食をいただくことにする。


『朝ごはんちゃんと食べてね! 今日も頑張ってね! ミナより』


 という置き手紙に目を通す。

 そう、姉貴はこの時間にはもう生徒会の為に学校に行っている、校門での服装チェックなどで定期的に朝早く行かないといけないらしい。

 オラそんなブラックな組織いやだ……もっともそれを姉貴のおかげで免除されているのだが。


 というか……姉貴こそちゃんとご飯食べれてるのか、とか……姉貴こそ俺から頑張れ! って言いたいぐらい、とかさ……。


「物思いに耽っているのはいいが、お主の卵焼きも食うぞ」

「それは桐、マジで許されない」


 桐にはその内くすぐりの刑確定、一応桐の魔の手から逃れることは出来た……姉貴の卵焼きは時間経ってもうめえ。


 それでも、まぁなんというか……。


「……なんじゃ?」

「どした」

「いや、なんでもない」


 こう、朝に誰かと食べる朝食は稀というか。

 特に三人がテーブルを囲んで朝の食卓、というのは本当にいつ以来だろうか……もっとも居るのは自称妹と妹になった友人なのだが。

 それでも……一人で食べていた時よりは、なんだか悪くない。





 それからユイとは時間をズラして登校することになった。


「だってー、一緒に家から出て来るとこ見られたらー、はずかしーしー」


 何いってんだこいつ。


「……などとユイ容疑者は意味不明な供述をしており、不法侵入の疑いで引き続き取り調べを――」

「アタシ一応家族なんだけど!?」

「まぁ、ユイのそのふざけた考えはともかく同意見だ。時間をズラして登校しよう」

「話が分かるじゃないか」


 そうして俺はいつもの時間、ユイはいつもどおりの遅めの時間に出ることとなった。

 まぁユイと一緒に家から出るとか、何かの間違いでユイと俺のフライデー風に激写された日には引きこもってしまうだろう。

 

「ま、まぁアタシとしてはユウジと登校するのもアリかもしれんがな」

「あ、それはナイんで。というか俺はユキとほぼ毎日一緒に登校してるんで邪魔しないでくれるか」

「その本音を一切包み隠しもしないとは清々しいな!?」 


 生徒会によって削られたユキとの時間だ、これ以上減ってたまるかよ……!

 そんなこともあって今日から早速ユイとの時間差登校を始めるのだった、ちなみに俺は自分持ちの鍵で閉めてから家を出るが、ユイはまだ鍵を持っていないので桐が一緒に家を出ることで桐が戸締りすることになった。

 




 そして今日は学校では何もなく終わった、もちろん俺とユイが家族になったことなど誰も知っていないはずだ。 

 放課後の生徒会に関しては休みだったこともあり、家に帰ってからはユイの家からの一部引っ越しを手伝ったりした。

 ……というかマンガとかラノベとかDVDとか、重いの多過ぎだろ……オタクってクソだわ!


 そしてユイは晴れて俺の家で、自分の部屋に住むようになったのだが。

 大物家具であるベッドに関しては届くのに時間がかかるとのことで、しばらくは布団で我慢してもらうことになった。

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