第82話 ちょっと!!
ルイスの腕の怪我は深かったらしく侍女に手当をしてもらっていた。
仕方なく招き入れられた屋敷は離宮とかと比べるのもおかしいが、離宮の華やかさに比べて装飾品が極端にない。
ルイスを待つ間に侍女のメラニーからテミス家のこれまでの経緯を聞かせてもらった。
メラニーはルネを抱き抱えて飛び出してきた侍女だ。
妙なことに縁がある。
「スーラ様が息を引き取られて、すぐでした。ルイス様が旦那様と奥様に斬りかかられて」
確かにテミス家には世代交代時に他の家族を抹殺する伝統があるとは聞いていたが、それを間近に聞くと引く。
それにルイスの場合、世代交代という伝統ではなく「可愛い妹がいないならテミス家要らない」の発想だからよりタチが悪い。
微妙な笑顔を浮かべた私たちが話を聞いているとわかるとメラニーは話を続けた。
「ルイス様は他のご兄妹に比べてお優しい方でした。今回も旦那様と奥様、そしてルネ様だけを狙っていらっしゃって」
いや、それもどうよ。
ツッコミ不在のメラニーの話は続く。
「奥様はルイス様と戦われてすぐに…。旦那様は先程までルイス様と戦っておられました」
「その旦那様は案の定レベルカンストしてたの?」
「はい。それでもルイス様に適いませんでした」
この世界地味にきつい世界だな。
レベル(努力)と才能(基礎能力)の間に深い溝があるらしい。
まあレベルカンストなんて人、テミス以外に見たことないけど。
「ルイスさまはお優しい方です。どうかあなた達と共に行き、この家以外の生き方を見つけさせてください」
「そう言われても、ルイス次第」
「わかっております。ルイス様をよろしくお願いいたします」
メラニーの話の途中から私の髪の毛を一生懸命引っ張っているルネを片手であやしていた。
イアンがなぜか羨ましそうだ。
「イアン」
「はい?」
「よしよし」
赤ん坊は触れないだろうけど、私がイアンに触れることはできる。
そう思って背伸びをして頭を撫でていたら、急に手を掴まれた。
「子ども扱いが不服だった?」
イアンは私の問いかけに応えることなくマスクを取って、私の頬に唇を寄せた。
え?はい?
瞳は閉じられて髪色と同じ黒いまつ毛が私に触れている。
美人にキスされてる。
いや弟だけど、待て、でもそれはそう言ってるだけで血の繋がりは全くない。
書類のつながりすらパーティメンバーってだけだ。
「ちょ」
「ええ、子ども扱いは不服です」
未だに疑問がぐるぐる頭を回っている私に対してイアンは楽しげだ。
うん、考えるだけ無駄か。
生きてる年数も文化も違う、本人から語られない限りわからない。
とりあえず私の頭の処理は、ありがとうございました、で終了しておこう。
色々戦いが終わってから考えよう。
どちらの意味でも、こういうときに邪念だったり、幸せオーラがあるのは死亡フラグだ。
「カコ、準備できた」
「よし、イアン、ルイス行こう」
本当に戦いに行く気があるのか謎なほど軽装のルイスは蒼を基調とした動きやすそうな格好だ。
腰にはレイピア、装飾品の類はピアス一つ。
「待て、カコ。剣、壊したから。イェルナ」
「はい、こちらに。ルイス様」
ルイスの指示で現れた老齢の女性が、赤の装飾が施されている業物の刀を持っていた。
「剣はない。刀でいい?」
「いや、そんな高そうなもの」
「いい。カコのおかげで気がつけたから。スーラならこうする」
「……わかった。色々終わったらきちんとお支払いするから」
「お金に困ってない」
まあそうだろうね!
それでもそういうことにしておかないと受け取れない。
それぐらいお金がかかっているのが明らかな武器だ。
手渡された刀を鞘から引き抜くと、刀身は光を纏って淡い輝きがある。
刀はどれも見るとぞわぞわする。
例えるならジェットコースターの乗り始めのような緊張感があるが、これはそれ以上だ、それに
「これさ」
「武器に使用者の魔力はいらない。テミス家は身の守りに魔力を使う、武器の魔力は周りから取り入れる」
まさかだった。
私の武器消耗率が高過ぎて、イアンもユーゴさんもその手のことは調べてくれていた。
その結果、一切情報がないと判明していた。だから諦めて使い捨てしていたのに、こんなところに実在していた。
まあ書物も詳しい人もいない理由がよくわかった。
王の守護家てあるテミス家が開発して、使ってきた技術を他の場所に漏洩させるはずがない。
「気に入った?」
「驚いてる。うん、ありがとう」
「使って、国を壊そう」
無表情が通常営業らしいルイスはとんでもないことを淡々と言う。
「今度こそ、行こう。みんなと合流しよう」
メラニー含むテミス家の使用人一同のお見送りをされながら出発した。
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