第3話アイアンカエデのハールと牧歌


・・・そう思ってた時期がおれにもありました。












現実ってやつはどこまでも過酷だった。


命運尽きたとはこのことだろう。






もう旅をはじめて何年もすぎた。






おれは最後にたどりついた街で調子に乗ってギャンブルに有り金全部突っ込み見事にすってしまった。


ポケットの中は空っぽになり、手を突っ込んでも出てくるのはゴミばかり。


おまけに賭博で借金を踏み倒して逃げる為に街の外に飛び出したはいいけど、次の街にはいる通行税すらもってないときた。










いやいや、あの勝負は絶対に勝てるはずだったのだ。


ルーレットで赤に入るか黒に入るか当てるだけなんだけど、29回も連続で黒がでてたんだ!


だからおれも便乗して黒にいれたのに結果は赤。






ふざけっんなっ!そこはきりよく 30回いけよ!!












そして現在おれは、フラフラとおぼつかない足取りで街道を歩いている。傍からみればいつ倒れてもおかしくないほど、一歩、一歩と踏み出す足に力がはいらない。


いまのおれに必要なのはあれほど追い求めてきたロマンでわなく睡眠と一切れのパンだ。










良く考えてみるともう何日も食事らしい食事はしていない。


何とか食いつなぐために所持品をほとんど売り払ってお金をつくり、露店で売ってる豆を買って食っただけだ。








残っているのはいま着ているよれた皮鎧と擦り切れたシャツとズボンに皮のブーツ。


ルーレットをするために自慢の特注の剣も売ってしまった。


いま持っているのは代用の鉄屑とかわらない刃がつぶれた剣。


ああ…あの剣は最高だったな。出来上がった時は皆に自慢したもんだ。














もう歩けない、睡眠不足で腹もスカスカ、視界も揺れはじめた、きっとおれの人生ここで終わるんだ。






振り替えれば楽しい人生だったな、そう例えばエルフの里で・・・と最後の回想に入り死ぬ準備を整えていたら、後ろから、街を出発した荷馬車がこちらに向かってはしってきていた。










おれは生き残るにはここしかないと直感的に悟り最後の力を振り絞り茂みに潜り込んで息をひそめた。すると荷馬車が目の前を通過する。


おれは馭者台の死角に隠れるように荷台にスルリと潜りこんで、積んである樽やら木箱の隙間に体を埋めた。物音をたてないように気をつけた。








よし・・うまくはいれた。バレていない。


流石だぞおれ!


このままバレないように次の街までやりすごせばミッションコンプリート。まさに九死に一生えるといやつだ。


たが今回はマジでやばかったな、もうギャンブルはやめよう。


次の街で今度こそおれはジョー・シシのような高潔な人間へと生まれ変わると自分に誓った!!




「そうさ、おれは誉れ高き男・・・ん?」






なんか目の前の樽から良い匂いが漂ってくる。






・・・じゅるり。






ちょこっと何がはいってるか確認しようかなぁ。


いやいや、別に他人様のを勝手にたべるとかそんなんじゃないからね!?


おれはついさっき高潔な人間になると誓ったルーク様だ。そんなことをするはずがない。


ただもし劇物とかだったら危ないから確認するだけだ!








おれはやましい気持ちが何一つない自分に驚きつつも樽の蓋をそっと開けてみる。






するとそこには良質な塩漬けされた干し肉があった。








・・・・・・じゅるり。










馬車はガタンガタンと揺れている。


あまりにも揺れているから、この干し肉がその振動で寝そべる俺の口に飛んできてもなんら不思議はないはずだ。


いや、必然ともととれるだろう。


え、蓋は空いてなかった、さっきの誓いはどうしたんだって?




バッキャロー!!!!


男が一度たてた誓いをたがえるハズがなかろう!!






あくまでもこれは偶然だ、偶然馬車の振動で蓋が開いて、偶然干し肉がたまたまそこに倒れていたおれの口に落ちてくるだけだ!




これほどの偶然が重なればつまり必然、結果必ずおこる未來といえる。


だからこれからおれがするこうどうは、世に言う偶然の先取りというやつだ。


いまか後かの些細な違いだ。




ならいまやっても問題はない。






ゴックン・・・






「い、いただきます・・・・・んー、うまし!」








数日ぶりのまともな食事、頬がおちそうだぜぇ。


あれ、もうなくなった・・・・・まぁもう一枚くらい偶然食べても大丈夫だろ。


はー、うまし!うまし!!














