第75話 旅は道連れ
まさかの相手にもされないという事故があったが、グートは無視して王都を目指すことにした。
街の人も、「あー、あの巨人ね。悪い子じゃないんだけど、街に対してでかいんだよね」ぐらいの応対だったので、そのまま放置してきた。
教会の神父さんがしくしく泣いていたぐらいだ。歴史ある尖塔の先が遠くに飛んで行ったのはやはりショックだったらしい。
街の人が困ってないならわざわざ戦うのもめんどくさい。イアンとも同意できたので、そのまま次の目的地に行くことにした。
「まさかだったね」
「情報もありましたね」
ニヤニヤしながら私が指示をして、イアンに近付いてもらったり遠ざかってもらったりして、グートから情報を貰った。
魔族は酷いやつばっかりだ!の言葉と共に知りたかった情報を知れたが、私たちを無視するレベルの魔族が持っている情報はたかが知れていた。
王都のメアリーが行きつけにしているお店の名前がわかったぐらいだ。メーテルという甘いパンケーキ屋にハマっているらしい。他にも激辛鍋の辛い物王国というお店に出入りしているとか。かなりどうでもいい。
「街の人も親切だったよね。生活も困窮しているように思えないし、正直なとこ、冒険者ぐらいしか困ってないように思えるわ」
「冒険者と言っても荒くれ者も居ますからね。どっちでもいいというのが街の人の本音でしょう」
緩やかな属国化政策を取っているみたいだ。冒険者が常駐している街は魔物に攻められたりして被害が出ているが、ギルドがない街などは大した被害がない。
イーストシティに流れ込んできた難民の殆どは大型のギルド支店があった町から来ている、と情報で知っていても実情を見ると微妙な気分になる。
「あ、あの」
「ん?」
「最近、この近くを白いドラゴンが飛んで行ったんだ。それも2回。いつ街を襲いに来るか、不安でな…」
「白いドラゴン?」
「ああ。あんたたち軽装だし、教えておくぜ」
「ありがとうございます」
街を出る直前に、街を守る城壁の門兵からの情報だった。すこく頭に引っかかる情報だ。
「白いドラゴンの目撃情報ねえ」
最近、神々しいドラゴンが近くを飛んで行ったと教えてくれた。しかも2回。
私の想像が正しければ白銀のドラゴンなんて、一体しか知らない。そして気にもしてなかったが、今回は王子は待機していない。王都に向かうと聞いている。ルートは勿論知らない。
「イアン」
「姉さん」
「ほら、旅は道連れとか、言うよね…?」
「倒す選択肢はないんですね」
「グート、戦う気ゼロだよ?」
「それもそうですね。種族だけで言うなら人のこと言えないですし、仕方ありません」
私たちのコースの後ろをもう1つパーティが通過する可能性を考えて、戦う気ゼロのグートを放置していくわけに行かなくなった。
私たちと違って、後ろから来るパーティはいかにもヒューマン混成の冒険者らしい冒険者なのだ。いくらグートでも戦うだろう。ギルド長が強いと噂は聞くが、パーティレベルは微妙なところだ。
危険は排除するしかない。
ギルド長が「王都に向かう」とわざわざ教えてくれた意味もわかった。
「なんだよお」
「メアリーがお前も連れて来いって」
「えーー。山の方が好きだよお」
「……メアリーのお仕置き」
「行くよ、行くよおお」
私が適当なことを言ってグートを誘うとグートはまた嫌々をした。今度は城壁の上にあった装備が飛んで行った。
イアンが不気味に薄笑いを浮かべながら、グートの選択肢を消した。メアリーのお仕置きにグートも覚えあるらしく、嫌々ながらも立ち上がって、道中共にしてくれるみたいだった。
イアンもグートも嫌なお仕置きって一体何をしたんだ。気になるような知りたくないような。
「あ、グート。ご飯は?」
「勝手に取ってくるよお」
旅の道連れ、でかいだけで意外と普通かもしれない。
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