第011話 √0-6B 『ユウジ・ミナ視点』『↓』
「ユイーっ!」
俺はその名前を呼びながらユイの家へと駆け付けた。
しかし周囲は平穏そのものであり、それが逆に俺の不安を駆り立てる。
「ユイ、開けてく……開いたっ!?」
ユイ宅の玄関扉に引くと――開いたのだ。
俺の脳内で”鍵開け””強盗”という言葉が浮かぶ、事態は深刻さを増していた。
「警察を呼ぶか!? いや、それよりも――」
そうだ、早とちりであってほしい。
そう、玄関扉が開いていたのも――単に不用心なのだかもしれない、と!
俺は「お邪魔します」と言ってユイの家に突入する……よ、呼ばれたから不法侵入じゃないよな……?
しかし玄関周りは意外にも積まれまくった引っ越し屋のダンボール意外は特に荒らされた形跡はない。
もし犯人がいるならば、金目の物の位置を知っている内部の犯行か……俺はそうして核心に近づいて行った。
「ユイ!」
居間とおぼしき扉を開けると――そこには衝撃の光景が広がっていた。
結構な面積があるであろう居間を埋め尽くす物・物・物!
おもちゃ箱をひっくり返したような、はたまた強盗に家探しをされたかのような酷いありさまで。
いよいよ俺も最悪の可能性を考え始める。
「ユイー!」
「ふごご……」
俺が名前を呼ぶと居間の一角の物がガタガタと動いたのだ。
「そこに居るんだな!? 待ってろ――」
そうして俺は――
ゴミ屋敷からユイを救出したのだった。
「ゴミじゃないぞい!?」
「……もうゴミにしか見えねえよ」
いや、さ。
別に事件を期待していたわけでは絶対にないにしてもさ、俺の心配を返してほしいと言うかさ。
ちなみに戸締りは普通に不用心なだけだった、マジで鍵はちゃんと締めて。
「で、どうしてこうなったんだ?」
「聞いてくれや事の顛末を!」
「おう、聞こうじゃないか――このゴミを一通り片付けてからな」
「だからゴミじゃないってばよ! ちょ、ちょマジで捨てるの? やめて! 本当に使うものだから――」
ユイによる”どうしてこうなった”という説明によれば――
「父親が再婚した母親と新婚旅行に行ったじゃん?」
「いや初耳なんだが!?」
いきなりユイが”初めて”一人暮らし! とかどういうことかと思ったら、そういうことかよ……!
「で、一人暮らしすることになるじゃん? とりあえず飯ってことでアタシの完璧な献立が決まるじゃん」
「ああ、うん」
「まずは朝食はシリアル! 昼食はコンビニ飯! 夕食はカップ麺! どうだ、これが毎日の献立だ。完璧だろう!」
「ああ、野菜が圧倒的に足りてないな」
「なん……だと……? 昼食のポテトフライとケチャップは野菜に含まれないのか……?」
含まれません。
ってどこの米の国でもジョークでしか言われてないようなネタじゃん……ネタ、だよな?
「シリアルは牛乳を加えることで栄養豊富じゃん?」
「毎日続けるには糖分が多過ぎる」
あれはたまに食うからいいのであって、あんな糖分の塊食うなんて普通に太るのまっしぐらだろうに。
「夕食はお湯をかけるだけで出来る完全食、カップ麺だ!」
「ああ、完全余分食だわ」
塩分糖分油分の三連余分コンボ、うまろおじさんの胃も耐えられそうにない。
早死にしたいのかな?
「何故だ!? 完璧なはずでは!?」
「せめてサラダ買って食え」
「でも……今月の食費はカップ麺ダース注文で無くなっちゃったし……」
カップ麺実はそんなコスパが良くないという説、立証。
いや、うまいけどね……たまに食うもんだよアレは。
「ともかく! カップ麺をまず探して見つけ出したと思ったら、お湯を沸かすヤカンが見つからずに……この始末☆」
「よーし分かった、お前に一人暮らしは無理だ!」
「ホワイ!? 何故!」
衣食住のうちの既に食が破たんして、住に関してももはやこのゴミ屋敷の相様では住めそうにない。
そして衣はというと――
「普通に制服と下着脱ぎ散らかしてんじゃねえよ!」
学校制服にブラとパンツが普通に放られている、そして注目すべきは使用済み下着だということ……!
