第六章 俺はまともな友達が少ない。<体験版>
第010話 √0-6A 『ユウジ視点』『四月二十八日』
事実は小説より奇なり、というか。
エンターテイメントの為に派手に過激に驚きに”奇”にもなっているはずの小説よりも、更に奇なりというか。
ようは意外と現実もエンターテイメントしているということである。
刑事ドラマや昼ドラで感心したり驚いたような展開も、現実はそれをしれっと上回ったりする。
そんな出来事は、あくまでギャルゲーではなく現実に起こったことなのだった。
四月二十八日
生徒会に入ったものの、流石に朝早くから姉貴と同じペースの生徒会はきつい……ということで姉貴には悪いが、朝の活動に関しては断らせてもらった。
姉貴はと言えば『ううん、いいの! ユウくんが生徒会に入ってくれただけでいいの! もし文句を言う子がいたら――ちゃんと言っておくからね?』と、終始笑顔なのになかなかの迫力である。
なんというか副会長な姉の弟のコネですまない、でも俺だって拉致されて結果的には俺の意思とはいえ、はじまりとしては生徒会に無理やり入れられてしまったのだから……それぐらいの権利いいだろう。
ということで俺に関しては朝の生徒会は免除、これでユキとの登校時間は確保できるというわけだ。
「おはよー! ユウジー!」
そうしてユキの笑顔で一日が始まる、ほんと……こんなか可愛い子と幼馴染だなんて主人公って最高だぜ!
俺はそうしてユキとの登校に胸を躍らせていたことで、引っ越し作業が終わって人が住んでいると思われる隣家の表札を見忘れたことをのちに後悔するのだった。
登校はユキと二人で、教室に着けばユキはユキで自分の友人たちと話すことも多く、俺はといえば――。
「なあなあユウジ、昨日のオーバーヒーロー見たかぇ?」
「見た見た、さすがアイン様」
「アルベロがぶれないじゃんよ……」
などとそこそこにアニメトーク。
俺はユイやマサヒロほどディープではないが、そこそこに深夜アニメに目を通している。
「あ、そういえばユウジ」
そうしていつものノリで、いつもの空気で、ユイがふと思いついたことを俺に言うのであろう――と思っていたのだ。
「これからアタシら家族になるらしいからな、よろしく頼む」
…………ちょっと何言ってるか分かんない。
「え? なんだって」
「で、出た~ハセガワ大鷹さんの特殊スキル難聴~」
「いやいや、そうじゃない……」
聞き取れなかった訳ではない、ただ耳を疑っただけだ。
「いやー実を言うとさ。ウチの父が、ユウジの母と再婚するのだよ」
「はい?」
は? 俺の母さんがユイの親父と結婚……?
何の冗談だそりゃ、というかそんな冗談をユイが言う意味がまるで分からないんだが――
「だからアタシとユウジは、これから家族だ。よろしくな」
え?
どゆことよ?
はい?
さて、別に意識して触れてこなかったわけではないが俺というか下之家家族構成について話しておこう。
一男二女の子供が三人と両親の五人――が、本来の下之家である。
しかしその五人が揃った時期はといえば、三年ほどしかない。
というのも――
俺の父は、俺がモノゴコロ付く寸前に亡くなっている。
母さんにいつか聞いた話によれば突然行方不明になったあと、遺体として見つかった……そこには事件性はなかったが、母さんとしては遣り切れない思いがあったことだろう。
しかし俺は父という存在を殆ど知らないから、あまり亡くなっているということも居ないことでさえも、あまりピンとこない。
実際俺は、親父の代わりもしつつ俺たちを母親としても育ててくれた母さんの背中をいつも見てきたのだから。
だが最近はといえば母さんと顔を合わせる機会は思うより少ない。
何故なら、母さんは俺と会う機会も無いほど仕事に没頭している”らしい”、らしいというのも、本人曰く世界のあちこちを飛び回っているとのことで、帰る暇が無いのが正しいのかもしれない。
それでも俺は、家族よりも仕事に熱意を向ける……そんな母はまるで、何かから逃げるように映ってしまうのは歪んだ考え方だろうか。
と、シリアス気味に言っても一月に一回は帰ってくる訳で、その度にそこそこの溺愛を受けることになるのである……度合で言うと姉貴の当社比五割ぐらいだろうか。
姉貴には、確かに母の血が流れていることが分かる……それは溺愛的な意味で。
で、その母が再婚するというのだ。
別によく覚えていない実の父親に俺が執着するわけでもなく、母さんがいい人を見つけたのなら歓迎すべきだろう。
しかし問題は――その再婚する父の釣れ子となる「娘」に問題があるのだった。
「なんかアタシの父親とユウジの母上が職場で出会った上に、なんと二人は幼馴染らしくてな~。思い出話に花を咲かせたら結婚となったそうな」
「そうはならんやろ」
「なっとる、やろがい!」
そんなことあるのかよ……。
そしてユイに聞きはしなかったが、ユイもなんらかの事情片親だったということになる。
そういうところは、なんというか……不謹慎かもしれないが親近感、みたいのを今更感じなくもないのだが。
「そういえば隣に引っ越してきたから、はい、つまらないものですが」
「隣お前かよ!? あ、ご丁寧にどうも」
そうしてオリーブオイル詰め合わせを貰った、姉貴は喜びそうだが学校に来て貰うものにしては重いわ!
