第三章 楽しい原作の書き方<体験版>
第005話 √0-3 『ユウジ視点』『↓』END
ギャルゲーヒロインのせいで俺の頸動脈がやばい事件こと、通称”姫城事件”のあと。
教室に戻ればすっかり昼休みも終わりかけで昼食を食べ損ねてしまった。
それからは何も変わらないいつも通りのいたって普通の午後授業、あの視線に関してはもう感じなくなっていた。
もしかすると彼女が告白を撤回=諦めてくれたからだろうか?
……今になって思えば惜しいことをしたような気もしてくる、ギャルゲーのヒロインであり俺が主人公であるという前提を除けばあんな美少女と付き合えるチャンス二度とないだろう。
もしかするとこれはゲームで言うヒロインのフラグを折った状況なのかもしれない、ということはまさかのゲームオーバー……?
にしては、ユキが死んで終わった時と違って今も世界は続いているのが不可解ではある。
そうして放課後になるものの姫城さんとは、あれ以降一切話すことも顔を合わせることもなく、彼女はすぐさま下校していったようだった。
いつもの面々で下校し家に帰る、すると――
「おかえりじゃ」
「……ただいま」
帰宅部な俺が家に帰る頃には、これまで誰も出迎えてくれることなんてなかった。
もっとも別に俺が他の家族全員と険悪だから、とかそういうわけではなく……まぁ色々あるのだ。
だからこそ、正直未だに信用はしていない自称妹こと桐の出迎えが。
ほんの少し、ちょびっと、一ピコぐらい嬉しかったような――
「ご飯にするかの? お風呂にするかの? それともわ・が・し?」
私とか言ってたらブン殴ってたかもしれない――お前の一人称”わし”だろと!
「じゃあ和菓子で」
すると桐は俺に右手を差し出したかと思うと、一度閉じ「ふぬっ」と力をこめると――
「ほれ」
「っ!? どっから出てきたその和菓子」
「わしの血と汗の結晶ぞ」
「じゃあいいや」
どんな成分で構成されてるか分かったもんじゃないし。
「――というのは冗談としても、わしのカロリーを消費して出来た無添加和菓子じゃぞ! 食え!」
「いやいや、そもそもそのこれまでに脈略ない能力っぽいそれはなんなんだよ!?」
特に言わないけどどっかで見たぞ!
どっかのかったるい系主人公が使ってそうな能力だぞ!?
「”カロリーを和菓子に変える力”じゃぞ、わしの二十ぐらいある能力の一つじゃ。ちなみに一番最初にお主に話しかけた時の能力は”テレパシー”じゃ」
「お前……なんでもありか」
というか二十もあるのかよ……ちなみに部屋に不法侵入したのもまた能力の一つらしい。
「もっと頼ってくれていいのよ!」
「なんか貸しがデカそうだから遠慮する」
「ぬう、わしの利子は良心的なのじゃがな……将来わしと結婚するだけというお手軽さじゃ」
やっぱり利子あるんじゃん、そしてその利子超でかいじゃん。
「まぁ冗談はさておき立ち話もなんじゃ、遠慮せず入ると良い」
「俺の家なのに玄関で立ち話させたのは誰だよ……」
そうして俺はようやく家の床を踏むことになるのだった。
この時間はこの家だと事実上俺が一人なのもあって、桐とはいえ新鮮ではある。
「イベントを乗り切ったようじゃな、おめでとう」
「お、おう……」
本当になんとか乗り切った感じだがなあ。
「というかマジで命の危機に瀕したんだが、もうちょっと細かく言ってくれてもいいだろうに」
「すまぬな、わしはあれ以上情報を漏らすことはできないのじゃ。してしまったが最後……」
「最後……?」
「減給二か月じゃ」
雇われてんのかよ、そして普通の会社員サラリーマンで考えると地味な打撃!
