第24話 私の身体に流れるものは 捜索編



 母との別れは唐突にやって来た


 隣町の音楽教室に通っていた私を仕事帰りのあの人が迎えに来て、その帰りのこと


 疲れてうとうとしていた私は当時のことをよく覚えていない


 凄まじい衝撃と轟音の後


 気付いた私が見たのは運転席で血塗れになっている母の姿だった


 一目で即死だと分かる、彼女の姿


 ……トラックとの正面衝突事故だった


 原因は母の過労による不注意


 いつかこうなるんじゃないかと思っていた私は大したショックも受けず、淡々と事実を受け止めることができた


 考えもなしに不倫して、学生の身分で身籠って、実家からは勘当されて周囲からは孤立して……


 そうして誰にも助けてもらえず、一人で死んでいった



 「馬鹿な人」


 それが私の抱く、あの人に対する感想だった


 そして私は今日まで一度も、あの人のお墓には行っていない





「捜査とは言っても、既にどういう人間が犯人である可能性が高いか、ということは分かっています」


 アルマお姉さんはそう言いながら、ベッド脇の棚から折り紙を取り出す。

 そうして一枚の紙を手慣れた風に折り始める。

 ……折り紙?


 彼女の行動に疑問を抱きつつ僕は訊いた。


「どういう人間が犯人である可能性が高いか、って……。予想が付いてるの?」

「付いてますよ」

「どんな人だと思うの?」

「そうですね……」


 一羽の鶴を作り終えたお姉さんは、それを僕に手渡してから続けた。


「確信のないことはあまり言いたくないのですが、順を追って説明をするより、最初に結論を述べておく方がカッコ良い気がしますね。シャーロック・ホームズその人がそういった振る舞いをする人物でしたし。なので、一つ二つ私の推理した犯人の特徴を述べておこうと思います。恐らく犯人は学生で、かつ右利きです」

「なんでそう思うか……は、教えてくれないんだよね」

「後で詳しく教えてあげますよ。具体的には犯人が捕まった後にでも」


 二羽目の製作に取り掛かるお姉さんはそれ以上の言及を避けた。

 彼女の名探偵じみた態度に期待感を抱く僕は、ふと、窓際に立つリンネさんの雰囲気が変わったことに気が付いた。

 纏っていた穏やかさは霧散し、大きな目が細められ、眼光が鋭く変わっていた。

 尤も僕の視線に気付くとすぐにあの安心感を抱かせる微笑をこちらに向けたけれど、彼が何かを理解したことは確かなようだった。


 あるいは。

 リンネさんが推理していた犯人像も同じだったのだろうか?


「さて、では私が調査を始めるに当たって、お二人にそれぞれお願いしたいことがあります。まず、リンネさん」

「何かな?」

「私の外泊許可を取ってきてください。三日ほどで構いません。私は任意入院なので許可はすぐ下りると思いますが、万が一向こうが渋った場合は上手く説得してください」

「簡単に言ってくれるなあ。アルマさん、一応君は病人なんだよ?」

「心配ならば一緒に付いて来てくださっても構いませんよ? その方があなたも安心でしょう?」

「……しょうがないな。分かったよ」


 観念してそう言ったリンネさんは何処か嬉しそうだった。

 ……もしかしてこの人、アルマお姉さんのことが好きなんだろうか?


「ていうかお姉さん、病院から出られたんだね」

「病院から出ずにどうやって事件を解決するんですか。事件は病室ではなく現場で起こっているんですよ?」

「安楽椅子探偵みたいにここで謎解きをするのかと思ってたんだよ。新聞の記事を集めてたりしたし」

「私は別にA別館に閉じ籠もっている引きこもりの天才刑事ではありませんし、広所恐怖症のNEET探偵の少女でもありませんよ。調べたい事柄があれば自分で現場に赴きます。ついでに言うとドクターペッパーは嫌いです」


 杏仁豆腐の味がしますから、なんて呟いて性悪に笑ってみせる。


「第一、安楽椅子探偵として有名なミス・マープルはシリーズを通してみると旅行好きの社交的なお婆さんです。それと同じですよ。私は決して社交的な人間ではありませんが、たまには旅行くらい行きますし、行った先で事件に遭遇することだってあります」

「旅行先で事件に遭遇するとか、現実であるんだね……」

「ありますよ。事件に巻き込まれたことや近場で事件が起こったことくらい、誰にだってあります。ねえ、リンネさん?」

「誰にだってあるとは言えないと思うけどな、僕は」

「でもあなたにはあるでしょう?」

「それは、まあ……あるけど」


 あるのか。

 旅行先で殺人事件に遭遇するなんて、少年探偵や高校生探偵の特権だと思っていた。

 どうやら僕が考えていた以上にこの世の中は物騒であるらしい。


 ……両親を殺された人間が言うことじゃないか。


「話を戻しましょう。では、可愛らしい少女の方には椥辻刑事への連絡を頼みましょうか」

「椥辻さんに?」

「はい。お知り合いでしょう?」

「そうだけど……そのこと、お姉さんに話したっけ?」

「噂に聞いただけですよ。彼女があなたを助けた、とね。あなたは知らないかもしれませんが、彼女は中々の有名人ですから。一部では刑事課のエースとも呼ばれているそうです。掃き溜めに鶴、という感じです」