結局満腹になるまで偶然干し肉をたべだおれは、荷物に挟まれながら横に寝転がった。満足、満足。なによりだ。


車輪が小石を踏むたびにガタガタと揺れて寝心地は最低だったが、腹が満たされたせいもあってすぐに眠くなった。


今日は久しぶりに良い夢がみれそうだ。






「おやすみなさい」






欲望のままに瞼を閉じるとあっという間に眠ってしまった。






















「おい!お前こんなとこでなにしてやがる!!」






「んーーー、おお~ここにも偶然干し肉がぁ、いやぁー偶然入った家の台所に偶然干し肉があったら誰でも偶然たべちゃうよなあ~」






「そんなもんはもう偶然でもなんでもねぇ!!ただの空巣だ!!!ていうか起きろ!どんな夢みてんだテメェ!」










「うるさいなー、いま良い夢めてるんだからもう少し寝かしてくれよ」






おれは野太い男の大声で目を覚ます。どのくらい眠っただろうか。太陽はまだ出ているがもう夕暮れ間近だ。


3時間ってところかな。


俺は目を擦って起きようとするが、まだ頭がぼやてるうちに、足を男に掴まれ荷馬車から引きずり降ろされた。その時に後頭部から地面に落ちて脳天に大きな衝撃を食らっちまった。