「というのはギャグとしても、わしが話そうと思っても話せないのじゃ。例えば……そうじゃな。この世界の黒幕は<規制>とこんな風にの」
「どういう仕組みだよ!?」
桐が言おうとした単語に完全に覆い被せるように、俺の脳に直接<規制>の言葉が響いた。
そして黒幕とかやっぱりいるのかよ、あと細かく話してほしいと言った手前だがそんな重要すぎることあっさりバラそうとするのはどうかと思う。
「まぁお主に必要以上の情報は、この世界では無理ということじゃ」
「一応理解はした」
だから桐が言っていた情報は、ある意味俺に話せるギリギリのラインだったのかもしれない。
そう考えるとこの桐とかいう自称妹にして、管理者とか名乗ってるこのロリも悪いヤツじゃないのかもしれない。
「では……成功報酬のチューをもらおうかの」
「あー、学校に教材忘れたからいってくるわー」
「お、おい! 報酬を踏み倒しする気か! それにリメイク前はもうちょっとわしの扱いが悪かったし、お主の熱意も強かった、今のお主は冷めて――」
俺は桐を部屋に残して猛ダッシュでまた学校に向かうことになったのだった。
桐には言い訳のように聞こえたかもしれないが、実際に俺は忘れものをしていたのだ。
それがもっとも明日必要なものでもなく、急を要するわけでもなかったのでいいかと思っていたが……桐のおかげで口実が出来た。
そうして目的のブツを確保しミッションコンプリート、再び帰路に就こうとする。
未だ学校に残っているであろう姉貴と一緒に帰るかと考えていたが、歩いていた教師に聞いたところ姉貴の残る用事はまだ時間がかかりそうだった。
仕方ないのでいよいよ帰ろうとするが、せっかく家を出たからと散歩をキメることにする。
「じゃあ……一なんとなく、商店街をぶらつくとするか。」
俺はそうしてこの町唯一の商業エリアといえば聞こえはいいが、ちょっと店の種類が揃った地方の商店街に向かった。
そうして歩いている間にこの世界の俺の周囲における現在の状況整理にかかろうとしよう。
まずは”現実側”だが、ギャルゲ-が混ざり合ったことで大きな変化をもたらすかと思いきや、そんなことはなかった。
これまで存在している人間はギャルゲーのキャラクターこと現状は桐・ユキ・姫城さんの三人について受け入れているということ。
周囲に混乱をもたらさなかったポイントはといえば、どうやら俺以外において”現実にこれまでもギャルゲーのキャラクター達が存在した”ということになっている点にある。
俺以外からすれば以前から存在して、人によっては家族であり、はたまたクラスメイトだったり友人だったりと……辻褄合わせに余念はないようだ。
ならば以前から存在していた、ユキや姫城さんの代わりに居なくなった人間はどうなったのかといえば……それは俺にも分からないのだ。
俺としてもユキも姫城さんも「言われてみれば前から居た気がする」という考えもあるまでで、その去就については把握できない。
もし、入れ替わりに”消されて”しまったのなら、特に変わったことのない平穏なハイブリッドなこの世界にもある程度の警戒心は持っておくべきだろうと思う。
とはいっても仮定の話でしかなく、案外どこか別のクラスに移って辻褄合わせがなされているのかもしれない……とりあえずは意識しておこうと思う。
実は俺の記憶の中にも明らかにギャルゲーと現実がハイブリッドしたことで生まれたと思われる”作られた”記憶が存在している。
というのも俺とユキとは幼馴染という設定下にある、となれば二人のエピソードもギャルゲー的には存在しているはずであり、片方だけが覚えてる……なんてことにはならないよう調整されているようだ。
ギャルゲーのヒロイン及びキャラクターがこの世界に自然に溶け込んでいることを考えれば――まだこれからもギャルゲー出身の誰かが俺の前に現れることは考えるべきだろう。
ユキも姫城さんも初見では何の違和感もないのだ、姫城さんに至っては一目見たときにはやたら美人なクラスメイトということでギャルゲーのヒロインだなんて想像もしなかった。
思い出すのは原作となったギャルゲーこと”ルリキャベ”のヒロインは総勢十人にして、攻略可能が八人だったということ。
ということは最低あと五人はギャルゲー出身の子がいることになる……これは注意深くするべきかもしれないな。
つまり非モテな俺なんかに話しかけてくる女子はギャルゲーヒロインかもしれない!