 指先で鶴を弄びながらお姉さんは言う。

 この場合の「掃き溜め」とは警察のことだろう。

 かつてホームズがレストレード警部をそんな風に表現していた記憶がある。

 尤も、椥辻刑事をレストレードに重ねているとすれば、言葉の上でどれだけ褒め称えていても「自分には劣るが」「警察の中では」という注釈が付くに違いないけれど。


「では、今日のところはこれでお開きにしておきましょう。後は椥辻刑事に会い、実際に現場を観察してからですね」

「あのさ、お姉さん」

「なんですか?」

「……もう真相は分かってるんでしょ? じゃあ、先に教えてよ。お姉さんが推理したこと」


 僕の言葉に彼女は口端を歪める妖しい笑みを見せた。

 そうしてとてもクールに、それ以上に酷く意地悪い感じで言った。


「駄目ですよ。後は実際に事件を解決してからです」

「どうしても?」

「どうしても、です。精々一人で頭を悩ませていてください。ホームズの原作やパスティーシュ作品でのお決まりのシーンですよね」


 確かに「既に事件のおおよその輪郭を掴んでいるホームズと検討も付いておらず一人頭を悩ますワトソン博士」という構図はよく見掛けたものだけど……。


「ですが、私はホームズよりもいくらか慈悲深いので、今からあなたと一緒にこれまでの事件と情報、捜査経過をおさらいするくらいのことはしたいと思います」

「本当?」

「はい。私も念の為、自身の推理を再考しておきたいですしね」


 アルマお姉さんは手にしていた鶴をベッドに引っ掛けてあるビニール袋の中に落とし、また笑う。

 どうせ何も分からないだろうと僕を嘲り侮っている内面が隠し切れていない表情に、僅かな対抗心が心の奥から沸き上がってくる。

 第一、お姉さんにとっては他人事の事件でも、僕にとっては実際に自分が被害者になった事件なのだ。

 理想論だけを述べるならば僕が自力で犯人を推理して逮捕し、両親の仇を取って記憶を取り戻す、というのがベストだ。

 相変わらず何処か他人事のようにそう考える。


 自分の両親が殺されたというのに、記憶喪失のせいで未だに怒りも悲しみも無縁の僕。

 本当に殺された人達は僕の家族だったのだろうか?と疑問にさえ思ってしまう。

 だとしたら、僕が犯人を捕まえる動機は復讐ではなく、泣く為なのかもしれない。

 当たり前のように不幸を受け止め、当たり前のように涙を流す為。

 家族と記憶を同時に失った僕はそんな当たり前すら奪われたままで。


 だから。


「……でもやっぱ、自力では無理かな」


 小さく諦めの言葉を声に出し、一人自嘲する。

 そもそも彼女がホームズで僕がワトソン博士だとしたら、僕が自力で真相に辿り着くことはまずありえないのだ。


 リンネさんがアルマお姉さんの主治医へ相談に行き、二人きりになった病室。

 お姉さんはあの作っていたスクラップブックを取り出し、最初のページを開いて僕に手渡す。

 前に見た時は気が付かなかったけれど、どうやらこれは件の殺人事件に関する記事を纏めたものらしかった。

 これまでに五件発生し、六人の犠牲者を出している無差別連続殺人事件。

 推理小説やミステリ漫画のようにカッコ良い事件名や怪人名は付いていない。

 いや、そもそも。

 この不定期に続いているこの殺人が「同一犯による無差別殺人である」と認定されたことがごく最近のことなのだとお姉さんは語った。


「あなたは覚えていないようですが、この連続殺人、途中まで全然騒がれていなかったんです」


 僕が覚えていないのは記憶喪失のせいか、それとも単に興味がなかったからか。

 あるいは彼女が言うように、そこまで頻繁に紙面を飾ることがなかったためか。

 本当のところは分からないけれど、報道が少なかったことは事実らしい。

 それを象徴するように、スクラップブックの最初のページに貼り付けられた事件記事は決して大きなものではなかった。


「一件目の事件を簡単に説明すると、中学教師が自宅で殺害された、というものでした。中年の男性で、担当教科は歴史。この市の某中学の女子バレー部のコーチをしていらっしゃったそうです」


 如何にもそれらしく「某中学」なんて言ってみせるお姉さんだけど、新聞を見れば中学校名は普通に書いてある。

 まあ、どうでも良いんだけど。

 僕はしばらく学校にも通えそうにないし。


「結婚歴はありますが、現在は独身で、一戸建てに一人で住んでいました。ご自身もバレーの経験者であるそうでかなりの大柄です」


 お姉さんの言葉を聞きながら新聞記事に目を通していく。

 事件が起こったのは三月の平日の真っ昼間。

 被害者である古川という教師は自宅に帰宅した直後、大振りなナイフのようなもので刺殺されたのだという。

 背後からの腹部への一突きによる失血死だそうだ。


「『かなり大柄』とか『バレーの経験者』とかは記事にないけど、お姉さんが独自に調べたの?」

「そうとも言えますし、そうではないとも言えます。次のページに週刊誌の記事があるでしょう? そういった雑誌は雑多な情報を調べ上げてあることないことを面白可笑しく書くのが仕事であって信憑性に乏しいので、その記事が事実かどうかを自分で確認しました」

「うーん、そうだね。マスコミって、アイドルの子を捕まえて、整形したとかしてないだとか不倫したとかしてないだとか騒ぎ立てるのが仕事みたいだし」

「……意外と俗っぽいことを言いますね、あなた」


 クスリと小さく笑うお姉さん。

 ……病院は暇だからとテレビのワイドショーばかり見ているうちに悪影響を受けていたらしい。

 気を付けないと、と自戒しつつ先を促す。


「凶器となったのは刃渡り二十センチを超える刃物です。持ち歩いていれば銃刀法違反で間違いなく捕まる代物ですね」

「……あのさ、お姉さん。次のページの記事には『腹部の傷から犯人は左利きと推察される』という記述があるんだけど……」


 さっき、「犯人は右利きです」って言ってなかったっけ?


「それについては後で説明します。犯人を捕まえた後でですがね。……さて、では何故この殺人事件が騒がれなかったかと説明しましょう。簡潔に言えば、『あまりにも有り触れたものだったから』――です。独身男性が自宅で刺し殺された。殺害現場はリビングで、警察の考えでは犯人は被害者が外出中に家宅内に侵入し待ち伏せ、帰宅した被害者を一突きにした。凶器は犯人が予め用意していたものだと推測されている。……こんな事件、親しい人間による怨恨説が支持されるに決まっているじゃないですか」


 犯人は、被害者の自宅で待ち伏せをしていた。

 常識的に考えて外に出る際には鍵を掛けるから、自宅で待ち伏せができる人間は合鍵を持っている人間、あるいは作る機会があったような近しい間柄の人間である。

 塀に囲まれた一戸建てであることもその説を補強している。

 そう淡々と続けて「簡単なロジックですよ」とお姉さんは口端を歪める。


「お誂え向きなことに、被害者には離婚歴があった。そしてその理由は女性問題だとされている。週刊誌にもそんなような内容の記述があるでしょう? 教え子に手を出した噂が流れるほど女癖の悪い人物だったようですからね、だとしたら犯行の動機は痴情の縺れでしょう。犯人は元妻か、浮気相手か、過去の恋人か。あるいは大穴で被害者が傷付けた女の恋人や家族かもしれません。……まあこの推理は間違っているのでどんな人物像を想像しても良いのですが」

「……え、間違ってるの?」


 筋は通っていると思うんだけど……?


「実際によくある話ですし、分かりやすい筋書きなので納得もしやすいのですが、間違っています。物事の基本は応用ですが、過去に似たような事例があるからと言って全く同じだと考えてしまうのは愚かですね。尤も、今回の場合は仕方ないのかもしれませんが……」


 一拍置いてから彼女は続ける。


「では次の犠牲者の話に移りましょう。梅雨が終わりに近付き暑くなり始めた七月、隣町の人気のない通りで女子高生が殺されたというものです」


 何ページか捲り、次の犠牲者の事件の記事を見つける。

 被害者は中筋という名前の高校二年生。

 死亡推定時刻は夜十時から十一時前後。

 友人の証言から、学校帰りに友人と遊びに行った帰りに襲われたのではないか、と考えられているそうだった。


「死因は右頸動脈を掻き切られたことによる失血死。凶器は大振りな刃物。犯人逮捕に繋がるような決定的な証拠――例えば被害者が抵抗した際に爪の中に残った犯人の皮膚の一部などは発見されませんでしたが、犯行現場のすぐ傍の電柱に火を消す為に煙草を押し付けた跡を発見したこと僅かながら灰が採取できたことはお伝えしておくべきことでしょう。吸い殻は発見されませんでしたが」