「い、痛てぇー」




思わず何度も後頭部をさすってみるが血はでていない。ケガはないようだった。




「いったいいつの間に忍び込んだんだ」




顔をあげるとそこには麦わら帽子を被った毛むくじゃらの大男が腕を組んで俺を見下ろしていた。


顔半分はひげでおおわれていて、腕も毛でむしゃむしゃだ。


男が口を開くとアルコールの匂いがうっすら漂ってくる。


どうやら少しお怒りのようだ。




「さっき街道で倒れそうだった時にちょうど通りかかったから、乗らせてもらったんだ。勝手にのって悪かったよ」




俺は先程までどれだけつらい状況だったかを身ぶり手ぶりで伝える。


大男はそんな俺に呆れたのかもういいと背中をむける。


バレていないようだから干し肉のことをはあえて言う必要もないだろう。


まぁ、悪さをしたわけじゃない、偶然だしな。










「ちっ、まあいい。これからは俺の馬車に勝手にのるんじゃねーぞ!」








つれない態度でそういって大男は御者台にもどろうとするがおれは立ちあがって男の腕を掴んで引き留める。


それにしてもものすごい筋肉だ。


掴んだ腕も丸太のよう太い。










「まってくれよ。トルガの街までいくんだろ?乗せてってくれ」










男は立ち止まり、おれの全身を上から下までゆっくりと品定めするかのように見渡す。


そしてゆっくりとおれに向かって右手を差し出し手を広げる。


それがどんな意味かわからないほどおれも馬鹿じゃないが、期待には答えられない。










「・・・・金はないんだ」








「じゃむりだな。他をあたりな」




それは困る、こんな時間にこんな場所通る人なんてそう何人もいない。










「待ってくれよ。旅の道中暇だろ?話相手ならできるぜ?それにこれも・・・」












俺は懐から手の平サイズの長方形の箱を取り出す。












「なんだそれは」




どうらやら大男はこれがなにかをしらないようだ。


それはおれにとってとても都合がいい。










「ハ―ルという楽器さ。アイアンカエデっていう鉄のように硬い木のモンスターを素材に使っていてね。良い音がでるのさ。ちょっと聞いてくれよ」




俺はハ―ルの側面に空いている横一列に並んだ小さな穴に口をつけて吹く。


するとピューと澄んだ音が鳴る。










「どうだ、いい音だろう?一曲演奏するから聞いててくれよ」






大男がなにか言いたそうに口を開きかけるが、そのまえにハールに息を吹き込んで演奏をはじめる。












俺はこの大男が気に入りそうな曲に覚えがある。


題名はロバと茜の草原。






昔、旅をしているときにこの大男のような奴ばかりが住んでる地域があった。そこで知った曲だ。


こいつも大男だし、どうせ似たような曲が好きなんだろう。


大男が考えることなんて皆一緒さ。








ヒューヒューと楽器から流れる音色が風にのって辺りに広がっていく。


とても牧歌的な曲だ。この曲を教えてもらった地域の人たちは皆農業をしていた。


だからだろう、自然と目の前に草原の景色が思い浮かべることができる。




泥と汗にまみれた男たちが畑作業を終えて家族が待つ家の帰路につく途中、夕焼けがだだっ広い草原を赤く染めていく。


となりにはロバ連れられゆっくりと時間が流れる。




この曲を吹くとそんな情景が思い浮かぶ。




大男は俺の曲を聴きながら、なにか諦めたように首を振り御車台に乗り馬車を出発させる。


俺はまだ演奏が終わってないから、吹いたまま荷台の淵に腰かける。


そのまま馬車は街道を進んでいく。


男からは特になにも言われなかった。


だから俺も気にせず愉快な旅を続けることにした。




俺は曲の最後のコードを吹き終えて、だらっと背中を荷台の荷物に預けて楽な恰好になる。


愛用の剣は売ってしまったが、ハールは手元に残しておいて正解だったな。


もし売っていたら本当にあそこで置いてきぼりだったかもしれない。






演奏が終わると大男が飲むか?とこちらを見ずに酒瓶を渡してくれた。


俺はそれを無言で受け取りグイッとあおってみせた。


俺の舌に慣れ親しんだ安っぽい酒の味だ。でも悪くなかった。








「さっきの曲・・・お前は俺の故郷に行ったことがあるのか?」








「ああ、昔南部を旅してね。そのときにローグ族の奴らに会った。女は普通なのに男は皆大男ばかりでね。気が滅入っちゃったよ。がさつだし」








「ははは、確かに俺達は細かいことは嫌いだからな。なにかあればすぐに殴りあいだ」








「俺もいきなり一発殴られたよ。でもみんな気の良い奴だった」








「そうだろうとも!俺の故郷は最高さ・・・ところであの曲をなぜしってるんだ」








「・・・・・さあ、忘れちまったな」








俺はごまかすように酒をもう一回大きくあおる。


大男ははじめてこちらに振り返り、俺のそんな姿を見てハハハと大声で笑い、なにか懐かしむように遠くを見つめた。




あらためて、このローグ族の男の顔をよくみてみるが、凶悪としか言い様のない人相だった。


よくみるとからだのあちこちに刀傷がはしっている。


もしかして、笑いながらおれを殺したりしないよな?








「・・・・その曲はな、俺達の遠い先祖から伝わる曲でな、もし他の国でその曲を知っている奴がいて、そいつが困ってるようなら手助けしてやれって意味が込められてるんだ。だからあまり他人に教えることはないんだが・・相当気にいられたんだなお前さん」








「・・・・そうか」












正直なところ教えてもらってはないのだがな。


たまたまローグ族の集落についたら村の祭りをやっていて、俺はそこにこっそり忍び込んで酒を拝借していたんだ。そしたら見つかってしまい殴られて追い出されそうになったところで、酒の飲み比べを挑んだ。


