第73話 作戦
「王都に向かう」とイーストシティに向かう前にギルド長から伝えられた。私たちの立場的に「そうですか」としか応えられなかったが、ギルド長と特段仲がいいわけでないし、普通だろう。
離宮の戦い、私たち的にはジェルマとの戦いのあと、冒険者たちは好き好きに過ごしていた。何日か普通の任務を受けるものや、もしくは休養を取っていた。
私たちは後者だ。ユーゴさんに頼んで、イーストシティに戻っていた。
再度、またあの小さなギルドへの招集がかかり、しぶしぶながら、ふかふかのお布団から出てきたところだ。お布団に転がりながら、本を読んで貰っていた数日は楽しかった。
イアンにせめて読み書きを教えてもらおうと思って、本を読んでもらっていた。精霊についての絵本だ。
「どう行けばいい?」
「クレスニクはこのルート、ケルベロスはこのルート…」
ユーゴさんとジゼルさんが手分けをして各パーティに説明をしている。私たちは遅くなりそうだと思って大欠伸したところで、ユーゴさんがこっちを向いていたから気まずい。
「ごめんなさい」
「先に謝るということは自覚はあるんですね」
「申し訳ないです…」
緊張感が全くない、むしろこのあと家に帰ってまた本を読んでもらってお昼寝したいぐらいだということを伝えたら。この場の空気感からして、大変なことになりそう。神妙に頷き、居住まいを正した。
「カコさんとイアンさんはこのルートで行ってください」
「遠回り、してる?」
「はい、こちらにメアリーがいると情報があります」
「他のパーティに当てるわけいかないかあ」
王都に向かうのに複数のパーティを何個かに分けて向かうとは聞いていたが、他とは異なり私たちのところは私たちだけだ。
メアリーの攻撃特性から全く通用しない私たちを当てたらしい。私は魔力や魔法関連を一切感知しないため、メアリーの攻撃は効かない。イアンはメアリーと血縁関係にあるから効かない。良いんだか悪いんだか、よくわからない。
「順調にいけば5番目に到着する予定です」
「了解」
「気をつけてください」
いつになく真剣な顔で私たちを見るユーゴさんで少し怖い気分になった。
分断して王都に向かう作戦がたてられたということは、どこかのパーティが全滅する可能性を考慮している。これまでの任務も危険ではあったが、今後はそれ以上らしい。メアリーと同格の魔族も他にいると聞いているし、油断は禁物だ。
「メアリー以外に、指揮官のコダマ、竜人のグロディウス、巨人のファイアット、魔物遣いベイリー。名だたる魔族が王都に配置されています」
「それに加えてルイス・テミスがいますね」
「ええ、ヒューマンの単体では最も強いと思います」
むしろ王都の人たちはなんでこんなに魔族がいるのか疑問に思ったりしていないのだろうか。明らかにおかしい状況のはずなのに、それとも恐怖政治なんだろうか。疑問を持ってもどうにもできない状況とか。
「内乱だから、どっちも正しいんだよね。部分的には」
「カコさん」
「王都がそんなに魔族がいて、混乱がないということは誰も何も発言できない恐怖政治なのか。それとも、納得しているのかと考えたらね。庶民からしたらどっちでもいいのかもしれないなと思って」
「しかし、魔物に殺される人々を見殺しにしろと命じてくる今の王に従うわけにはいきません」
ユーゴさんの言葉に頷く。防衛戦のときのように魔物が街を襲うこともあるのに、禁止られてたら困る。それに冒険者の私たちが魔物を倒すの禁じられたら収入がなくなる。
机の上に何気なく置いていた手に小さな小袋が乗せられた。ユーゴさんのお得意のあの骸骨が笑っている厨二病全開な痛々しい空気のある袋だ。特製なのはよくわかるが、持ち歩きに困る品物だ。ちょっと笑顔が引き攣るが、有難くポケットに入れた。
「お守りです。困ったときに開けてください」
「了解。じゃ、ユーゴさん、一週間後ぐらいに会いましょう」
「ええ、お気をつけて」
「ユーゴさんも。あ、じゃあ、私からはこれで」
球の袋に入っていたものの投げにくい形状で使い勝手の悪い素材をユーゴさんに手渡した。明らかにユーゴさんの用意してました感のある品物には劣るが、ドラゴンの素材だ。きっと何か役に立つだろう。
「イアン、行こうか」
「ええ、仕方ありません。メアリーのいる街に行きましょう」
メアリーとは再戦になるのか、それともただのお茶会になるか怪しいが、王都に向けて私たちは出発することになった。
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