 事件当日は小雨が降ったり止んだりする不安定な天気だったらしい。

 吸い殻の方は洗い流されてしまったのかもしれない。


「また、衣服の乱れなどから判断して大した抵抗はできなかったのではないか、とも考えられています。人気のない夜道を女子高生が一人で歩いて帰るということが不自然ではないにせよ、無警戒過ぎるということで、『彼氏などに家に送ってもらう際に殺されたのではないか』という推測もされています」


「うん、夜道を一人で帰るのって、怖いしね」

「尤も、その夜道というのは被害者の自宅から最寄りのバス停に向かう際の近道ではあるので思慮のない人間ならば一人で歩いて帰ったとしてもおかしくはないと思いますがね。私なら気にせず一人で帰るでしょう」

「……お姉さん、不審者に襲われるのとか、怖くないの?」


 いくら百七十を超える女の子としてはかなりの長身であるアルマお姉さんも、やはり女の子。

 大柄な男の人から襲われればひとたまりもないはずだ。

 けれど、お姉さんは平然と言った。


「怖くはありませんよ。実際に襲われたことは何度かありますが、どれもなんとかなりましたから」

「何度か、って……」

「これでも自信はあるんですよ? ひょっとしたら、頭脳よりも」


 そう続けて彼女は羽織っていたショールを脱ぎ、力瘤を作ってみせる。

 お伽噺のお姫様のような容姿をしていたものだから気付かなかったけれど、よくよく観察してみると、お姉さんの身体は入院患者とは思えないほどに引き締まっていた。

 下手な男子よりも余程力がありそうだ。

 かのホームズも、細身ではあったけれど信じられないほどの膂力を見せるシーンがあったことを思い出す。

 強靭な肉体を持つというのは名探偵の必須条件の一つなのかもしれない。


「ですが、私の話は参考にならないでしょうね。この被害者の女子高生は運動部に所属していたことや運動が得意ということはなく、どちらかと言えば愚かな大人が思い描くような、夜遅くまで家に帰らず繁華街で遊び歩いているタイプだったそうです。両親は『誰かから恨まれているといったことは聞いたことはなかった』と話していますが、それはまあ、単に『娘のことはよく知りません』と答えているに過ぎません。放任主義という名の無関心の結果でしょうね」


 お姉さんの口振りはクールなものだったけど、何処か刺々しい印象を感じさせた。

 なんとなくだけど、この人は『大人』というものが好きではないのかもしれない。

 そんなことを思う。


「そもそも逆恨みで殺されることなんてそれこそ有り触れていますしね。現実での大半の殺人は怨恨が動機ですが、怨恨にも色々あるということです」


 適当に纏めて、彼女はまた何度目かの「さて」という一言で区切りを付ける。


「この時点では二つの殺人事件は全く関係性はないと考えられていました。時間も場所も離れていますし妥当な判断でしょう。……三件目の殺人が起こったのは十一月のことでした。新聞配達員が被害者の自宅を訪れた際、玄関扉の向こう、土間部分に血塗れの被害者が倒れているのを発見しました」


 被害者は開田という五十過ぎの男性。

 十年ほど前に失業した後は定職に付いておらず、生活保護を受けながら日雇いの仕事をして暮らしていたらしい。

 住宅地や繁華街から離れた国道沿いの古びた一軒家に住んでおり、目撃者もなし。

 どころか近隣住民との付き合いもほぼなかった為に聞き込みは実り多いものではなかったらしい。


「これも一件目と同じく自宅での殺人なのですが、一件目との違いは場所が玄関であることです。インターホンを押し、被害者が扉を開けたところで、右下腹部を一突き。迷いのない犯行ですね。凶器は大振りの刃物。普段の生活から殺されるほどの恨みを買っているとは思えず、室内が荒らされていないことから物取の線も薄い。捜査は難航すると思われていました」

「思われていた、ってことは、難航しなかったの?」

「いえ厳密には難航しています。まだ犯人は捕まっていませんから。ですが、この市と隣接する二つの街、二つの警察署の管轄に跨る形で起こった三件の殺人事件に共通点があることに気付いた人間がいました。それがあなたの恩人である椥辻刑事です」

「椥辻さんが……?」

「はい。彼女は一件目の事件を担当していたのですが、三件目が起こった段階であることに気が付きました。この三件の殺人で使われている凶器が全て同じである、ということにです」


 一件目と三件目は同じ市の中で起こった事件だが、二件目の事件は隣の警察署の管轄で起こった事件だ。

 そのせいで発見が遅れてしまったけれど、実はこの三件の殺人事件の凶器は全て同じだった。

 刃渡り二十センチを超えるサバイバルナイフ。

 包丁や果物ナイフといった何処にでも手に入るような刃物ではない。

 同じ凶器で行われた作品が、市境を跨いでいると言えど、半年間にこの近距離で三件。

 同一人物の犯行ではないか?という見方が出てきたのも当然と言えるだろう。


 だけど、お姉さんは皮肉っぽく言った。


「ですが、残念ながら警察の中の愚かな一派は一連の犯行は同一犯によるものである、という椥辻刑事の見方を一蹴しました。何故か? 教師と女子高生と無職の男性――この三人に共通点が全くと言って良いほど存在しなかったからです。つまり、犯人がその三人を選んで殺す動機がないだろう、と指摘したわけです」

「……でも、無差別殺人なんでしょ? よくニュースで聞くみたいな『誰でも良かった』ってやつじゃないの?」

「今でこそその見方が多数派ですが、無差別殺人なんて早々起こりませんから。言ったでしょう? 現実世界の殺人事件の動機の大半は怨恨なんですよ。故に、動機から調べていくのが主流なんです。その動機が見つからない。三人の共通点が見つかれば動機も分かるはずだ、と警察は徹底的に三人の交友関係を洗いました。……ひょっとしたら、この段階で椥辻刑事は予想していたかもしれませんね。次の殺人が近い内に起こることと、その犯行現場を」


 犯行現場?

 僕がそう鸚鵡返しをする前に彼女は続ける。


「次の事件が起こったのは二月。隣町のアパートの二階に住むOLが自宅内で刺し殺されたというものです。犯行時刻は深夜で、目撃者はいないということでした」


 被害者は長岡という二十代の社会人。

 夜遅くに帰ってきた彼女は部屋に潜伏していた犯人に殺された。

 三件目と同じく真正面から、これまでと同じく大振りなサバイバルナイフで。

 ただ、この事件では犯人は大きな証拠をいくつか残していったという。


「記事には『被害者の部屋の中には靴の跡があった』ってあるけど……」

「はい。犯人は土足で家に上がり込んだようです。そして、事件当日は雨模様でした。結果、靴の跡が残ったんですね。靴のサイズは26.5、量販店で買えるスニーカーで、靴から犯人を特定するのは難しいでしょう」

「でも、今度も煙草の灰が落ちてたんでしょ? えっと、リビングの机の上だっけ?」


 そう。

 今回の事件でも、二件目の事件で見つかったものと同じ銘柄の煙草の灰が残されていた。

 吸い殻は見つからなかったものの、捜査の手掛かりになることは間違いがない。

 勿論、被害者自身やその恋人が落としたものではないか?という指摘もあったが、被害者の長岡さんはそもそも煙草を吸わず、彼女の知り合いが落としたにしては落ちていた場所が不自然だ。

