第83話 新ヴェルザンティ
「カコ、アレだ」
「うわ、廃墟ではなく、もはや跡地」
「そうだね。上にいた人間は捕縛、建物は焼き払った」
平然とそれに回答をくれるあたり、恐らくそのギルド総本部落としに関与していた、それどころか主格だったに違いないルイスは肝が据わっている。
そのギルド、会ったことも見たこともないけど、たぶん私たちの仲間だったんだけど。
間違いなくルイスはそこまで考えてないだろう。
ルイスに指さされたところは、元々王都にあったギルドの総本部があった場所、ロープに囲われた場所は上の部分は何も残っていない。
「ですが、見張りがいますね」
「問題ない」
成り行きで一緒に行くことになったが、ルイスの相性は私たちといいらしく特に今のところは問題ない。
イアンと触れそうになったところでも事故は起こらない。ルイスは常に魔力で障壁を作っている状態、障壁が凍り落ちるだけで、本人は無傷だ。
これまで前衛後衛1ずつだったよりも、前衛2後衛1の方が安定するのも間違いない。
「どうやって…って、おーい…」
私とイアンが相談しようとしていたら、ルイスがさっさと歩き出していた。
さすが、実力に覚えのある人はやることが違う。
「誰だっ、ま、まさか」
「ルイス・テミス、ここに用がある」
「テミス家のご子息様がこんな場所に」
「ジゼルさんも、ユーゴさんも、到着してるんだね」
見張りにいたのは制服だったからてっきり王国側かと思ったらジゼルさんとパーティを組んでた人だ。
ルイスが出たことで逆にややこしいことになってる。
慌ててルイスのあとを追うと、見張りをしていた制服姿の冒険者、いやジゼルさんの部下なら元軍人だし、本業?
よくわからないが、彼はほっとしたように私たちを見た。仮にルイスが敵でも私たちがいればと思ってるのが丸わかりだ。
「良かった。ご無事でしたか、だが」
「うーん、目的一緒だったから。ほら、うちのパーティ足りてないし…」
「そう、私にもやることがあるからね。それまで、共にいるよ」
私とイアンがルイスが味方であることを保証して、ギルドの入口、言うならマンホールの蓋みたいなものを開けて中に乗り込んだ。
ヒタヒタと落ちる水音が廃墟感を増長させる。
「おおっ!」
マンホールを降り切って歩いた先に、広い会議室のような空間があった。
そこにはジャックたちのパーティ、シモン、マリカ、そして安全な場所にいるはずの内勤、ユーゴさんまでいた。
「ユーゴさん、予定より遅れました。ヴェルザンティ、到着し」
「良かった」
冷静沈着なユーゴさんらしくなく私たちの姿を見て、何故か私の元に飛んできた。
ついでに子どもがぬいぐるみを抱きしめるように私をぎゅっと抱きしめてきている。
あーあ、見た目が子どもだからって…。
視界は遮られて、見えないし。
私は恥ずかしくないから良いけど、ユーゴさんからこのあとみんなに散々にからかわれるぞ、これ。
ユーゴさん、なんかいい匂いがする。
なんだっけ、カモミール?レモン?ポプリでも持ち歩いているのか、ユーゴさんのローブからはいい匂いがする。
「ユーゴさん、カコが困ってます」
「探知機が壊れたので、何かあったかと、つい」
少し恥ずかしそうに離れたユーゴさんの様子をよくよく見ておいてからかいたいところだが、それ以上に気になる単語があった。
「探知機?」
「ええ、お守りです」
「あぁ、あれ、探知機だったの」
髑髏マークの厨二病全開のアレ、探知機とは畏れ入る。
「なにかあったときに、どの方向からどのパーティーが適わなかった相手かを知るために全パーティにお渡ししています」
「なるほど。それで、私たちのが機能しなかったのはいつ頃からですか?」
「5日前」
「なるほど、薔薇の街あたりですね」
「あー、やっぱりあれメアリーの術中だったか」
「あれだけ強い魔力のところを素通りしたら魔法を動力にしている道具は壊れますね」
イアンとユーゴさんで答え合わせをしている。
「それで、お聞きしましょう」
深い重苦しいため息をついてユーゴさんがルイスに向き直った。
ようやくめんどくさい現実に向き直ってくれるらしい。
「ユーゴさん、ヴェルザンティの新しい仲間。名乗らなくてもわかるかもしれないけど、ルイス・テミス」
「よろしく」
意外にも最低限の常識があるらしいルイスが挨拶を入れてきた。
そういえばテミスは貴族だ。頭おかしいとこが気になり過ぎて忘れていたけど、貴族なら多少の挨拶は卒なくこなせるか。
ユーゴさんも眉間に指を当てて疲れた表情を見せたが、すぐに仕事に切り替えたらしい。
王都陥落させにいくのに最も恐れていた敵が、敵でいるよりも味方の方がいいよね。
「カコさんが誘ったんですか?」
「そう」
「冒険者登録しますか?」
「カコの仲間になるのが、それならする」
見覚えのある紙をすかさず差し出せるユーゴさんの有能加減にびっくりする。
なんでそんなものまで持ってきてるんだ。
ルイスが文字を書いていくが、たぶん達筆だ。古文書のような謎の続き文字とかいう繋がった平仮名が書かれている。
「カコさん、カードを出してください」
「え?私の?」
「カコさんのパーティでしょう?」
「なるほど」
そういえばイアンとパーティ組んだときもカードについている石で何かをしていた。
カードを大人しく差し出すと、ユーゴさんは淡々と手続きをしていく。
視界の端に笑い転げているジャックと、目を丸くしているシモンが見えた。
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