勝ったら見逃してくれと・・・でもこっ酷く負けてしまった。


けど、それから何故か気にいられて三日三晩祭りに付き合わされた。毎日二日酔いで相当しんどかった。


しかも、飲んだ分働けと畑仕事もさせられた。


そのとき、仕事終わりの帰り道に口笛でこの曲をいつも吹いてる男がいて、勝手に覚えただけだ。


決して教えてもらった訳ではないが、言わぬが花だろう。








大男と話していると、先ほどまで夕暮れだったのにもう空は少しずつ暗くなり始めていた。








「他には何の曲がふけるんだ?」








「色々さ。いろんな所を旅したからな」








ならなにか適当に頼むと大男が言った。俺もハ―ルを取り出して適当に演奏することにした。


なにを吹こうか?・・・・ここはやはりドワーフの曲がいい。


俺はドワーフの曲が好きだ。暗いのが少なくて明るい曲ばかり。


聞いてるだけで楽しくなってくる。








それから俺は大男と夜空にうっすらとあがる星を楽しみながらハ―ルを吹き続けた。


吹いてく内に空は次第に暗くなり満天の星が広がっていく。




俺はドワーフの曲だけではなく、時にはエルフや人族の曲。色んな曲を奏でた。


夜空の下での小さな演奏会だ。






そして最後に俺はある曲を演奏する。


それは俺も題名を知らない曲。どこの国でも誰も知らない曲。


だけど、何故か耳に残っていて無性に吹きたくなる。


この曲を吹いていると胸がカラッポな気分になって虚しくなってしまう。




静かで綺麗な旋律。月明かりの下がとても似合う曲。


始めはゆっくり流れるが徐々に乱れて抑揚が強くなる。


まるで届かない何かを想う切ない愛おしさで、心がむせび泣いているように聞こえる。


この曲を聞いていると見たこともない景色がときおり浮かんでくるんだ。


そんな場所いったこともないのに、懐かしさがこみ上げてくる。


俺にとってこの曲はそんな曲だった。








「知らない曲だが、いい曲だな」








「ああ・・・俺もそうおもうよ」








アルコールのせいもあって俺はまた眠くなってきた。


ハ―ルから口を離し辺りを見回す。木々や草が揺れていて夜風があたりとても心地よい。


大男はどうやら日が落ちてもまだ進むようだ。


まだまだ起きているのだろう。






俺は寝っ転がって目をつむった。


大男はそんな俺を見ても、なにも言わずに街道を進んでくれた。






















「おい!おきろ!!寝てる場合じゃないぞ!!」






「んー偶然柔らかいパンがパン屋にあってたまたま手を伸ばした所においてあったんだ、だから偶然それを・・・」








「だからもうそれは偶然じゃねーって言ってんだろ!パン屋にパンがあるのは当たり前だ!それはもはやパン泥棒だぞって、そんなこといってる場合じゃねぇ、おきろ!」








俺はまた野太い声で起こされる。しかもまた足を引っ張られて荷台から引きずり落ちて後頭部を打ってしまった。










「痛ってぇー、もう少し静かに起こしてくれよ」








大男はおれを引きずってなにやら必死そうに、荷馬車の影に身をかがめて隠れた。


大男の額は冷汗でぐっしょり濡れていた。




この狂暴そうな大男がここまで怯えるなんて、よほどの非常事態なのかもしれない。










「どうしたんだ?」








「モンスターが現れやがった」








「モンスター?たしかにこのへんでは珍しいがそんなにあわてることじゃぁ・・」






普通は街道があるような場所にモンスターはあまり現れない。


街道は定期的に国の軍隊や雇われの冒険者が定期的に排除している。


それに奴等は自分の縄張りを持っていてそこから出ないのが普通だ。けどだからって街道や街のまわりには全くでないわけじゃない、ときどき迷って現れたり、自分より上位存在に縄張りをとられて逃げてきたモンスターなどがいる。




だが、ここら辺はそんなに強い奴も分布してないハズだ。








だからもしでたとしても、ここらへんは護衛を雇わなくても安全にすすめるほど弱いモンスターしかいない。問題はないだろう。


おれは大男を落ち着かせるように言い聞かせる。








「そんな慌てるなよどうせ雑魚モンスターだろ?どうにでもなるさ」










俺はまた眠ろうと荷台に上ろうとしたが、服を大男に掴まれてしまう。










「馬鹿野郎!だったらこんなに慌てるわけねーだろ!あれは古城の黒騎士だ!」








は?


なにいってんだ、そんなのがここにいるはずがない。


いちゃいけないんだ。








「・・・・なんでそんなのがここにいる」










俺も荷馬車から顔を出して覗いてみる。


すると100メートル程先に月明かりに照らされた漆黒の騎士が直立不動で立っていた。


真っ黒のフルプレートアーマーに湾曲した剣と大型の盾を持ち、鎧の所々には猛毒が塗られたトゲが生えている。


古城の黒騎士、全身鎧のモンスター。中身は空っぽで鎧そのものが意思を持ち動く。


遠目に見てもその禍々しさが見てとれる。










・・・なんでこんなのがここにいるんだ?


コイツは廃墟となった城などに生まれるモンスターだ。


ここら辺にそんな場所があるなんて聞いたことはない。


なにかから逃げてきたのか?


