第009話 √0-5C 『ユウジ視点』『↓』END
今日の授業が終わり、帰りのホームルームも終わる。
部活動がある生徒はその部活へ、ない者は帰路につく。
ちなみに我が一年二組クラスの傾向として、部活に入ってるクラスメイトと入っていないクラスメイトの比率は半々だったりする。
この高校は中学からのエスカレーター式にして面子もあまり変わらないせいもあってか、中学の頃にはじめた部活を高校でも続けている人は多い。
一方で中学部活動に入っていなければ帰宅部のまま、という二極化している上に比率はほぼ変わらないであろう。
とはいっても帰宅部の中には学級委員長から保健委員に図書委員など、それ以外の学校活動で忙しい人も少なくない。
そんな中でも俺は、純粋に部活に入り損ねたというよりも”入らなかった”のが正しいはずなのだが。
いまいちそこんところ記憶が怪しく――
「ユウジ、帰ろー」
そう考えごとをしている間にユキが声をかけてくれていた。
「そうだな、かえ――」
帰、れない。
もう気持ち的には帰るつもりだったのだが、俺は気が重くも帰れない理由を思い出してしまうのだった。
いや、でも正直あんなやり方で生徒会入りとかちょっととは思うわけで……姉貴には悪いが、いっそすっぽかしてしまおうか。
そう思ったその時だった――
『副生徒会長補佐代行、下之ユウジ。今すぐ生徒会室に集合』
……しかし副生徒会長補佐代行って長い名称だな。
会長のサブにして、その補佐を代行する……もうよくわからんよ、総総作画監督ぐらい良く分からない。
そんな肩書持ってたら恥ずかしいだろう、その服生徒会長うんちゃらの人は可哀想に――
「今、なんか放送でユウジの名前が聞こえた気がするんだけど……」
俺でした。
いや、ね。
別に難聴決め込んでたわけじゃなくて、単に現実逃避してただけというか、実はあの生徒会に拉致られた下りも夢オチだったらな……ってそうは問屋が卸さなかったわけだ。
「ああ、うん。流れで生徒会に入ったんだよ」
「……流れって?」
「姉貴に呼び出されたと思ったら屈強な男たちと一部腕力系女子に生徒会室に拉致されて……」
「どういう状況!?」
「質問に答えたら生徒会の副会長補佐代行に……」
「どういう結末!?」
まぁ、そうだよな……俺も意味分かってないし。
正直ギャルゲーっぽいイベントと姉貴が絡んでなかったらトンズラだというのに……まったく。
「そういうわけでスマン、今日は先に帰ってくれ」
「そ、そうなんだ……」
ユキが明らかにシュンとして、なんだか申し訳ない。
俺もユキ達との下校楽しかったなぁ。
ああ、あの日々はもう戻って来ないんだなぁ……。
「これからも、もしかして生徒会で忙しくなる?」
「かもしれないな。その時は前もって言うから」
今のこの現代には、PIPOPAと打ち込むだけで電子な手紙を送れる携帯メールという文明がある。
俺は生徒会がある日が分かり次第ユキに教えておこうと思ったのだ。
「じゃあ……生徒会頑張ってね! ユウジ!」
しかしシュンとした表情からの、元気づける言葉に俺は心の中では感動で涙が止まらない。
ああ、嬉しい……こんな激励されちまったら、俺も少しはやるっきゃねぇ!
「おうよ!」
そうしてユキに見送られながら、俺は生徒会室を目指したのだった。
あ、そういえば、
ユイとマサヒロにもついでに伝えてそこそこのリアクションがあったものの、割とどうでもいいのもあってあまり印象に残っていないので割愛。
そうして俺は生徒会室の前までやってきた、というかそこそこ一年二組から遠いせいでイライラする。
「…………」
待ってろユキ……俺はこの憎き生徒会四天王をすべて打倒し、あの楽しかった頃(下校)に戻るんだ!
俺からすべて(下校)を奪っていくやつを絶対に許さねえ! 綴る!
