第87話 敵将

ジゼルさんたちを大広間に残して、ウェルザンディとユーゴさんは玉座の間に向かっていた。

イアンの索敵では魔族はいなかったが、イアンがメアリーの魅了を緩和できるようにイアンと似た気質の魔族がいれば索敵を惑わせたのかもしれない。

その可能性を考えて、ウェルザンディは玉座の間へつながる廊下を慎重に歩いていた。


ブーツの足先を取ってくるふかふかの絨毯がうざい。


ときおり物陰から突撃してくる魔物をルイスと私で塵にしながら先に進む。

食堂も、廊下も、大広間も、ついでに物置も開けてみて中を確認した。

いるのは弱い魔物ばかりで、知性のある魔族はいない。



「罠がありそうですね」

「ルイス、玉座の間ってなにか仕掛けある?」

「テミス家の出入りする別の出入り口なら。それ以外ない。私たちがいるから」



端的かつ化け物じみた回答をどうもありがとう。

パーティで唯一のヒューマンなのに一番人外だ。



「ただそうなると」

「玉座の間、ついたけど開けていいの?」



イアンとユーゴさんが話し合って出た結論に従う方が安全性が高い。

そう思って二人に指示を仰いだ。


ルイスが玉座の間の扉に触れて囁いた。



「カコ、人と魔族がいる」

「え?」

「レオナルド殿下とコダマ」

「やはり罠がありそうですが、行くしかありませんね」



どちらにしろ今回王城を攻めるにあたって彼らとは接触する予定だった。

罠であろうと会わなければいけない。


深呼吸をして玉座の間の扉に手をあてる。

これを1人でカラクリを使わずに開けられるのは私だけだから、私が開ける。



「いい?行くよ?」

「いつでも」



変わらず無表情のルイスが、レイピアを片手にしたまま入口と同じ返答をくれる。

イアンは魔法杖ロットに手をかざして淡い光をまとって、臨戦態勢だ。



「カコさん、私が結界を破ったらすぐにあけてください」

「了解」



結界破りのために青い謎の文字を空に描くユーゴさんに頷き返事をする。



「今です!」



魔法を感知しない私にも聞こえるガラスが割れたような音が聞こえたと同時にドアを蹴り飛ばした。

蝶番の部分が破損して扉が左右に倒れていく。


その扉をものともせずにルイスが玉座までの間合いをつめる。



「手荒い入場だな、どうやら親愛なる我が弟はいないようだ。ただ…君があいつを認めたか、ルイス」

「国を壊しにきた」

「そうか、テミスに見限られた王族は殺されるものだ。私もそれに従うみたいだな」



20歳は過ぎているだろうか、レオナルド殿下は微笑んで玉座に座っていた。

ただルイスとの会話は全く成立していない。


そのレオナルド殿下の傍に立っている少女、私と同じぐらいの年の子だ。

でもこの子が噂のコダマに違いない。



「そう簡単に死なれては困るんだけど」

「そうは言われてもね、コダマ」

「彼がテミス最強のルイス」

「ああ。そうだ、彼が味方した方が官軍になる」



もはや神に等しい扱いをされているルイスは残念ながらそこまで超人ではない。

それどころか最愛の妹スーラのために暴走してしまうほど、普通の気持ちを持っている。まあ暴走の仕方が凡人じゃないけど。

強いという点では同意する。



「あなたがコダマ?」

「そうよ、交渉をしようと思ってね。あなたは?」

「ウェルザンティのカコ」

「あなたが、噂の魔剣士ね。イケメン連れて、まるで主人公ね」



そう言われて思わずパーティを見てしまう。


イアンは言わずもがな、超美人。種族特性としてエサとなるヒトを魅了するための見た目とは言っていたがイケメンであることには間違いない。

ルイスも色々と破綻はしているものの、見た目でいえば100点満点中300点ぐらい取れそうな素敵な見た目をしている。それにザ!貴族の容姿だ。


思わず「確かに見た目は逆ハー」と呟くとコダマが驚いたように私を凝視していた。


私の目の前で黒いマントが翻る。



「彼女が主人公ならこの世界はとっくに平和です。さて交渉とは、話を聞きましょうか、コダマさん」



骸骨のついた魔法杖ロットを関節が白くなるほど力を入れて握っているユーゴさんが私の前に立った。

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