いや、コイツが怯えるほどの存在などそうそういない。


モンスターとしてはそこらの有象無象など相手にならないくらい強い種族だからだ。














どのモンスターがどのくらい強いかっていうのは、ハリーズブックという冒険者ギルドで売られている図鑑でわかる。そこにはモンスターなどの危険度が書かれていて、古城の黒騎士はモンスターの中では上位に位置するほどに危険なやつだ。


もしこいつがどこかとおくから逃げてきたとしたらもっと上位の存在がでた場合のみ。










しかしその可能性を考えると、いまの現状がより不可解なことになってくるな。










たしかに古城の黒騎士はモンスターでは上位の強さをもっているが、それはモンスターという枠に限って言えばのことだ。


いまは詳しく説明しないが、この世界にはドラゴン等を含む幻像種やモンスターを喰らう神獣種がいる。


こいつらはモンスターより強力なものばかりだ。


だかそこまで強力な個体がこの地域一帯で目撃されたことは一度もない。もしいたとしても、ソドムの黒騎士を上回る存在は化け物達ばかりだ。


そのような上位存在に狙われた時は死を意味する。逃げるなんてことは滅多にできない。


それが足の鈍いソドムの黒騎士ではなおさらだ。絶対に不可能だ。


だからこそコイツがこの街道にいるのは不自然だった。










突然変異?廃墟から自然発生するという昔からの法則がなんらかの理由でくずれ、この場で生まれた個体なのか。


それとも誰かが意図的にこいつをここにつれてきたのか?




どんな理由でもなぜそんなことになったのか検討もつかない。








大男は落ち着かない様子で汗をだらだらと流し、この場から動けないでいる。


大男の狂暴な顔面が青くなってるのを見ると笑いそうになる。


これがギャップってやつなのか。




しかし、怯えるのも当然な筈だ。俺達が立っている場所は完全に古城の黒騎士の縄張り圏内。普通なら既に問答無用で襲われている頃だ。




「おい、アイツはなんでなにもしてこねーんだ?」






大男が聞いてくるが、残念ながらおれも返す答えは持っていない。


こんな状況は聞いたこともない。




だがきっとなにか原因があるはずだ。


おかしな点がないか、よく観察してみるが、周囲には特に異常はない。




ではなぜ動かないんだ・・・もしかして、動かないんじゃなくて動けないのか?


そう考えれば、まるでなにかを待ってるように見えなくもない。


騎士らしく主君からの命令が下るのを待つ下僕のように・・・・・ん?


なんだあれは?








「あいつ、なんか変なのついてないか?頭に黒くてドロドロとした液体みたなのが」






そう言われて大男は少し身を乗り出して、確認する。


「んー、俺にはよく見えんがもともとそういうモンスターなんじゃないのか?」






「それはない、おれは何度か古城の黒騎士を見たことあるが一体もあんなのはついていなかった」








「・・・・・おまえ、よく生きてるな」








んー、気になるなあのドロドロ・・・・まあでもこのままこうしていてなにかわかるわけじゃないしな。














「まあ、襲ってこないだけありがたく思おうじゃないか。そんなに焦るなよ」






「お前はなんでそんな余裕なんだよ!普通だった死んでるところだぞ!」










たしかに危険だが様子をみるに今回は問題ないようだ。


刺激さえしなければ襲ってこないだろう。


関わらなければまた気楽な旅を再開できる。


そう思うとまた瞼が重くなってきた。こんなとこさっさと離れて寝たい。俺は寝不足なんだ。


だが大男は違うらしい。いまだ興奮冷めやらない気持ちで手を握りしめている。


いつでもローグ族ってやつらはドワーフと同じで暑苦しいのが特徴だな。


勘弁して欲しいよまったく。








「こりゃー何か良くないことでもおきてるのかもしれないな。せっかくここまで来たが、引き返して騎士団や冒険者ギルドに報告したほうがいいな。ん?この場合は追究者達の方がいいか?」






「ここまできてなにいってやがる、その必要はない。すこし戻れば旧街道がある。すこし遠まわりになるがそっちからいけばトルガの街につく」




俺はそういって立ちあがり、荷馬車に乗り込み寝転がる。




「・・・お前は本当に図太い奴だな」




「ありがとよ・・・・次起こす時はもうすこし丁寧に頼むよ」




大男はいま頃になって、気張ってた自分が馬鹿らしくなったのか、肩の力を抜いておとなしく荷馬車に乗った。


そして馬の手綱を握り、旧街道に向けて今きた道を引き返す。




馬車はまたトルガの街に向けて街道を進んでいく。


眠ってる俺を運んで・・・・


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