イラネ、と汚いものを摘むように洗濯籠にダンクシュートを決めた。
「あああ、ユウジ! そ、それは乙女のヒミツですぞおおおお」
「うるせええええええええええ! こんな汚部屋の持ち主が乙女を語るなあああああああああ!」
「ご、ごめんなさいいいい」
そうして俺は姉貴直伝の家事スキルが発動した。
実は俺も幼少期から割と掃除自体は好きであり、整理整頓も嫌いではない。
そんな俺にこのありさまを見せるのだからユイというロクでもない人間は良い度胸をしている。
それから生徒会上がりから二時間ほど、途中で姉貴に連絡を入れつつも俺はユイの大片付けを進行させた。
「よし!」
「しゅ、しゅごい……まるで新居のようだ」
こいつ引っ越してきたの昨日だよな。
「まぁとにかく掃除も終わったし、今日は俺の家で夕飯食っとけ。今後の食に関しては……父親と相談してなんとかしろ」
「は、はいぃ」
こんなこともあろうかと、さっき姉貴に連絡した際に一人分余分に作ってもらったのだ……あとでお礼言っておこう
そうして俺は。ユイを連れて家にやってきたのだが――
「あ、ユウくん! ちょっと話があるんだけど!」
…………電話の子機を持ったままやってきた困惑した様子の姉貴に、なんとなーく嫌な予感がしつつも、俺は姉貴の話を聞くことになるのだった――
『おはよーミナちゃん。そういえば私、再婚することにしたの』
という母さんと姉貴の電話を姉貴に教えてもらいはじめた。
まぁ再婚云々はユイから登校直後に知らされて知ってる……が姉貴は初耳だったのだろう。
『それと、ちょっとナオトさんと新婚旅行に行ってきまぁーす!』
ナオトさん……ってそういや、前にユイが自分の父親の名前をそうだとか言ってたっけ、あれ伏線だったのかよ。
いやいや! それにしたって子供に無断で勝手に再婚のち勝手に新婚旅行!? 家族放置プレイがすぎるだろ!?
『あとナオトさんが、出来ればユイちゃんの面倒見てほしいんだって。僕が居ないと家が世紀末になっちゃうから、だって』
身をもって知りましたとも、まさか引っ越し翌日にはゴミ屋敷仕立てなんて引っ越し屋も思いもしない。
というか放っておいたら破綻するような生活のユイの娘一人残して俺の(暫定)義父はどんなつもりなんだろうか。
『一か月ぐらい帰らないからー、じゃあねー』
と、電話が切れたらしい……自由すぎる!
前々から自由だとは思っていたが、今回は超フリーダムすぎる……でも母さんだから、と割かし納得できてしまうのがシャクだ。
そもそも一か月の新婚旅行ってなんなんだよ……母さんが家を開けがちなのといい、ユイの父親といい、家をちょくちょく空けないといけない何かがあるのかと勘ぐってしまうぞ。
アニメ的に考えるなら……家族に隠れて地球を救ってる的な? 魔法少女やってる的な?
ねーわ……姉貴の母親だからこそ歳以上に若い見た目だが、流石に魔法少女はないわ。
でも一部層に人気出たり……やっぱないな。
「……ってことみたい」
「ああ……とりあえずさっき言った通り、ユイを一人にするとその内家が自然崩壊する」
「そこまでじゃないぞ!?」
あの推移だと家からゴミがあふれ出して近所迷惑甚だしく、テレビには「突然出現したゴミ屋敷に迫る!」とか特集組まれそうだし、それを恥じた家さんが拒否反応起こして崩壊しかねない。
ボンビー神かなんかなのかなこいつ。
「で、これがその時の写真」
「うわぁ…………」
「見ないでくええええ」
姉貴がドン引きしているの初めて見た、まぁ気持ちは分かるし俺もドン引きしたけども。
この写真をゴミ屋敷を掃除する系の番組に送ったら取材依頼が来そう。
「そんなことだから姉貴。ユイをこの家で飼ってもいいか?」
「……しょうがないよね、ちゃんとお世話しないとね」
「わんわん!」
本人も犬の自覚があったらしい、分かっていて感心。
そうして再婚したと思ったら妹が出来て、その妹が隣家に住んだら即日ゴミ屋敷と化させたことから――結果的にユイは俺の家に住むことになったのだった。
衣食住が壊滅的すぎる為に、衣類の洗濯もまるで出来そうにないので姉貴がして、飯を作るのは姉貴・部屋の掃除も女子同士ということで姉貴。
……あれ? これ姉貴に全部しわ寄せ行ってね?