そうしてまた俺とユキ、あとついでに二人と一緒に自由きままに楽しく黄金の時間(下校)をまた決め込むのだ。
「よし」
俺の覚悟は決まった。
「頼もう!」
そうして俺が相対する憎き面々の姿が、扉を開けると――
「……あれ?」
誰も居なかった。
「…………」
いや、呼び出ししておいて誰もいないとかマナー違反とかいうレベルじゃないだろ!?
終いには本当に帰るぞ! そして律儀にやってきた俺に謝って! 俺のこのやりきれない憎しみをどうにかして!
「あらユウ、来てたの?」
そうして直後、後ろから聞こえる毒舌系な書記ことチサ先輩の声。
「ねぇユウ、なんでそんな涙目なの? くわしく」
「なんでもないっす、目にゴミが入っただけっす」
一人で盛り上がってた自分が悲しくなんてないんだからね!
そして俺が否定すると「なぁんだ、残念」とねっとりと言い返してきた、そういう愉悦的なの好きそうですよねチサ先輩。
……むしろ俺がそういう行動に出るのを知ってて仕組んだんじゃないかと邪推もする、心が折れちまいそうだぜ。
そうして俺とチサさん、そして姉貴とコナツとアス先輩が出そろうまで十分を要した。
呼び出された俺が一番最初で、呼び出したっぽいアス先輩が最後とか……ユウジが社会の常識教えてあげよっか!?
そうして生徒会活動――などを新入りの俺に説明する。
アニメやラノベだと”やたら権力持ってるだけでロクに仕事もしない集団”という印象しか無かったのだが――
ようは生徒と教師の橋渡し的な立ち位置らしい。
生徒の学校の改善点などの要望を生徒会が吟味した上で教師に通すことで、場合によっては要望が通る。
教師などの連絡事項を全校レベルで伝える際にも、教師から伝えるのと生徒会(俺以外美少女・美女集団)から知らされるのでは印象が段違いなのだという。
そんな相互のやり取りの仲介のほか、各催しのそれぞれ委員会との調整などをする役割らしい。
今日は生徒からの要望にあった「ゴミ箱が溢れている場所があるのでどうにかしてください」というのを議論し、新規ゴミ箱の発注とゴミ箱の増設に伴うゴミ回収業者への伝達を決めるなどまじめーに生徒会活動を行った。
なんだ……あんな拉致のされ方したから、もっとふざけた議論でもしているのかと思っちゃうじゃん。
でも実際はちゃんと生徒の為の議論をしてるじゃないか。
俺の中で、少し生徒会というものの考えを改めなければならないようだな――
「はい、まともな議論はおわりおわりー」
「え」
終わり……? いや、確かに真面目に議論っぽいことはしたけど……ゴミ箱のことだけだよな?
そういうもんなのか……?
「いいユウ、これからが本編よ」
「え……本編がなんですって? チサ先輩」
本編ってなんだよ、今の真面目な生徒会活動が本編じゃなかったらなんなんだよ。
「ドンベーって、西のうどん・そばの方が美味しいと思うんだよね!」
…………うん、それがどしたの?
ドンベーとはカップ麺最強のそば・うどんのブランド、らしい。
”ベエ”と書けない事情があるとかないとか。
「いやー、会長。私は東派だぜ、やっぱりあれぐらい醤油! してないとそばもうどんも食った気がしないんだよ」
「なら私としてはそばは東、うどんは西ね。東の醤油感が強いのはそばには合っているけど、うどんだとちょっとくどいのよね。うどんはダシが効いている方がいいわ」
うん? うーん。
なんか会長が言ったことに対して福島が物怖じせず言ってるし、チサさんはチサさんでめっちゃ語ってるし。
「ちょっと皆!」
その時姉貴が声を少し荒げながら立ち上がる、だよな。
唐突に始まったこのよくわからない、生徒会に関係ないような議論おかしいよな。
声を大にして言うべきだ、まともな議論をしないならユウくんと帰ります! と!