 どんなに常識のない喫煙者でも知り合いの部屋の机の上に灰を落とすような真似はしないだろうからだ。


「四件目はこれまでの殺人と類似点がいくつか見られるものでした。流石にここまでくると警察の中でも『この四件の殺人には何か関係があるのでないか?』という意見が主流になります。次いで、警察関係者が無差別殺人という意見を外部に漏らし、結果、『シリアルキラー』『殺人鬼』といった単語が紙面に踊ることになりました」


 厄介ですよね、とお姉さんは呟く。

 その通りだと思う。

 通常の殺人事件の場合は彼女が先ほど述べたように、動機から犯人を辿ることができる。

 けれど、本当の無差別殺人は動機から犯人を辿ることができない。

 こういった事件の犯人の目的は「人を殺すこと」だからだ。

 要するに、凄惨な事件が解決した後でワイドショーが報道するように「誰でも良かった」というわけだ。


「ミステリではこういった場合、ミッシングリンク――つまりは『被害者の隠された共通点』を見つけることが重要視されますが、今回の事件にはそういう素敵な要素はありません。いえ厳密には共通点自体はあるにはあるのですが……」

「あるの?」

「はい、あります。ただ、それは『殺しやすいから子どもを狙った』程度のもの。犯行に先立つものではないんですよ」


 ある人物が憎いから、その相手を手に掛ける――これが普通の殺人。

 無差別殺人の場合は、先に『殺人』という目的があるので、被害者同士の共通点にあまり意味がない。

 この手の事件で子どもが標的になることが多いのは、ごくごく単純に、「子どもが殺しやすいから」でしかないのだ。

 それは一般市民には重要なことだけど、犯人を捕まえることには全く役に立たない。


「そんなことよりも、あなたに役に立つ情報をお教えしましょう。椥辻刑事が何故、次の犯行場所を予想できたかの答えです」


 椥辻さんは何故、四件目の事件が起こる場所を予想できたのか。

 タブレットを取り出したアルマお姉さんは地図を表示させながら言う。


「これはあなたに以前お見せしたこの辺りの地図です。あの時あなたは分からなかったようですが、地図に表示されている赤い点は殺人事件が起こった場所を示しています。今は三つなので三件目までですね。……さて、事件はこの市と隣り合う街で起こっているのですが、何か気付くことはありませんか?」

「気付くこと……?」


 ああ、そう言えば。

 僕はふと気付く。


「多分関係ないけど、この三つの事件って、僕の住んでた場所から大体同じ距離で起こってるよね」

「……素晴らしい着眼点ですね。その洞察力を賞賛し、あなたを『ワトソン君』と呼びましょう」

「え?」


 ということは、正解?


「はい、正解です。賢明なるワトソン君のご指摘通り、三件の事件はある一点を中心に書かれた円の中で起こっています。『犯人は自宅から一定距離離れた場所、かつ土地勘のある範囲で犯行を行う』――地理的プロファイリングの基本的な考え方ですね。椥辻刑事は三件目の段階でこのことに気が付かれていました。だから、この円」


 そう言ってお姉さんは画面を操作し、三つの点を囲むような円を表示する。


「次の事件が起こるのは確実にこの円の中。そして四件目が起こったのが、ここ」


 タッチすると、また新たに赤い点が表示された。

 勿論、その点も円の中に収まっている。


「四件目ともなれば流石にどんな愚か者でも気付くでしょうが、三件目で気付かれたのは立派ですね」

「でもさ、お姉さん。それっておかしくない?」

「何がですか?」


 僕は言った。


「この円は僕の住んでた辺りを中心にして描かれてるんだよね? 五件目の事件が起こったのは僕の家。だったら、おかしくない?」

「……私は『犯人は自宅から一定距離離れた場所、かつ土地勘のある範囲で犯行を行う』と述べました。その理屈ならば、犯人の自宅があるのはあなたが住んでいる地域と同じはず。あなたはこう言いたいんでしょう? 『円の中心、つまり、自分の自宅すぐ近くで五件目の殺人を行ったことは不自然じゃないか?』と」

「うん……」


 殺人鬼の気持ちなんて僕には分からない。

 けれど、これまでの前提とお姉さんの意見を踏まえると、どうしても不自然に思えるのだ。


「さて」


 ショールを羽織り直したお姉さんは、また、あの妖しい微笑を見せた。

 穏やかの中に何かを隠した笑みを。

 彼女はもう、謎を解いている。

 何もかもお見通しで。


「……その件の答え合わせは私が犯人を捕まえてからにしましょう。五件目の事件についてのおさらいは、あなたには必要ないでしょうから」


 そう。

 僕はこの街を震撼させている五件六人の死亡者を出した連続殺人事件の唯一の生き残り。

 僕が記憶を取り戻せば。

 ……全ての謎は、解けるのだから。


 翌日の朝。

 僕は病院の正面玄関前にいた。

 アルマお姉さんの見送りをするためだ。

 三日間という期限付きの退院。

 果たして宣言通り、三日以内で犯人を捕まえることができるのか? 

 それは僕には分からない。

 ミステリじゃあるまいし、警察が捕まえられない犯人を素人が見つけるなんてありえない。

 けれど、今日も今日とて変わらない彼女の尊大で不遜な表情を見ていると、なんだか容易いことのような気がしてくるのだ。


「じゃあ、僕は助手席に乗るからアルマさんは後ろに。……ところで本当に大丈夫?」

「お気遣いはありがたいですがね、リンネさん。過剰な心配はいっそ無礼ですよ。ただ隣で母親が死んだだけです。大したトラウマじゃありません」

「君がそう言うなら良いんだけど……」


 そんなやり取りをして、タクシーの後部座席に乗り込むお姉さん。

 ドアが閉まる寸前に彼女は言った。


「では精々期待していてくれたまえ、ワトソン君―――」


 性悪な笑みを残し、お姉さんは病院を去っていった。

 ホームズを気取る彼女が果たして本当にホームズのように事件を解決できるのかは誰にも分からない。

 とりあえず僕は小説の中のワトソン博士と同じように、ホームズが戻って来るのを一向に結論の出ない推理を繰り返しつつ、待つしかないのだった。







 残された私が歩んだ人生は特に語るまでもないもの


 私のような境遇の子どもが歩む人生なんて相場が決まっているからだ


 親戚中をたらい回しにされるか


 孤児院に送られるか


 そうでなければ悪い奴等とつるんで堕落していくだけ


 私の場合は父親に引き取られることになった


 肉親と言えど、初めて会う相手だ


 血か氏かという議論に私が答えるならば、間違いなく氏になると思う



 幸せだったか?