そう思って姉貴に手伝うか・何かすると言っても「ユウくんは休んでて! 私の癒しでいて!」とものすごく必死の形相で言われてしまった。
そう言われると、なんだか俺が役に立たないような感じで少しもの寂しいのだが……。
姉貴さ……こうなんでもかんでも色々一人で背負いこもうとすると、いつか限界来ちゃうんじゃないかって不安なんだよ。
だから、そういうところは意地張らなくたってさ――
俺はそんな姉貴の身を案じてならなかったのだった。
大体ユイのせいで。
とりあえずユイを連れ帰ってきた俺はとりあえず学校カバンを部屋に置きに行くべく、自分の部屋を目指し´
「おかえりじゃ」
「あ、ああ」
「しかし遅いお帰りじゃな、もう夕ご飯を食べてしまったぞ。今日ははてさてイベントなど無いはずなのじゃがな」
自分の部屋に入ると、桐がお出迎えだった。
そしてこの様子を見る限り、桐はユイのことは知らないような素振りをしていた……これはどういうことだろうか。
そして気になるのは「今日はイベントが無いはず」という桐の言葉で、ということは――
ユイとのことは、ギャルゲーと無関係なんじゃないかという疑惑がふつふつと湧き上がる。
いやそんなバカなとは思うにしても、あんな突拍子もない展開ギャルゲーじゃななきゃな……。
もし仮にギャルゲーだったとしても、ユイがヒロインというのは考えづらい。
というか無理。
それにそもそものユキや姫城さんと違って、ユイは俺の記憶にこれまで通り存在していた。
この記憶が偽物でもない限り、ユイがヒロインだなんてことあり得ないのだ。
しかしここは少し探るべきかもしれないな。
もし、ユイがヒロインじゃなくてもギャルゲーのシナリオに連動・協調・影響を受けたのが今日のことだとすれば。
今後のこの進行についても考えるべきところがあるだろう。
「なぁ、桐。このギャルゲーと現実がハイブリッドした結果、現実の人間に影響が出ることってあるのか?」
「ふむ、それはあると言えるな。とはいっても、ギャルゲーにおけるシナリオを潤滑に進めるべく、ギャルゲー原作に存在するが現実には登場しなかったモブキャラクターに準拠した辻褄合わせに利用されることはあるのう」
と、いうことは少なくとも先日のマサヒロの不自然な肝試しの提案も、ユイの転校生情報も、おそらくはギャルゲーと現実のハイブリッドによる辻褄合わせなのだろう。
可能性があり得るということは分かったが、ならユイの父親と俺の母親の再婚というのは一体どんなギャルゲーのエピソードに繋がるのだろうか。
どう見てもユイと俺との関係で完結しそうな事柄だけに、果たしてギャルゲーのヒロインが介在する余地はあるのだろうか。
「そこで聞きたいんだが、原作では俺に妹が増える。なんてことはあったりするか」
「……どういうことじゃ? わしは”妹だった”ということになっておるし、妹的存在が増えるということはあるが……おっと、ネタバレしてしまったな」
ここまで都合よく聞きだせるあたり、割と規制ガバガバなんじゃないかと思える。
もっとも桐が答えているのは”ギャルゲーの本筋に影響しない事柄”や”公式のキャラクター紹介”に書かれているレベルかもしれないが。
「……今日の夜帰りといい、まさかお主――!」
まさか、バレるのか……!?