「ドンベーのそばは鴨だし一択だよ!」
姉貴、それは思ってたのと違う。
「「邪教徒め!」」
そして会長と福島から顰蹙をくらった、基準がよくわからん。
「「かきあげが入ってないなんて、論外!」」
そこかよ。
いや確かに見た目には寂しいけどさ……あれは鴨だしの柔らかな味わいがだな、俺としては姉貴の意見に賛同だ。
でも俺としてはドンベーのそば・うどんと言ったらカレーうどんかカレー南蛮そば派とは言い出せないふいんき(←何故か変換できない)だな……。
……って、あれ?
「確かに……ミナの言う事は一理あるわ。私も実を言えばそばは鴨だし、うどんは鬼かきあげよっ!」
「「邪教徒め!」」
「うどんにかき揚げはちょっと」
そしてチサさん賛同なし、いや鬼かき揚げ自体は美味しいけど。
やっぱりうどんにはお揚げがだな……って俺も乗って来ちゃったじゃん、姉貴も実は楽しいのこれ?
「分かってないわね。鬼かきあげのたまねぎの甘味がスープにじわりじわりと染みていき、ザクザクのかき揚げも少しだけつゆに浸ることで、それはもう抜群にあうものよ」
「「じゅ、じゅるり」」
なんで会長と福島は影響されてるんだよ。
いや、まぁ確かにうまそう……だけど。
「な、なんかドンベー食べたくなってきた!」
「わ、私もだ! こりゃコンビニに寄って帰らねえと!」
「アスちゃん、こんな時間に食べたら夕食食べれなくなるわよ」
「今度の週末はうどんにするね! ユウくん!」
「お、おう」
完全に議論している間に触発されてるぞ、皆……。
まったくこういうのはほんと皆影響受けやすいよな、そういえばカップ麺ストックにドンベーのうどんがあったような――
「本日の生徒会終了!」
謎ポーズを決める会長をもって、ドンベーへの欲求が高まったことにより生徒会活動が終わるのだった。
会長の宣言とともに総員があっという間に撤収、五分もしない内に俺と姉貴含め生徒会室から締め出されたという。
というか……俺来なくてもいいよね、これ。
そうして生徒会が終わったので姉貴と帰路に就く。
正直俺がいる意味が本当になかったんじゃないかという生徒会活動であり、これならユキと下校してた方が良かった……と思ってもしまうのである。
最初のまともな議論な際に、非現実的なことを言うアス会長、極端なことを言うチサ先輩、過激なことを言う福島……の意見を取り入れながらも現実的に議論を取りまとめたのは他ならぬ姉貴だった。
俺としては初めて間近で見た――副会長をしている姉貴。
それはなんだか姉貴が自分のことを話している時よりも、なんだか頼もしくかっこよく見えて、いつもの俺に甘い姉貴とは違っていて。
俺が生徒会に居ると姉貴が緩んでしまうのではないかと思ってしまうのだ。
俺を甘やかすからと、あの”副会長の姉貴”として居られないのなら、俺はいよいよいらないのではないかと。
実際初日で面を喰らっていた俺は議論に参加することもなく、皆の議論を見守っていただけ。
だから俺は、姉貴が推薦してくれたことは今になって思えば喜ばしい誇らしいことだとは思うのだが。
俺はきっと――
「あー! ユウくんとの生徒会楽しかった!」
「え?」
「ユウくんが生徒会に入ってくれた良かったよ~、ほんと嬉しいっ!」
「いや、俺は……」
多分何の役に立てそうもない、そんなことが俺は負い目にあって。
やっぱり俺は生徒会を辞退する、そう言いかけたその時だった。
「ユウくんとね、学校で一緒に居られる時間が幸せなんだ~」
そう、か。
俺と姉貴は別学年なのだ。
そして姉貴は生徒会役員だからと朝は早く家を出る、だから俺と姉貴は朝顔を合わせないことも殆どだった。
だから学校がある日俺が姉貴と話すのは、会えるのは、姉貴が生徒会終わりに家に帰って来てから就寝までの数時間。
姉貴も基本的に分別はあるようで、学校にいる間俺のクラスに来たのはあの”例の弁当”を作ってきた時ぐらいなのだ。