わ、分かりやすいリトマス試験紙とも言える、だから現状は様子見を決め込もうと思う……なんだか悲しくなってきたけど。
そういえば気になる点として、俺の記憶の中にもあることでありユイに裏も取ったのだが――ユキや姫城さんがこの学校ではアイドル的存在であることだ。
もちろん芸能事務所に入っているわけでもなく、アイドル活動をしているわけでもない。
ただやたら人気、それもアイドル的な偶像的人気を持っているようである。
その証拠にユイの情報筋では二人にそれぞれファンクラブが存在しているらしい……なんとも前時代的というか、そこだけ昔のギャルゲーとかマンガ風味だがこの世界では普通になっているらしい。
なんにせよそのファンクラブについてもある程度警戒する必要があるかもしれない、なにせヒロインのファンクラブというものは――そのヒロインと関係を持つ者に優しくはないのがお約束なのだから。
俺の住む町こと藍浜町は、”浜”という名前から察せられるがここは海に面した町である。
海には砂浜が多く残り、それなりに都市からのアクセスも良いので海水浴場を設け夏は観光客で賑わっている。
駅が海に近く、徒歩で十分行ける距離というのも大きい利点だろう。
この町は大きく二つに分けられ前述の「海側」ともう一つの「山側」が存在する。 双方は丁度鉄道の路線で区切られ、線路がその海側と山側の境界となっている。
山側はというと、主に商店街のアーケードや学校があるのはこちらで、そのほか住宅も主にこちらに密集していたり。
そして山側ということで、その町から少々離れた場所には、山がそびえ立っている。 細長い町に沿うように、継ぎ目なく山々が連なるので、海側から見ると鬱蒼と茂る緑が真っ先に目に入るだろう。
その山を越えると、また別の町があるのだが、完全に山に遮られこの町から望むことは出来ない。
で、その”山側”に存在する高等学校に俺とヒロインは通学している。
その名も”藍浜高等学校”なんの遊びもない地名が由来の平凡な名前の高校だ。
アクセスがいいのと住宅地に近いことから、ここの生徒数はそれなりに多く一・二・三年合わせて六〇〇人を超える。
クラスも一学年は5クラスほどあり、俺とユキ、その他悪友もは一年二組に在籍していた。
そんな俺はというと、比較的内陸側にして山側にある商店街に来た。
いつも通り夕方のこの時間は主婦やら学校帰りの高校生やらで結構賑わっていて身近に活気を感じる。
そんな中をなーんの目的もなしに歩いていると、
「……あれ? 下之君?」
「こんばんは、下之くん」
そこにはクラスの委員長こと……名前はえーと、すぐそこまでは出てるんだけどなー。
三つ編の髪とメガネをかけて、なんだかビシっとしたイメージの女の子である。
「委員長は、買い物か?」
「うん、そうだよ」
と言って、右手に持つ食材の入ったレジ袋を持ち上げて見せる委員長。
「それじゃあ、まだ買い物頼まれてるから。またね」
少し振り返って委員長は手を振ると、近くのスーパーに入っていった。
……委員長が、行ったところで俺の残念脳は凄まじいラグののち思い出してきた。
本名は「嵩鳥 真菜香」(タカトリ マナカ)だったな。
一応言っておくが、ゲームのキャラではない。
これまでのもちろん現実にいた紛れもない実在の人物である。
委員長を務めているのであだ名が「委員長」であり、それも今年だけでなく俺と同じ中学時代も委員長になっていた覚えがある。
しかし俺との接点は”中学一年のクラスから高校の一年二組のクラスまで同じ”というだけのもので、名前も少し特徴的だったのと委員長ということで覚えていたに過ぎない。
真面目な子という印象で、しかしとっつきにくいということはなくクラスでも「委員長」と親しまれていた。
一年二組の女子のレベルが高いと俺が評した理由の一つであり、委員長も結構可愛い方なのである。
しかし本人浮いた噂もなく、クラスでの愛され具合も中学校あたりから変わらない面子が手伝っての「腐れ縁」ですらあって。
そんな委員長のイメージといえば、委員長をしているのと――たまに休み時間などに何かノートに文章を書いているぐらいである。
もっとも何を書いているかも分からないのだが、あまりに俺が意識を向けた時にはノートに何か書いているので「小説家」とも内心で思っていたりする。
そでも俺と委員長の関わりは、ずっと同じクラスメイトにしてはあまり無いのが自分でも意外に思う。
名前も覚えてるし顔もおぼえているし、割と長いこと同じクラスでいるはずなのに意識しないような、そんな感じ。
ただこうして外で会えば普通に挨拶するという、別に険悪ではないクラスメイトの間柄だと俺は勝手に思っているのだった。
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