いや、別に桐にバレたところでそこまで深刻では無い気がするのだが。
まぁあるとすれば……オタクで女の子が好きなユイと見た目だけはロリした桐を遭わせるのややこしくなりそうな気はするが――
「隠し妹がおったのか!?」
「隠す妹はいねえよ」
もっとも、隠すつもりはなくても話していない”妹”はこの家に存在しているのだが、今はどうでもいいことだろう。
「じゃあなんじゃ、もったいぶらずに言うがよい」
「やっぱいいよ」
「散々引っ張っておいてそれはないじゃろう!? わしのこの好奇心をどうしてくれようか!? とりあえず――キスで誤魔化すほかないの!」
「お前はどうしてそんなキス魔なんだ!?」
そうして桐が「んー」と唇を突きだして俺に迫ってくるのを、押し出してどうにか避けていると――
ばたぁんっ! と、開きかかっていた扉が突然にも全開になったのである。
「ユウジ殿ぉ! 川やはどこでござるかーっ!」
ご存じの滅茶苦茶な喋り方、問題の当事者ことユイがやってきたらしい。
というかそもそも俺の部屋教えてないし、二階に上がっていいとも言ってないのにどうして俺の部屋を特定したんだ、とかそういうことはおいておいて。
果たしてこの俺と桐の絵面はどう見られるだろうか。
見た目にはロリしく、たぶんそこそこちょっぴりおそらくはきっと可愛いかもしれないと巷で噂の桐である。
そんな桐が俺にキスしようと……見えるだろう、そのままだし。
果たして、それを見たとき第三者はどう思うか――
「なっ……」
桐の驚きの声、その近くからユイは――
「こ、こここここここここれはっ!? 超超超超テンプレ妹キャラがアタシの目の前にいいいいいいいいいいいいいいい!」
桐に興奮した様子で、息を荒げハァハァ言っていた……もしもしポリスメン?
「はうううう! お持ち帰りぃぃぃぃっ!」
「う……は、離せ!」
ユイの異常なテンションに圧倒されている桐はユイに抱きあげられ、逃げよう逃げようと足をバタバタさせている。
うーんしかし、桐が気圧されているなんて実に新鮮な光景だ……これは見てるだけでいいストレス発散になるな。
「貴様! こ、これはどういう事だっ!」
貴様、とは俺のことだろう。
「色々あったんだ」
「まずは状況を話せっ!」
「うぅおっほん、あたしが説明しよう!」
「うるさい! わしはこいつに聞いているのだ! お前などには聞いておらんわっ!』
「イイ……ロリに罵れるのイィ……罵って! もっと罵って!」
「変態じゃ! 変態がいるぞぉっ!」
「お前が言える立場ではないな」
俺目線だと変態が変態に抱きついてる風にしか見えないという、類は友を呼ぶとはこういう事なのだろうか。
それにしてもなんだろうなこの状況……収拾がとんどん付かなくなってゆくというか。
桐とユイが会うとややこしくなる、というかカオス。
まぁ……桐にもいい加減事情を話すとするか。
「こいつ……ユイが住むことになった」
「な、なんじゃとっ!?」
「どうも初めまして、この下之荘に住ませて貰うことになった巳原ユイと申します!」
「いつからここはアパートになったんだ……」
どっかののちの神漫画家の集まりそうなアパートじゃあるまいし。
「あたしの父とユアマザーが結婚し、その都合でここに拾われたのだ」
まぁ間違ってない。
放っておいたら遠からず死にそうだし。
「うーん……考えたら、そういえばユウジ。この下之家に兄か弟は居るかね?」
「いや、いないけど?」
唯一の男子ですとも。
「母……美人の姉……ロリ妹……アタイ……良かったなユウジ! 男の夢が叶ったじゃまいか! 見事なハーレムだぞ!』
「こんな家族ハーレム嬉しくねえよっ!」
ただ家族の女性率が異常に高いだけじゃねえか、そしてユイはマジでないのでごめんなさい。
「贅沢な話だな……アタシならエンジョイするのに」
「……それはもうハーレムなのか?」
ユイはエンジョイしそうなのは想像出来る……ユイが男だったらセクハラでお縄頂戴だな。
「まぁロリさん、宜しく頼むっすよ」
桐の方を向いてユイは言った……それ、名前かなの?
「ロリ言うな!」
そういえばブラック桐が普通に出てるな、基本人前では出さないってのに……もしやユイが気に入ったのか?