 ……幸せなはずがない



 この社会の奴等は分かっていないのだ


 血の繋がっている相手だからと言って仲良くできるとは限らない


 優しくしてもらえるとは限らない


 そんな単純なことが





 御陵あるまは間違いなく天才である。

 それも、彼女の兄と同じく万能の天才だった。

 彼女との付き合いはそこまで長いわけではないが、そのことは十分に理解できていた。

 少しでも社会学に造詣が深い人間なら彼女が何年か前に書いた組織学に関する論文を目にしたことがあるかもしれない。

 社会工学や総合政策の分野では多少名の知られた人物なのだ。

 自立神経失調症を患っていなければ今頃は国家の中枢で僕が従うべき法律や政策を作る側に回っていただろう。

 少なくともこうして僕と言葉を交わすことはなかったに違いない。

 とにかく、御陵あるまという少女が非常に聡明であるのは確かだった。


 ただもう一つ確かなことがあるとすれば、どんな優れた頭脳を持った人間でも苦手なことがあるということだろう。

 つい数分前に自分の母親が隣で死んだという過去を「大したトラウマじゃない」と述べたアルマさんは、運転手に目的地を告げてからは一言も発することなく、微動だにせず目を閉じていた。

 そのゾッとするほど整った顔立ちは完全に血の気が引いている。

 どう考えても大丈夫ではない。

 次の瞬間にパニックを引き起こしても何ら不思議ではない。


「ごめんなさい、運転手さん。目的地は先ですけど、この辺りで下ろしてもらっても良いですか?」


 僕が勝手に行き先を変更してもアルマさんが異議を唱えることはなかった。

 口では「大丈夫」と言ったものの実際は少しも大丈夫ではないと分かっているのだろう。

 あるいは確かに大丈夫ではあるが、その大丈夫の裏には多大な苦痛と苦労が伴っている、か。

 どちらもよくあることだ。


 目的地の手前でタクシーを下りた僕達。

 自動車から下りて新鮮な空気を吸ったことで多少気分が楽になったのだろう、そこでやっとアルマさんは「勝手なことをしましたね」と苛ついた口調で言った。


「私はこの先のコンビニに行きたかったんです。どうして勝手に車を停めたりしたんですか」

「言葉が何よりも大事、って言ったのは昨日君が触れたNEET探偵だったかな?」


 アルマさんはまだ青い顔を振って静かに応える。


「……『言葉は、残酷なまでに確かだ。それは現実を切り分け、ただ一対の断面にする。矛盾は存在しえない。言葉こそ、この世界で最も大切なものだ。でも、言葉は剣だ。それは想いを確かな形にするけれど、同時に、形にならなかった部分を容赦なく殺す。』――この台詞のことですか?」

「そうそう、それだよ。流石の記憶力だね」

「それがどうかしましたか?」

「どうもしないよ。ただ僕の仕事は、言葉にならない相手の想いを聞き取る仕事でもある、ってだけだ」


 死にたいと口にする人間が本当に死を望んでいるわけがない。

 「死にたい」と言葉にするのは、きっと生きているのが辛くて苦しいから。

 生きているのが辛くて苦しくなければ、その人はきっと死など望まない。

 「死にたい」という言葉の裏には「生きていたい」という感情が確かにある。


「言葉にした想いだけが真実なわけがないじゃないか。少なくとも、僕はそう思うよ」

「それはあなたの勝手な思い込みです。思い込みではないにせよ、言葉にならない感情を読み取る才能を持つあなただからこそ言える独善的な発言です。他人の気持ちなんて、誰も分からない。だから言葉が大切なんでしょう?」

「……そうだね」


 でもさ、と僕は笑って告げる。


「これでも僕、プロだから。だから専門家としての発言でもあるんだよ。仮に君が『車なんて平気だ』と心の底から思っていたらその気持ちは尊重したいけれど、その結果が本人の不利益に繋がるのならば僕は君を止める。僕がしているのはそういう仕事だし……何より、それが大人の役目だとも思うしね」

「……前から思っていましたが、まったくリンネさんは嫌なところで『大人』という特権を振りかざしますねえ」


 アルマさんは笑った。

 春の音に耳を傾けるように目を閉じながら、穏やかに微笑んで。


「そうかな?」

「そうですよ。あなたの言う『大人』は綺麗過ぎるんです。鬱陶しいほどに。だから、反抗する気も失せます」

「それはごめん。……でも、僕はそんなに綺麗な存在じゃないよ。色々御託を並べはしたけれど、ぶっちゃけるとタクシーを下りた理由の一つは、僕が酔い掛けてたからだったから。勝手なことをしてごめんね」

「そういうところが綺麗なんですよ、あなたは。ムカつくほどにね」


 まあ歩くのも吝かではないですよ、と彼女はクールに付け足した。

 そこで一旦、この会話はお開きになった。


 期限は三日間。

 ただでさえ時間がないのだから、早く目的地に向かった方が良いだろう。

 会話なら歩きながらでもできる。

 道路を通勤らしき車が行き交う様を横目で見ながら話すのは現代社会に溢れる自動車の社会的費用について。

 有名な経済学者の著書に触れながらアルマさんが自動車社会に対する恨み言を述べている内に、目的地に到着。

 住宅街の傍らにあるコンビニエンスストア。

 そこが最初の目的地だった。







 何処にでもありそうなコンビニの前に設置された何の変哲もないベンチには若い男性が一人座っていた。

 ぼーっと春の空を見上げながら口の中でコロコロと飴玉を転がしていた彼は、僕達に気が付くと人当たりの良い作り笑いを浮かべて朝の挨拶を口にした。


「おはようございます、リンネ君、アルマちゃん」

「おはよう、時節君」


 待ちくたびれましたよ、なんて彼は冗談っぽく笑う。

 鞍馬時節。

 このコンビニで働く大学生であり、僕の従兄弟でもある相手だ。

 アルマさんにとっては知り合い程度の仲。


「覚えて頂いていて光栄至極です。前に、人の名前が覚えられないと言っておられませんでしたか?」

「物覚えが致命的に悪いだけですよ。ついでに二桁の暗算もできないですし漢字も書けません。あと人と目を合わせるのも苦手です」

「最早病院に行った方が良いレベルですね」

「でも背の高いスレンダーな子はタイプなので比較的覚えられますよ」

「単なる馬鹿ですね」


 この辛辣な口振りよ、と時節君はご機嫌に笑う。

 夜勤明けでテンションがおかしい、ということはないと思うが。


「で、何の用ですか? リンネ先輩はともかく、アルマちゃんがいるわけですから、遊びに来たわけじゃないでしょ?」

「うん、残念ながらね」

「あなたにお伺いしたいことがあるんです」

「なんですか?」

「殺人鬼に殺された開田という男性のことです。このコンビニの常連だったと聞きましたが」

「あー、その話ですか」


 やれやれ、と言わんばかりにアメリカ人のようなポーズをしながら時節君は答えた。


「名前は知らなかったですけど、刑事さんに写真見せられたらすぐに分かりましたよ。印象深いお客様でしたから」

「具体的には、どういう風に?」

「まあ……簡単に言うと、クレーマー、みたいな? そんな感じです。よくなんだかんだと文句を言ってたことを覚えてます。他のお客さんが並んでるのに訳の分からない怒り方で時間を取られると……ねえ? ここの某先輩は『死ねばいいのに』と口にしてたりしてね、それで警察に疑われてたんですけど……。僕も良い印象を抱いていなかったことは確かですね」

「生前、いつ頃来店されていたか覚えていらっしゃいますか?」

「いつ頃ですか? えーっと……。大体、夕方が多かったと思いますね。平日とか休日とかはあまり関係がなく、夕方から夜にかけての時間帯だったかな? 僕あまりシフト入ってないんで分からないですけどね。アレだったら、今度先輩に確認しておきますけど」

