ながしめ

川上成美

序章

 大村真央は10分早い時計を無意識に眺めていた。

 夕陽が部屋に差し込み、ただ時間が流れ、差し込んだと思った夕日の光に陰りが見え、だんだんと暗くなっていく。夕日に照らされた後の部屋はいっそうに暗さを引き立たせる。真央は悪夢を見ていたため、あまり良い気分ではなかったが夢見心地と現実に戻れたという安堵、そして夕日の変遷は彼女にある種の感動を覚えさせた。

 気がつけば、彼女は目覚めてから2時間も彼女のベットの上で何もせず過ごしている。頭の中がもやもやとした白い霧がゆっくり渦巻くようにすべきことがまとまらないでいた。正確には、何をすべきかはわかっていたが、どちらの足をどちらの手をどのように動かせば良いのかが、わからなくなっていた。何もかもが億劫で仕方なく、無意識に思考が停止していた。


「水が飲みたい」「起きたい」「何か食べたい」「寝ていたい」箇条書きのように、流れるテロップのように欲求が発現し、そして喪失していく。


「ああ、なんて気持ちがいいの

 永遠にこうしていたい、

 呼吸がゆっくりと、

 優しく弱く、

 目を閉じていたい」


 彼女は自身の肉体が振動したのを感じ、それが自室の玄関のドアが鍵を開ける前に動かしたために起こる振動と察した。心拍数が跳ね上がり、心臓が脈打つ音が聞こえ、筋肉が緊張し動けなくなっていた。

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