第88話 交渉
「あなたは?」
コダマがユーゴさんに問いかける。
声だけを聞くと普通に儚げな可憐な乙女だ。闇の魔力の塊と称されるコダマだが、私としては魔法が実体化する攻撃をするかどうかで、戦いの難易度が異なる。
前情報って大事だなと思いながら、コダマを掌握を使ってみるが「コダマ」としかでない。種族やレベルすら表示して貰えないから、街中で会ったらまさか魔族側だなんて思わないだろう。
「冒険者ランク3業火の番人ユーゴ、イーストシティのギルド事務員です」
「豪華の番人のユーゴ?ユーゴ・シュヴァルツヴァルトか?あの冒険者になると貴族位を捨てた宮廷魔法使いか、まあ、交渉相手には不足ないな」
ユーゴさんの名乗りを聞いたレオナルド殿下から反応があった。ユーゴさん、めっちゃ立派な名前ついてる。
思わず半眼でユーゴさんを見てしまうが、貴族だったことはユーゴさんにとっては、とても嫌なことだったに違いない。
うんざりといった様子でため息をついたユーゴさんがレオナルド殿下の前に立つ。
イアンはコダマの動向に注視をしていて、ジゼルさんは戦闘の指揮官として辺りの警戒をしている。
戦う相手がいないからか、ルイスは暇そうに床をつま先で叩いている。
「魔族側としてはね、貿易と移民の受け入れをしてくれればそれで良いのよ」
「和解するには、これまで与えられた損害賠償が必然になりますね」
この交渉に今後がかかってる。
他の人に邪魔はさせないと思って扉があったところを気にしていた。
「いいえ、これから与えられる損害を抑えるという条件でいかが?」
そう言うと微笑みとともに、コダマの姿が空気に溶けて消えた。
「は?」
「彼女に回答は私から伝えると既に打ち合わせてある」
消えたコダマに思わず声を出してしまった私に対して、打ち合わせ通りだと、レオナルド殿下が平然と言ってのける。
早くも状況を理解したらしいユーゴさんが深いため息をついて、骸骨杖に込めていた魔法を霧散させる。
きっと私たちにはユーゴさんと、レオナルド殿下からわかるように説明を貰えるだろう。
「どうせ近くにラディもいるのだろう?大広間まで行こうか、業火の番人。っと、ルイス。悪かったな…。色々とテミス家には汚名を被せてしまった」
玉座からあっさりとおりて行こうとしたレオナルド殿下の前に立ったのは抜き身のレイピアを手にしたルイスだった。
控えめに考えて、拙い状況だ。
ルイスは国を壊したい。おかしくなった国、最も重きを置いていた王が殺された国という認識だったはずだ。
王を害した張本人だろうレオナルド殿下がルイスの目の前にいる。
「なぜ王を?」
「国民を護るためだ」
「それは、国を守ると同じ?」
「あぁ。王は国民あってこそ、国民がいない国なんて、存在しない。王は国民を護るためにいる。
王は民を護るために、その身を差し出すこともある」
「そう……、国はおかしくない、か」
「これから国を護るために戦う必要がある。ルイス、私でもラディでも、そこの魔剣士でも良い。共に居てくれ」
ルイスとレオナルド殿下のやり取りを呼吸も忘れて見ていた。
これだけ距離が離れていたら、ルイスとレオナルド殿下の間に割ってはいるのはまず無理。ルイスが決めたら、私が止めるその前にレオナルド殿下が崩御される。
「交渉が決裂して、このまま戦闘がはじまれば王都が魔物に襲われる」
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