第1章 川島という男

 川島裕矢は人なみよりも背が高い。そして大きい。中学生の頃から使っている大人用の布団は姿勢良く寝ようとすると必ず足がはみ出る。祖父母の古い家に行けば、移動のたびに頭を下げなくてはならず、夕ご飯を運ぶ際にはマイクタイソン顔負けの低姿勢と上下左右に頭が揺れる。


田舎というほど田舎でもなく都会というほど都会ではない少し田舎のより街に住んでいるため、服や靴など日常品は行きつけの店で買うことになる、当然、店員も客の顔をある程度覚えているが、川島が店に行けば、まず川島のサイズに合う商品の有無を川島自身は何も言わなくても伝えられる。そして、「今日はあります」と言われることはほとんどないため、概ね1ジャンルに一日、4件の店をいく。


しかし、最近はネット通販なるものが浸透し、これに川島は涙こそこぼれはしなかったが、この時代に生まれることのできた幸運を神仏、先祖、両親に感謝せずにはいられなかった。


川島はナルシストというわけではないがどうも世の中は不平等この上なく、そして自身は神仏やそれらの類に愛されているか、見守られてるようにしか思えないのである。それほど多くの幸運に巡り合ってきている。例えば中学の夏の大会が終わるとエスカレーター式の川島の高校の野球部に県では神様並みの偉業を成し遂げた名監督が就任し、理事長が室内練習場までこしらえた。


高校最後の夏の大会では相手チームのホームランがエンタイトル2ベースになるというとんでもない大誤審が起こり、結果1対0で勝利し準決勝にまで進んだ。


その後大学に進学すると世の中の景気は良くなり、なんと川島の3流大学でも大企業に就職できる可能性があるという時代になった。あらゆる幸運に包まれているような感覚があるときは万事うまくいくという不思議な経験とコツを持っている、そして些細な偶然にも奇跡的な幸運にも感謝するのが川島であった。


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