どうやら昨日引っ越し業者が忙しくしているのを目撃したのち、隣家に引っ越してきたのはユイの家族らしかった。
…………いやいや、そんな偶然あるのかよ。
クラスメイトの女子が突然隣に引っ越してきた上に、それぞれの父と母が再婚してつまりは――
「そういえばユウジの誕生日は……ふむふむ。なるほどな」
「な、なんだよ」
ユイはそうして、微妙に声音を変えたかと思うと――
「私よりユウジってお兄ちゃんなんだねっ! よろしくねっ、お兄ちゃんっ(ハート)」
吐きそう。
「おいおいおい……流石のアタシもギャグのつもりだったがマジでえずきそうになるのは、無いと思うんだよ」
「いやだって……えぇ、ユイが妹? 何かの間違いだろ……そろそろ世界滅ぶんじゃねえかな」
「ひどい! アタシだって女の子なのに」
「え……え?」
「二回も聞き返すことないだろうに!」
そう、ユイは一応女子なのだ……見た目もスレンダーな上に長身で、どこで売っているのか分からなければ教師陣から何故許可されているかも分からないグルグルメガネをしている――残念過ぎる女子。
いや、アニメのこととか話す友達というか悪友として俺はユイのこと嫌いではないんだよ……でも、異性としてはなあ。
「ま、まぁ軽く心にダメージを負ったが末永く幾久しく」
「お、おう……」
片親同士が再婚した結果、釣れ子の女の子が同じ家族になって……俺の妹になる。
ギャルゲーでも滅多に無さそうな展開だが、実際あれば驚くだろうし割と嬉しい。
ああ、言葉だけならなんて夢のあることだろう……ユイじゃ、ユイじゃなければなあ!
せっかくのシチュエーションもメインディッシュ次第では台無しになってしまうことが良く分かる。
せめてユイが美少女ならな……と、散々言いつつも、
まぁ、釣れ子が接しにくい見知らぬ人よりかはユイで断然良かったのかもしれないけども。
新しい妹としてはちょっと……だが、新しい弟的に見ればアリかもしれないな。
そうしてあっという間に放課後が訪れる、正直ユイが妹になるインパクトが凄すぎて今日のことをあまり覚えていない。
ユキと別れ生徒会に出席し、一割真面目議論九割ネタ議論の活動が終わったところで姉貴と帰るべく昇降口近くまでやってきていたのだが――
「いけない! 先生に渡す書類生徒会室に置き忘れちゃった! ユウくん、悪いけど先帰っててくれる?」
「いや、それぐらい待つぞ」
「ユウくんのその心遣い、超嬉しい! でもこれ以上ユウ君は学校に残ると残業代が発生しちゃうから!」
なになに生徒会に入っていると給料が入ってくるんですかい? もっと早く言ってくださいよ姉御!
……まぁ、んなわけないことは分かってるがな。
ようは姉貴は俺を待たせたくないが故の冗談なのである。
「じゃあお言葉に甘えかな、じゃあ頑張ってくれ姉貴」
「うんっ! ユウくんの頑張ってエールがスーパー嬉しい! 頑張るね!」
と、生徒会室に戻っていった。
仕方ない、一人寂しく帰るとしよう。
そういえばユイなのだが、どうやら俺の母親傾向に似ているのかユイの親父もまた家を空けがちらしい、
ちなみにユイに親父の写真を見せてもらったのだが……親父って字面が全く似合わなかった。
なんというか、美形! である。
爽やかで清潔感ある見た目の印象は悪くない、どちらかといえば中性的な具合で服装次第じゃ女性と勘違いしかねない容姿をしていた。
そんな父親が家を空けるという、そしてユイは一人っ子だという、ということは――
「アタシの初めての一人暮らしは大丈夫かだって? 一〇〇パーセント問題ないぜよ!」
と太鼓判を押していたのである。
しかし意外ではある、女子力の欠片も無さそうなユイだが一人暮らしを出来るぐらいのスキルがあったとは……これは是非俺もその内スキルをご教授願いたいものだ。
…………ん? 待てよ、”初めて”の一人暮らし……?
と、考えている最中に俺の携帯に着信があった――
『from:ユイ 本文;たすてけ』
「何があったんだよ!?」
この短い文章での打ち間違い具合――ただ事じゃない予感!?
俺は少しだけ”事件”や”事故”などの悪い考えが頭をよぎりつつも、ユイの家こと俺の家の隣を目指して駆けだしたのだった。
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