幕間劇 児童福祉大臣 泉田公望という男 その二

「さーって! 仕事終―わりーっと!」

 脅威の低沸点を誇り、ジャパニーズ瞬間湯沸かし器として恐れられている、児童福祉大臣泉田公望が珍しく上機嫌である。今日は金曜日。土日になにか楽しみな予定でもあるらしい。ウキウキ状態で帰宅しようとする彼に話しかけてくるものがあった。

「大臣。失礼致します。ちょっとご相談が」

「ナニコラ! タココラ! 帰ろうとしてる所だろうが! 泣かずぞこの野郎!」

 瞬間湯沸かし器の発動である。話しかけてきた役人はひいい! などと悲鳴をあげ、マッハのスピードで頭を下げる。

「まあ本来なら来週に回したいところだが。今週はせっかく久々の相撲だからな。気になって楽しめなかったらつまらん」

「ああ。それはよいですね。出場されるんですか?」

「そんなわけあるか! いいから早く要件を言え!」

 またまた音速でコウベを垂れてから要件を切り出した。

「あの。最近動画サイトで話題のブッコロセラピーについてですが」

「ああ。ブッコロセラピーね。アレがどうかしたのか?(なにそれ全く知らん)」

「アレに関しまして総理の方からですね『青少年に悪影響を及ぼす可能性があるので査察に行け』とのご達しが御座いまして。どうなさいますか?」

 泉田はチッ! と大きく舌打ちをした。

「行くと言っておけ。はあ。めんどくせえ」


 帰りの車の中。泉田は鞄からスマートホンを取り出した。

(たしか動画サイトで話題とかなんとか)

 ユーチューブにアクセスして『ブッコロセラピー』と検索、一番上に出てきた動画を再生してみる。

(ああ!? なんだこりゃ!?)

 泉田の目に飛び込んできたのは、メガネをかけた大人しそうな少女が人間を次々と惨殺する衝撃映像であった。

「いや、よく見たら人形か……。しかしこれはいくらなんでもアカンだろ……!」

 思わずつぶやく泉田。児童福祉大臣として至極まっとうなコメントである。しかし。

 そんな言葉よりも遥かに強く、彼の胸に去来した言葉があった。

(俺もこれやってみてえ……)

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