第70話 庭園
私のメテオストライクは当然のように避けられた。避けられた本体の球は離宮の屋根の一部を削り取った。
ジェルマに向かって、メテオストライクの直後に雷が飛来したが、見向きもしない。ジェルマもルイスと同じか。当然のように滑り落ちた雷は足元の芝生を焦がして消えた。
それにも関わらず私の魔法を含まないメテオストライクの破片で、頬に傷が入った。魔力を発しつづける魔法に対する絶対防御を聞いたときから私たちも考えていたことがあった。
「イアン」
「わかりました」
私の呼びかけに応えて、イアンが長い詠唱に入った。ジェルマは少しイアンを見たが、気にするそぶりはない。魔法使いの攻撃は当たらなくて当然と思っているのがわかる。迷惑だが、イアンを気にしないでいてくれるのはこちらとしても好都合だ。
「衝撃波!」
「足払い」
「ストーンアタック!」
衝撃波、単に思いっきり振った剣で埃とか石とか時にはドラゴンの素材を投げつけているだけだ、を使ってジェルマに攻撃するが大ぶりな攻撃は見きられて、足払いを掛けられた。名前に捻りがないが、威力は抜群。地面に転がった私は名前だけはカッコいいバカみたいな攻撃で難を逃れた。
頭突きにストーンアタックと勝手に名前を付けてみたが私の現在のスキルは蹴術、特に妙な技にはならなかった。残念だ。
剣を結び合わせて、技を使う暇もなく応戦する。明らかに私が劣勢だ。どんなに私の力が魔力分多くなっているとしてもレベルが40も違う。
だけど、ステータスをすべて物理に振っているのが本当なら、平均のヒューマンカンストよりも物理能力は高いかもしれない。そこに賭けるしか勝機がないから、信じるしかない。
「一の技」
テミス家が技を使ったところを見たことがないから油断していた。技名とともにレイピアが繰り出される。寸のところで回避すると、即座に2撃、3撃と攻撃が連続していた。ほとんど見えなかった。
でもそれが終わったあとがチャンス!と思って剣から刀に持ち換える。
「椿の一閃」
「おや」
ジェルマの左腕に真横に傷が入った。本当は首を狙っていたが、まあそんなにうまくいくとは思っていない。逆に、当たったことが意外だった。確かに、ルイスやライルと戦った時よりも断然に技は早いが、それにしてもレベル差を考慮したらあり得ない。
「あなたの攻撃、一切、魔力がありませんね。いえ、あなた自身魔力がありませんね」
「それがなに」
「ありえない」
形の良い眉をひそめてジェルマは言う。そんなセリフは言われ飽きている。無視して攻撃を繰り出すが、ジェルマは難なくそれをはじき返してくる。
「私たちは生命の源でもある魔力を失えば生物として生存できない、だからテミスは魔力を放出し続け、魔力の場所を探知しているというのに」
「ふーん?ルイスと違って、順応性がないね!」
「ルイスと比べるな」
平坦だった声音に怒りが上乗せされた。ジェルマはこれまで会った誰よりも人間的なテミスだ。
ルイスは、私の剣に魔力がないことを確かめるためにわざわざ自分の腕を傷付けさせた。そうして自分の勘を確認して帰っていった。それなのに、ジェルマはこれまでの常識を覆すそれを信じられない。
なにより兄弟と比べられて、怒った。わかり易い感情を見せてくれたのはジェルマが初めてだった。激昂したジェルマの攻撃はとても見えやすい。
早いだけ、力があるだけの攻撃で私より早く動けるなんて思わないでほしい。私は物理にすべてのステータスを振っている。イアンから合図が出たので、ジェルマから距離をとることにした。
「踵落とし!!」
古典的な攻撃でも、この世界にあるスキルという補正を使ったら凶暴な一撃だ。ジェルマを地面にたたきつけてから大きく後ろに下がった。
「メテオストライク《隕石》」
そろそろ折れそうだった片手剣をメテオストライクにした。爆心地であるジェルマから広がる塵を一気に覆う
「雷の精霊」
長らく唱え続けていた、唱えるいうよりも精霊に説明をしていたというのが正しいのだが、イアンの意図を正しく汲んだ雷の精霊によって無数の雷がドームの閉じる直前の口にめがけて飛来した。
メテオストライク《隕石》に匹敵する激震が再度地面を揺らした。
まさかこれを人間相手にやることになるとは思わなかった。標的が小さいのに周囲をまとめて焼き尽くすから何ともエコじゃない。
「姉さん」
「わかってる。
投槍で土の壁を崩してみた。見れば、ドームになっている土壁もイアンが土の精霊を説得したおかげで前の2倍ぐらいの厚さがある。テミス家の長男なら普通に壁を斬って出てくるかもしれないと危惧した結果だ。
ドラゴンですら燃やし尽くす攻撃だったにもかかわらず焦げて茶色の服、たぶんドラゴン素材だったのだと思う、のジェルマが倒れていた。少し離れた場所にレイピアが落ちている。
つまり、ジェルマには戦う意思、もしくは体力がない。そう判断して、刀の柄に手を当てながら近づいていくと、焦点がいまいち合わない目で私を見上げていた。
「そ、う。魔法使いに負けるか」
「うん、私は単なる時間稼ぎ、うちは魔法使いの方が強いの」
「わが家も、弟の方が強い。ずっと、みんなわかって」
「ジェルマ、誰よりも強いヒューマンだったよ」
「そう」
少し微笑んで、ジェルマは目を閉じた。
「イアン、まさかと思うんだけど、眠って起きたら体力回復して再戦しにやってきたりしない?」
「ええ、ステータスが見えなくなりました」
生き物でないものにステータスは表示されない。
ジェルマと遭遇してから聞こえなかった小鳥の声が遠くから聞こえ始めて、遠くからではなく割と近いところから「ふええええ」という赤子の鳴き声が聞こえてきた。後者に関しては凄く嫌な予感しかしない。
庭園の屋根付きベンチのところに小さな籠がじたばたともがいていた。覗き込めば赤子なのに明らかにテミスとわかる顔立ちだ。髪色も金、掌握を使えば赤子だからかすぐにステータスがわかった。
「名前 ルネ 種族 ヒューマン
Lv.1
HP:18 MP:15
力 :9 魔力:10
物理防御:11 魔法防御:12
すばやさ:16 幸運:9
スキル:レイピアlv1
個性:
称号: 」
「おいていくわけいかないよね?」
私の代わりにイアンが深いため息をついた。
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