第90話 誰よりもヒトらしい

これまで存在感を消して、聞き手に徹していたジゼルさんが忌々しそうに舌打ちをする。



「冒険者を配置する必要があるな。現在の配置図を見たい。そして、ウォルト。索敵。行け」

「分かった」



ウォルトが開け放たれている窓からなんてことないように飛び降りていった。

なんて、ファンタジー…。

私もああいう渋くてカッコイイファンタジーになりたかった。



「殿下、国軍は?」

「急襲を受けた際にかなり数を減らしている。そのうち半数は国境へ、1/4は住民保護のために派遣している」

「ここに1/4しかいないのか」

「君たちが来ると思ってね」



みんながやいやい言っているのを他人事のように聞き流す。


まるで主人公、そして「逆ハー」に反応していた。

魔力の塊のコダマが私と同じ転生者である可能性が高そうだ。

なんで2人も転生しているのかはわからない。だが、もし、この世界に転生者を落とすやつらがいるとして、それが神でも悪魔でも。

主人公が正反対で、同じようなチートがないと面白くないと思っているとしたら?


私は十分に物理的にチートを貰っている。それならコダマは、私と対称的に魔法のチートがあると考えた方が自然だ。



「相性は最悪だな」

「カコ?」

「ううん、大丈夫、なんとかする。

ところで、ルイスはどうする?殿下たちの方に行く?パーティの戦力がはっきりしないとジゼルさんも私たちを配置しようがないでしょ?」



レオナルド殿下の言葉になにか納得したらしいルイスがこの後どうしたいのか希望を募る。


私としては魔物殲滅に一緒に来てもらった方が、私とイアンの生存率は格段に上がりそうとは思う。

だが、こちらに剣を向けられるぐらいならルイスは殿下たちのとこに置いていきたい。

レオナルド殿下が命じていた内容に沿った行動をして、ルイスがなにかをやらかしても流石に私たちが罰せられることはないだろう。



「殿下はカコの傍でも良いと仰った。スーラならきっとカコとともに王都を護ると言う。だから、私はカコと王都を護る」

「……スーラはルイスの心だったんだね」



故人でこの影響力、死んでしまったのが惜しくてならない。噂のスーラさえ生きていれば、スーラを護るの名目で容赦なく魔物を打ち倒してくれそうだったのに。

いや、故人の意志だけでも十分な戦力にはなりそう。


……待て待て、スーラも病弱だったとはいえルイスの妹、尋常じゃない戦力だっただろう。


結論、なんで死んじゃったのスーラちゃん。



「……こころ」



伏し目がちに胸元を抑えるルイスは中身がとんでもなくヤバいやつであることがわかっていても、破壊力が高い。

ちょっと大人になりきらない見た目がその庇護欲を掻き立てる。


……実際は、全く庇護が要らないけどね。



「決まったな?どこもかしこも戦力不足だ。加減なしで良い、ぶち壊してこい」



ルイスの決意表明を待っていたのだろうジゼルさんから、ウェルザンティの出撃箇所を地図で示された。



「イアン、ルイス行ける?」

「いつでも」

「姉さんの行くところなら」



道がわかるルイスがいるウェルザンティには道案内用の一般兵士もつかないから、速度の加減もいらない。ルイスを先頭にして、連続的に揺れ続ける王都を走り抜けた。

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