「いえ、それには及びません。もう用は済みましたから」


 予想通りでした、と彼女は笑う。

 尊大に、不遜に。

 アルマさんの代わりに僕がお礼を口にすると、時節君は欠伸を一つしてから不思議そうな顔で言った。


「ところで、なんでそんなこと訊くんですか?」


 立ち去ろうとしていた名探偵は足を止め、振り返らないまま詩でも吟ずるようにこう返した。


「別に、大したことじゃありませんよ。よくある、有り触れた、殺人事件の調査です」







 次に僕達が向かったのは最初の被害者である古川さんの自宅だった。


 閑静な住宅街の一角にあるその家は独り身の人間が住んでいたとは思えないほど立派な作りをしていた。

 尤も、コンクリート塀に囲まれている為に細部を観察することはできない。

 玄関に回ってみるが当然のように門は施錠されているらしかった。


「リンネさん。この塀、登れますか?」


 ふと、塀を観察していたアルマさんが言った。

 バスを使って移動したせいでまた顔色が悪くなっているが、どうやら気分の悪さよりも好奇心が勝っているらしい。


「登れるって……えっと、どういう意味かな?」

「字義通りの意味ですよ。この塀を乗り越えて家の中に侵入することはできますか?と訊いています」

「どうだろうなあ……」


 手を伸ばしてみる。

 塀の上部に手を掛けるのは思ったよりも容易かった。

 僕の頭よりも少し高いくらいだから、およそ二メートルだろうか。


「僕くらいの身長――少なくとも百八十くらいある人間で、しかも懸垂が得意な人なら登れるんじゃないかな?」


 そう言うと、アルマさんはふんと鼻で笑う。


「警察の方々もそう考えたのでしょう。それにしても、昔から思っていたのですが、リンネさんは隣に自分より優秀な人間がいると露骨に手を抜きますね」

「……そう見えるかな?」

「はい。意識的なのか無意識なのかは分かりませんが、あなたには非常に合理的な側面があるように見えます。頭が良い人間が隣にいる場合、あなたは『自分が考えるよりこの人に従った方が良いだろう』と思い、考えることをしなくなります。ある種、適材適所の精神ですね。自己評価が低いのでしょうか?」

「どうだろうな、うーん……」


 言われてみるとそういう考え方をしているフシはあるのだが、手を抜いている意識はなかった。

 恐らく彼女は「私が隣にいなければもっと別の結論を出したでしょう?」と言っているのだ。

 つまり、本来の僕ならば、何かに気付いているはずだと。

 買い被り過ぎだと思うが、彼女の期待に添えるように頭を働かせてみる。

 二メートルのコンクリート塀を乗り越える方法。


「……一連の殺人は無差別に行われたものである、という考えに対する反論の一つはこの一件目の事件の現場です。つまりは、塀に囲まれた一軒家の中で犯人は待ち伏せていた、という状況そのものです。被害者の家の中で殺人が起こった場合、三つの可能性が考えられますよね。一つは『被害者が犯人を招き入れた』という可能性。一つが『家の鍵を持っているほど親しい相手が犯人だった』という可能性。そして最後の一つが『空き巣のように勝手に家に入った』という可能性です。一連の事件が無差別殺人だとすれば、最後のパターンでなければおかしいでしょう? 犯人は狙い定めた標的の自宅に不法侵入したわけです」

「被害者が玄関や門の鍵を閉め忘れていた可能性はないかな?」

「勿論あります。ただ、私の考える犯人像が正しければ、犯人は玄関はともかく門が仕舞っていたとしても問題はなかったでしょう」


 何故ならば、犯人はこの塀を乗り越えることができたから。

 そしてなまじ高い塀に囲まれていると、窓などの戸締まりは疎かになるものだ。

 犯人は塀を上り、敷地内に入り、開いている窓を探して家屋内に侵入した。

 それがアルマさんの推理だ。


「自衛隊員みたいな人達は二、三メートルの壁なら乗り越えられるらしいけどね」

「解の一つはそれです。『犯人はこの程度の塀など苦にしない運動能力の持ち主だった』と」


 口振りから察するに、どうやらこれは間違いらしい。


「じゃあ、軍隊の技術じゃなく、パルクールとかはどうだろう?」

「そうですね。『犯人はトラスーズであった』――つまりはパルクールの実践者であり、例えば電柱を使って民家の屋根に登り、屋根伝いに被害者の自宅まで侵入した。それも一つの解です。犯人が実際にパルクールを学んだ経験があるかどうかは分かりませんが、そのセンスがあることは間違いがないでしょう。私が考える四件目の事件の解がそれです」


 四件目の事件はアパートの二階に住むOLが殺されたというものだ。

 恐らくそれは単に、よじ登っただけなのだろう。

 高層階に住む人間は窓を閉めないことが多いから、ベランダまで辿り着くことができれば部屋に入り込むことは容易い。

 犯人が土足であった理由も付く。


 が、アルマさんは別の解を持っているらしい。

 彼女は結局その解を口にすることなく歩き出す。


「……都会の人間が高い塀に囲まれた家を建てたがるのはセキュリティというよりも、プライバシーを守りたいからです。隣近所からの視線を気にして塀を作る。隣家の二階、三階からは家の中が見えてしまうこともありますが、それでも往来の人には見られずに済む……。しかしながら、こういった事件が起きるとセキュリティの重要性を考えさせられますね」


