第27話 ○○入りチョコレート 解答編



 椥辻刑事は疑問を口にする。


『どういうことだ……? チョコレートの中に、毒が含まれていたって言うのか? しかし見たところ、市販品だぞ』

「一応確認なのですが、ナギさん、Bがハンドルキーパー、つまり運転手を務めているということは、そこは車でしか行けない場所なのですね?」

『ああまあ、そうだ。バスだとちょっと手間だな』

「これは私の予想なのですが、そもそもお酒を飲めるのがAだけなのではないですか? いえ、CやDやEも飲めるかもしれないが、今日は飲んでいない。車で来ているし、まだ昼間だから」

『確かに、昼食ではアルコールは振る舞われていないが……。Aだって、お酒を飲んでいたとは聞いていないぞ』


 お姉さんは言った。

 ごくごく、当たり前のように。


「“飲んだ”のではなく、“食べた”のでしょう――アルコールをね」


 Aは、お酒を“飲んだ”のではない。

 お酒を“食べた”のだ。


『……どういうことだ』

「チョコレートですよ。食べたことありませんか、中に洋酒が入っているチョコ? あれ、度数の高いものでは3%以上の賞品もあって、いくつも食べるとアルコール検査に引っ掛かる可能性があるそうです」

『じゃあ、Aはチョコレートを食べて、酔っ払ったと? ……そう都合良く体調を崩すと思えないな』


 それがあるんです、とアルマさんは続ける。


「『ホテイシメジ』というキノコがあります。仄かに甘く、確かな歯ごたえがあるキノコで、大抵の料理には合う美味しい食材なのですが、毒性があるんです」


 『ホテイシメジ』。別名、『ヨイツブレ』。

 お姉さん曰く、このキノコを食べるとアルデヒドが代謝されなくなり、食後三十分~一時間程度で酷い悪酔いを起こすのだという。しかも、ホテイシメジによるアルコール分解酵素の阻害は一週間も続くため、食べた後、一週間は飲酒できないという。

 つまり、と椥辻刑事は言う。


『……酒を飲んだ奴のみが体調を崩すってことか』

「そういうことです。ホテイシメジとよく似たキノコで、カヤタケやホテイダマシというものがあるのですが、こちらは毒性のない食用キノコです。ですから、山菜採りの際に、それらに混ぜて、ホテイシメジを入れておいたんでしょう」


 そうして犯人は、ごく自然にチョコレートを勧めた。

 急激な悪い酔いを起こす原因となる、洋酒入りチョコを。


「このトリックの上手い部分は、お酒さえ飲まなければ、ホテイシメジは全く無毒なキノコだということです。キノコと洋酒入りチョコが合わさることで、はじめて毒性を発揮する……。犯人は料理人であるCが怪しいでしょうね。」

『分かった、その線で詰めてみる』

「こちらには、夕方までには来れそうですか?」


 椥辻刑事は小さく笑った。


『……間に合わせるさ。あの子と約束したんだから』

「それは重畳です」


 私も可愛い女の子が落ち込んでる様を見るのは嫌ですから、なんて。

 お姉さんは妖しく笑ってみせたのだった。



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