「わしは桐じゃ」
「キロリだな!」
「繋げるなっ!」
うがぁぁぁ! と桐が吠えているが気にしない。
「それではな! ユウジにキロリ!」
「お、おう」
「つ、繋げるな言うておろうがっ!」
バタンという扉が閉まる音共に嵐が去った……桐も俺もユイには振りまわされっぱなしだったぜ。
さて、そろそろ眠くなってきたことだし睡眠不足はお肌の大敵ですし――
「で、話を聞こうかユウジ」
まぁそうなるよね。
で、十数分後。
「…………ということだな」
「ふむ、なるほどな……しかしゲームシナリオ以外の現実でギャルゲ的イベントが発生するとはな」
「流石に俺も予想できないわ」
本当、ゲームだけで超展開目白押しで、疲労困憊してるってのに……現実でこんなビッグサプライズなイベントが起っちゃたまらねぇぜ。
「……ギャルゲーシナリオと現実のハイブリッドのせいで、何かこの世界に異常が出てるのかもしれんな……」
急に桐が真面目な口調で話しだす。
「……異常が出るとどうなるんだ?」
しかし桐が真面目に見えていたのは、どうやら俺の目が節穴だったことを証明する結果となる。
「超能力者が出る」
「……お、おう」
「そういえば次のヒロインは三日後登場じゃ」
「超能力者の下り終わりかよ!?」
桐が言うとなんかありそうな気がしてならないんだが!
「しかし、なんだかんだお前優しいよな」
こうやって前からたまに予告をしてくれるからという結構心づもりが出来るって訳だ。
「ふふん、惚れたか」
「いや、ありがたくは有るけど惚れはしない」
そう、俺が言った途端に桐は不機嫌になる。
「……寝る」
「ああ、おやすみ」
「引き留めないのか?」
不機嫌顔ながら、こちらを振り向く桐。
「いや、別に……」
「この世界のお主ほんとドライじゃな! もう寝る時間なのでねりゅ!」
そうしてプリプリ怒りながら桐は帰っていった。
あの性格でも規則正しく寝てるのが意外だった……。
「ユウジ! ところで川やは」
いつまでトイレ探してたんだよ!
なんで俺の部屋は見つけられて、分かりやすい位置のトイレは分からないんだよ!
「階段下りて左十歩っ!」
「サンクスゥ!」
なんだか現実とギャルゲーのそれぞれ影響あって、今後も疲れそうな気がしてならなかった。
「んほおおおおおおおお」
と、隣で恍惚の表情を浮かべる――飯を食っているユイである。
いや、表情といってもグルグルメガネでそう察するしかないんだけど……しかしまったく嬉しくない、むしろノーサンキューですらある。
年相応の就寝時間を迎えた桐を除いた俺とユイと更に姉貴までもが今頃遅い夕ご飯を食べていた。
「ミナさんの料理、本当美味しいです!」
「そう? そう言われると嬉しいなー」
ミナ”さん”とか言っているのはユイである……ユイがまともだ、おかしい。
さっきの変なリアクションも絶妙に姉貴に見えない角度と声でやっていたというのだ。
「こんな手料理を毎日食べられるなんて、ユウジ君は幸せものですね」
「そ、そう!? そんな嬉しいこと言われると、お姉ちゃんお世辞でも嬉しいなあああ!」
そうして上機嫌な姉貴の手によってユイのおかずが増えていく。
こいつ……割と世渡りが上手いタイプなのか!?
こうして俺に妹が増えた。
もっともクラスメイトにしてオタ友にして悪友の、異性としてはあまり意識できないユイなのだが。
まぁ
* *
「はぁ……ユウくん」
一日の最後、やれるだけの家事をやって明日に備える頃には〇時を回っていて……。
「最近は色々あったなぁ」
ユウくんが生徒会に入ってくれて、今日も来てくれて、ほんとすっごく嬉しいんだ。
ユウくんが時折「(家事)手伝おうか?」って言ってくれるのも超超嬉しい……でも、それが私に出来ることだから、これだけは私ががんばらないとね。
それに……私がユウくんの手伝いを拒めば、またユウくんが私に「手伝おうか?」って言ってくれるかなって――お姉ちゃんに構ってくれるかなって。
「まさかお母さんが再婚するなんてなぁ」
あんなにお父さんのこと大好きだったお母さんなのに……それでも、一〇年以上経つと仕方ないのかな。
確かナオトさんって、お父さんとお母さんとの幼馴染だったらしいけど……今になって、意外だなぁ。
「幼馴染……か」
私は幼馴染にいい思い出がなくて、私にとって幼馴染は――
「ユウくんは覚えてないかなぁ……覚えてないよね」
きっとユウくんは覚えてない、小さな時なせいもあるけれど。
というかユウくんは――
でも私は今も覚えている。
『お母さーん、あのねー 私大人になったらユウくんと結婚するのー!』
今も私は思っている。
夢に見ている、心から願っている、本気で想っている――私は……ううん、きっと
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