 一件目の事件の捜査はもう終わりのようだった。

 きっと彼女には全ての真相が見えていて、今はその確認をしているだけなのだろう。







 僕の行き付けの喫茶店で昼食を食べた後、僕達は警察署へと向かった。


 仕事柄様々な公的機関に出入りすることが多い僕でも警察を訪れる機会はそう多くはない。

 何が言いたいかと言えば、とても緊張する、ということだ。

 受付の歳若い女性に用件を告げる。

 ここへ来たのは、この無差別殺人事件の捜査をしている椥辻刑事から話を聞くため。

 アポイントメントはアルマさんの小さなワトソンが取ってくれた。

 フィクションの探偵じゃあるまいし、刑事課の刑事さんにいきなり「事件のことを聞きたいんですけど」と切り出すことはできない。


 この現実世界では誰かと繋がる為に色々と根回しが必要なのだ。

 それは僕がソーシャルワーカーになって学んだことでもある。


「……待たせたな、鞍馬」


 警察署の奥の小さな一室に通されて二人で待つこと三十分弱。

 扉を開けて現れた椥辻小梅警部補は地を這うイタチのような鋭い目付きをこちらに向けた。

 出逢った頃とまるで変わらない、おっかない印象。


「お久しぶりです、椥辻刑事」

「時候の挨拶をする間柄でもないだろう。……で、これが噂の御陵の家の娘か」


 僕と椥辻刑事はちょっとした知り合いだが、椥辻刑事とアルマさんは初対面。

 視線に応えるように彼女は口端を歪めてみせる。

 彼女がよくしてみせる偽悪的な微笑。


「お初にお目に掛かります、椥辻刑事」

「ああ、私はお前のことを噂に聞いているがな。お前の家族は有名人だから」

「私も椥辻刑事のお噂は予予。刑事課では『ナギさん』と呼ばれているそうで。私もそう呼んでも良いでしょうか?」

「丁重に断ろう」

「分かりました、ナギさん」


 眉間の皺を一層深くする椥辻刑事。

 不快に思いはしたもののそれを口に出すことはなく、彼女は「本題に入ろう」と僕達の真正面に腰掛ける。 

 椥辻刑事は言う。


「……アイツから電話を貰った時は驚いたよ。その内容が『病院で知り合った素敵なお姉さんが僕のことについて話したがっている』ということで更に驚いた」


 アイツ、とは、あの子のことだろう。

 六件目の事件の唯一の生き残りとされている少女。

 椥辻刑事が救った女の子。


「そして、その素敵なお姉さんとやらが鞍馬と知り合いだったことにもな」

「世間って狭いですね」

「世間は狭いが、お前の顔が広いんだよ、鞍馬。……アイツが言うにはな、『お姉さんはもしかしたら僕の記憶を取り戻してくれるかもしれない』ということだそうだ。まず最初に聞いておこう。それは事実か?」


 現職の刑事の鋭い視線に全く動じた様子もなく、アルマさんはいっそ可憐なほど泰然自若として笑う。

 誰に敵意を向けられても笑ってみせるその様は僕のよく知る彼女の兄とそっくりだった。


「記憶に関してはどうかは分かりませんが、犯人を捕まえることはできると考えています。ナギさんが二、三、私の質問に答えてくれるならば、の話ですが」

「その名で呼ぶな。……なるほど、ではお前の言う通りだとしよう。漫画やドラマじゃあるまいし、警察官が素人に事件の捜査内容を漏らすと思っているのか?」


 守秘義務。

 その四文字がどれくらい重いのかは、僕も知っている。

 僕も、椥辻刑事も、立場は違えど職務上他人の人生に深く関わる。

 そんな僕達がペラペラと仕事中に知った事柄を話してしまうとしたら、誰が僕達を信用してくれるというのだろう?


 事件の解決は大事だ。

 だがそれ以外に大切なことも確かにあるのだ。


「そんなこと、少しも思っていませんよ」


 アルマさんは退屈そうに答えて続ける。


「私は別に、あなたから仔細を聞こうとなんて思っていません。なので私は質問をしますが、別に答えて頂かなくとも結構です」

「……勝手にしろ」

「では勝手にします」


 彼女は言った。


「四件目の被害者の部屋の話なのですが、トイレの便座が上がっていませんでしたか?」


 その瞬間、椥辻刑事は目を大きく見開いた。

 なんでそのことを知っているんだ。

 咄嗟にそう言い掛けて寸でのところで自制し、更に次の刹那に彼女は全てに気付きしまったと言わんばかりに舌打ちをした。


 そう、その態度こそが何よりの答えだった。

 言葉にせずとも分かることはいくらでもあるのだ。


「……私の予想は正しかったようですね。ありがとうございます、ナギさん。あなたが私を侮っていてくれて助かりましたよ」


 そう言って隣の天才は笑った。

 尊大に、不遜に。


 油断。

 椥辻刑事の敗因はアルマさんに対する油断だった。

 決して彼女は感情が顔に出やすい人間ではない。

 だがそれでも今日初めて会った子どもに外部に漏れていない事件の詳細を言い当てられれば、驚いてしまうのも無理はない。

 だって、そんなことが予見できるだろうか?

 この少女がフィクションの名探偵のように事件の全てを見抜いている、だなんて。

 認められるだろうか?

 警察が必死で捜査しても逮捕できない犯人を病院に入院している少女が暇潰しで捕まえようとしていることを。


「……お前……」

「怖い顔をしないでくださいよ、ナギさん。まだ質問は残っているんですから。さて二つ目の質問です」


 そう前置きし、一拍置いて彼女は問う。


「ナギさんは何処まで見抜いていらっしゃるんですか?」


 二人の視線が真っ向からぶつかる。

 椥辻刑事は、今度ははっきりと警戒と敵意をその瞳に宿していた。

 もうアルマさんが何をしても驚くことはないだろう。

 彼女のことを天才だと認めたのだから。

 だが悲しいかな、僕には分かった。

 その堅い決意を伺わせる視線それ自体が答えだった。

 椥辻刑事も、気付いているのだ。







 警察署を後にした僕達は次の場所へと向かった。


 五件目の事件現場。

 ある夫婦が無残にも殺され、その子も死に掛けたという家の前に。

 一件目の事件が起こった地域と同じく、ここも何処にでもある住宅街、という感じだった。

 登下校する小学生達、立ち話をする買い物帰りの主婦、自転車を停めて自宅に入っていく近所の高校生……。

 平和な光景。

 そう言えたかもしれない。

 物々しく立入禁止を示すテープが貼られた一軒家がそこになければ。


「……五件目の事件はこれまでと毛色が異なります。それ故に警察内では『別の人物の犯行ではないか?』という予想もあるそうです」


 五件目の事件。

 それはつい二週間ほど前のある日の夕方に起こった。

 この家に住む夫婦が殺されたのだ。

 第一発見者はたまたま近所を歩いていた椥辻刑事その人。

 大きな物音を耳にし不審に思った彼女はインターホンを押すも、返事はない。

 もう一度呼び掛けるも応答はやはりなく、嫌な予感がした椥辻刑事は庭の方に回ってみた。

 そこで彼女が見たのは掃出窓の向こうで血塗れになり倒れている家の住人達だった。


「椥辻刑事はガラスを叩き割りリビングの中へと入りました。ただ、夫婦は既に息絶える寸前で助かる見込みはなかったそうです」


 父親の方は首の左側、頸動脈を掻き切られたことによる失血死。

 母親の方も同じく首を切り裂かれたことが死因だったという。

 ただ最後の一人、中学生に上がるかどうかという年齢の少女は腹部を刺されただけで、意識こそなかったが息はあった。

 それが、あの子だ。

 他に特筆すべきことがあるとすれば、彼女は倒れた際にテーブルの角に激しく頭を打ち付けたらしく、片目が潰れていたということ。


 注目すべき点はもう一つある。

 今度の事件の凶器は二つあるということだ。

 一つは母親と子を刺した例のサバイバルナイフ。

 そして一つが父親を死に至らしめた、何処の家庭にもありそうな果物ナイフだ。

 そのナイフは指紋を丁寧に拭き取られ、部屋の片隅に放り捨てられていた。

 サバイバルナイフの方は庭先に落ちていたという。

 こちらからも指紋は摘出されなかった。


「椥辻刑事が応急処置を施し始めたその時、物音を不審に思ったという隣に住む少女が現場にやってきました。その高校生は椥辻刑事の指示で救急車を呼び、その他近所の方の助力もあり、彼女――あの眼帯の少女はどうにか一命を取り留めました」


 それが五件目の事件の顛末だった。


「……さて、もうここに用はありませんね。もう何もありませんから。謎も、何もかも。ABCショップの老人風に言うならば『犯罪に謎というものはありえんよ――叡智ある人間がそれの解明にあたる限りはな』という具合です」


 そう言ってアルマさんは踵を返す。

 そうだね、と呟いて僕も後に続いた。

 彼女の言う通り。

 ここにはもう、何も残されていないのだから。







 父達は私を道具として使った


 「カワイソーな子どもを引き取り愛情を持って優しく育てる家庭」


 その子ども役が私だった


 実際に愛情があるかどうかは関係がない


 周囲からそう見えれば良いのだ


 優秀だった私は優秀である内は立場を保障された


 それは裏を返せば、出来損ないになれば生きていけないということだった



 母の道具として生まれて


 父の道具として育って


 ……私の人生は、一体なんだったのだろう?