理由はもちろん、上級生が下級生の、それも弟のところに遊びに来ていたら――双方が浮いてしまうから。
もしかしたら姉貴は自分が浮いてしまうことは厭わないかもしれない、だが俺のことも考えてくれているのだろう……と思う。
「でもユウくん、もしかして生徒会嫌だった……?」
例え俺の自信過剰であってもいい、考えすぎでもいい。
それでも姉貴が、俺を好いてくれる姉貴が、甘やかしてくれる姉貴が――すべてを完璧にこなす上での息抜きとしてでも俺を必要としてくれる姉貴が。
俺といる時間を作りたいが為の、俺を生徒会に拉致し生徒会で副会長の補佐代行という自分のサポート職に付けるという一連の出来事を考えたのだとしたら。
俺も……そりゃ「生徒会やっぱ辞める」とは言い出せない、わな。
「いや、今日行ってみたら悪くなかった……かな」
「そ、そう?」
「まぁでも強いて言うなら――」
「い、言うなら?」
俺にだってプライドはある。
男の意地だってある。
姉貴が副会長だから、と何もしない――つもりはない。
生徒会を続けるなら、そう思うのだ。
「姉貴の補佐代行なんだから、バンバンコキ使ってくれよ」
「ユウくんをコキ使う!? そんなこと出来ないよ! むしろ私をコキ使って!」
「いや、副会長をコキ使う補佐代行とかやだよ……」
「うーん、でも」
すごい姉貴、かっこいい姉貴、誇らしい姉貴。
俺はそんな姉の弟として、少しは――カッコ付けたい。
「もっと弟を頼ってくれよ。頼りないかもしれないが、頼られないのも寂しいもんだぞ」
「そ、そうなの!? ごめんね!?」
「いや……謝らせるつもりはなかったんだが、こっちこそすまん」
「ううん! そっか、分かったよ!」
そうして姉貴は、なんだか幼い頃にぼんやり覚えているようなぱぁっとした屈託のない笑顔で――
「じゃあ、ユウくん! これからお願いっ!」
こう、姉貴のお願いに弱いんだよなあ……俺ってヤツは。
もう、こりゃ――俺も生徒会頑張らないとな。
「あれ?」
「引っ越しか?」
家まで歩いてくると、どうやらお隣さんが忙しない様子だった。
「お隣さんって……結構の間空き家だったはずよね?」
「だよな……」
おおよそ一年近く前にお隣さんが引っ越して以来、空き家だったその隣家の部屋に灯りがともっていた。
そんなお隣さんに引っ越し業者が出入りしていたのだ、道幅のそこまで広くない道に引っ越し屋のトラックが止まっている。
「お隣さんなら挨拶しないとねー」
「そうだなー」
この時俺は、もちろん姉貴でさえも単に隣に見知らぬ誰かが引っ越してきた。
そうとしか思っていなかったのである――
そうして家に帰って玄関を開けると、桐が律儀にも「おかえりじゃ! ユウジにミナ!」と出迎えしてくれる――かと思ったら。
次には「腹が減ったのじゃ!」とか言ってる、お前も生徒会役員になってもらおうか。
生徒会帰りですぐに姉貴は夕飯を作り始め、手伝いを申し出るも――「ユウくんは生徒会初日だから疲れてるでしょ! 休んでて!」とかなりの気迫で言われてしまって成す術もなく。
確かに気疲れはしたが、疲れているのは姉貴も一緒だろうに。
しかしそういうところは頑固なためにキッチンに入れてもらえなかった。
……確かに姉貴ほどの家事スキルは俺には無いが、いつか姉貴を手伝えたら――そう思うのだ。
ちなみに桐に生徒会のことを話すと――
「ふむ。生徒会は五人中三人がギャルゲーのキャラクターじゃな」
と、割と重要な情報を引き出せた……そういうのは規制入らないのな。
というか俺と姉貴除いたら生徒会役員全員ギャルゲーキャラじゃねえかとツッコミを入れる。
もっとも桐が”ヒロイン”と言わなかったことを少し考えるべきところなのかもしれないのだが……今はそれ以上の情報は引きだせそうになく、諦めることにした。
そうしてまた、俺の一日が終わるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます