第74話 巨人

二人旅で最も怪しまれないもののひとつが夫婦らしい。行商人とかが現役だからね、まあそうなるでしょう。

でもどう見ても見た目がキッズな私たちにはそれは到底無理な話、そうなるとやはり兄妹が無難。いつも通り兄妹設定、見た目の問題からイアンが兄役で王都に向かうことにした。



「姉さんを姉さんと呼べなくなるなんて」

「見た目からしたら不自然だからね」



こんなのどかなところにそのうち住みたいと思いながら、飛びかかってきた魔物を蹴り飛ばす。

鳥、もちろん魔物だが、が囁いて、黄色の花が咲いている。もちろん花もところどころ魔物で、飛びかかってくる仕様だ。でも、のどか。


絵本で見た野いちごらしきものを見つけて、摘んだ。絵本では美味いと書いてあったし、王都に攻め込む冒険者という印象を与えないためにものんびり感を演出しよう。そう思って、野いちごを2つ掌に乗せて、イアンに見せようと思ったのだが。


轟音とともに目の前の道が弾け飛んだ。もちろん野いちごは地面に落ちた。

砂埃が収まると道の真ん中に岩が落ちていた。その岩を中心に地面にヒビが入っているから、今の轟音の原因は明快だ。


常に私の後ろにいるイアンは驚いているが、なんともない。もちろんたまたま野いちごに立ち止まった私もなんともない。そのまま歩いていたら絶対道の二の舞だった。



「あ?」



中間目的地にしていた街の手前に人が立っている。声もちょっと驚いてひとりでに発したぐらいの内容なのに、遠くまでよく聞こえる声量だ。

アレ、遠近法が仕事してないと思うぐらいに大きさがおかしい。私たちの道には大物はメアリーしかいないと聞いていたが、誤情報だったらしい。



「巨人ですかね」

「巨人だね。街が小さく見えるわ」



飛来してきた岩の上に乗ってみるが、岩に乗れるぐらいの大きさだ。座ってみてもまだまだ余裕がある。こんなものを投げてくる腕力の持ち主と戦うのは一筋縄ではいかない。

それに相手にも知性があるだろう。知性のある怪力なんて災害だ。そう思って、巨人を睨みつけた。


たぶん男の巨人だ、手足はゴリムキで、女性らしい特徴は見当たらない。彼は大きく口を開けて、欠伸をした。



「なんで冒険者っぽくやってくるんだよ。びっくりするじゃんか」



そういうと私たちには岩を投擲してきた巨人は街の傍にある原っぱに寝っ転がった。戦う気ゼロ、こっちがびっくりするわ。なんなんだこいつ。


岩の投擲のせいで、根っこごと転がっている野いちごの果実部分だけ摘んで今度こそ口に入れてみた。ザラザラした砂も一緒に食べたみたいで、口の中が大変なことになった。

現実逃避してみたいのは山々で試してみたが、より現実を突きつけられただけだった。深いため息をついて、警戒しながら巨人に近づいた。


魔族と会ったら戦闘になると思ってきたのに巨人は草原にのんびりと寝っ転がったままだ。私たちに見向きもしない。



「なんだよお。メアリー様の配下だろ?」

「名前は?」

「グート」



どうやら彼はメアリーの部下らしい。私とイアンを見てとりあえず攻撃したものの、メアリーの配下だと思って攻撃を辞めたみたいだ。

イアンをちらりと見るが、嫌な顔をしていた。まあこの勘違いは、イアンの容姿のせいか。



「メアリーは?」

「王都だよお。わざわざご飯の美味しくないところには行かないって言ってたよお」

「なるほど」

「もう、聞かれたら答えるから。それ以上近付くなよお」



グートは子どもが嫌々をするように手を振った。手がぶつかった街にある教会の塔の先端がどこかに飛んで行った。



「寒いんだよお」



その言葉に思わずイアンと顔を見合わせる。イアンがこれまで悩み続けていた個性が存分に役に立っている。イアンの特性がとても便利かもしれないことが判明した。

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