 私は、どうして生きているのだろう?





「……リンネさんは、ある種、理想的な天才ですよね」


 アルマさんがそう切り出したのは、彼女が今日の捜査の終了を宣言し、御陵家の召使いさんに連絡を取った後のことだった。

 迎えの車が来るのを待つ間の暇潰しという感じで彼女はふとそう口にした。


「僕は天才なんかじゃないよ」

「あなたならばそうおっしゃると思っていましたよ、リンネさん。『天才』という言葉が大仰ならば『才人』と言い換えましょう。あなたは天才ではないにせよ、それなりの才能はある人間です」


 それは光栄だね。

 少しおどけて言ってみせると、彼女は小さく笑った。

 夕暮れ間近の公園。

 幼い頃、公園で仲の良かった子と日が暮れるまで遊んでいたことを思い出す。


「それなりに才能があり、決して驕り高ぶることはなく、周囲から愛され、様々な経験をしながらも今では一人の大人になった……。理想像だと思います。漫画の主人公になれますよ」

「そうかな」

「そうですよ」

「色んな人にお世話になったことは確かだけどね」


 僕は幸いにして、死ぬような辛い思いはしていないし、勿論実際に死んでもいない。

 だけど様々な場面で色々な人達に支えてもらったと思っている。

 そしてそうした支えがなければ生きてこれなかっただろうとも。


「……ただ、だからこそ、あなたには致命的な弱点がありますね。そう、あなたには弱点がない。それこそがあなたの弱点です」


 「あなたみたいな人に私のことが分かるわけがない」。

 何度か、そう言われたことがある。

 僕の両親は今でも健在で、祖父母も元気に暮らしている。

 恋人と死別した経験もなければ、親友と決別した過去もない。

 決定的な挫折や失敗をした覚えもない。

 そうなりかけた事柄は周囲に支えでどうにか乗り越えることができた。


 僕の人生は、多分幸せだった。

 だからこそ、それが弱点なのだろう。


「上辺だけのあなたの情報を纏めて一言で表現すれば、『ただの幸せ者』です。あなたが今のあなたになったのは、ごくごく単純に、沢山の善意に触れたからです。他人に優しくされた経験が数え切れないほどある――だから自分も他人に優しくしようと思える」


 ですが、と彼女は言う。


「あなたの最大の才能である感受性があなたを『ただの幸せ者』にはしておかない。他人の感情を我が事のように感じ取ることのできるあなたはありとあらゆる他人に共感する。そして、当人と同じように傷付いていく」


 両親から。

 昔の主治医から。

 大学の先生から。

 幾度となく言われたこと。

 「お前は他人の辛さや苦しさに触れる職業に就くな」。

 強過ぎる感受性は他者の傷を自己の傷とする。

 感受性の強い人間は、そもそも支援職になんか向いていないのかもしれない。


「……そうだね、アルマさん。でもそれは僕だけの話じゃないよ。二次受傷――『共感性疲弊』『外傷性逆転移』と呼ばれる相手に感情移入し過ぎて自らが傷付いてしまう現象は僕達の世界じゃ有り触れていることだ。精神科の先生も、警察官も、レスキュー隊の人も、お医者さんや看護師さん達も、ボランティアの人も、誰だってだよ。震災の映像を見ただけで無力感に傷付く人間はいくらでもいるんだから」

「その通りかもしれません。ですが、あなたの感受性は強過ぎます。他人の不幸を他人事と思えない。助けたい、救いたいと願う」

「それだって誰でもだよ。心の理論なんて言うまでもないだろう? 多くの人間は二十歳になるまでに他人の立場に自分を置き換えて考えることができるようになる。だから僕達は他人を多少なりとも理解できる」

「それは理論上の話です。誰も――とは言いませんが、この社会の多くの人間は他人のことなんて考えていませんよ。考えるとしても、ごく身近な人間のことだけです。何故かは分かるでしょう? ……辛くて、苦しいからです。自分の人生で手一杯なのに見ず知らずの他人の苦痛まで理解していたら身が持たないんですよ。普通の人間は自然とそのことが分かるんです。ですが、あなたは、」

「だとしても!」


 彼女の言葉を遮るように俺は言った。


「だとしても、俺……じゃない、僕は他人を理解したいからこの職業に就いたんだよ。だから、良いんだ」

「……良くありませんよ。あなたが数え切れないほど他人の苦しみに共感してなお今のままでいられるのは、その数以上に他者から優しくされた記憶があるからです。心が強靭というわけじゃない、単に受け取った善意の総量が多いだけなんですよ。そして悪意がその善意の総量を上回った時は……あなたは、間違いなく壊れます」


 死ぬか。

 殺すか。

 どちらかですよ。

 目を閉じて、静かに彼女は呟く。

 あの天才らしい自信に満ちた態度は欠片も伺えない。

 どうすれば良いだろう?

 僕のことを心配してくれるこの少女を笑顔にする為に、僕は。


「……ほら、また。今もです。自分のことではなく、私のことを考えている」

「それは……」

「別に、私はあなたの恋人でも友達でも家族でもなんでもありません。だからあなたが死のうが殺そうが知ったことではないのは事実です。ですが、無理を承知で忠告しておきます。……あなたが助けるべき可哀想な人達を理解しようとするのは構いません。ですが、訳の分からない犯罪者までもを理解するのはやめた方が良い」

「……今回の事件もそうだって言うんだね、アルマさんは」

「そうです。無差別に人を殺す人間のことなんて理解する必要はありません。どんな事情があろうと、そんな人間はただの異常者です。ワイドショーのコメンテーターと同じく、最近の若者は怖いな、時代は変わった昔は平和だったと馬鹿みたいな感想を抱いていてください。それが他ならぬあなたの為です」


 迎えの車が道路に停まったのはその時だった。

 映画でしか見たことのないような黒塗りのリムジン。

 夕陽の中、彼女は「また明日」と告げて、歩いて行く。


「……アルマさん」


 僕はそんな彼女の小さな背中を呼び止める。

 何を言うべきかも分からずに。

 でも、何かを言わなくちゃという衝動に従うままに。


「君には、この犯人の気持ちが分かるの?」


 僕の言葉に振り返った彼女は小さく首を振った。

 そうして言うのだ。


「……分かりませんよ。だって私には、他人の気持ちが分からないんですよ……」


 その一言を春風の中に残して彼女は去っていく。

 それが嘘であることは確かめるまでもないことだった。




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