第69話 離宮

今回も裏口からの突入を任された。イアンとともにこそこそと戦とはかけ離れているのどやかな風景の中を歩いて行く。もはやパーティなのではないかと思うぐらいいつも通り一緒にいるウォルトは私たちから少し距離をとっている。

「もらい事故はごめんだぜ」とテミスの急襲を受けないためらしい。あのおじさんは色々と清々しい。その割り切りがあるから冒険者としてソロでずっと活動できているのだろう。


水がさらさらと流れる不思議な噴水、派手で仰々しくなく流れるなんてすごい技術だ。近くには真っ白な石で作られた屋根付きのベンチ、下に生える草花はなぜか小さな白い花を満開にさせている。その庭の向こうには丸いドーム状の屋根を付けた重々しい出で立ちの神殿のような住居がある。

浮世離れした、これぞ離宮といった出で立ちの場所に私たちは来ていた。渋々ではあるが、任務なら仕方ない。


それに、離宮は歓迎してくれてるらしくわざわさお出迎えしてくれてる。


白い花が咲いている庭にある小道の真ん中に目を閉じた美青年が立っている。金色の髪をなびかせて、口元には薄ら笑い、彼自身の表情ではなく薄ら笑いで表情を固定しているとわかる。笑っているのに無表情だ。彼はルイスとライルと同じ次元の人間だ。小さな声で私のことを呼んでくれたイアンに頷き返す。



「ジェルマ?」

「呼び捨てとは頂けませんね。しかし、正しいです。私がテミス家長男、ジェルマです」



ジェルマの周りに他の人は見当たらない、やはり二手に分かれたか。ジャックたちがマールを倒せることを祈っている。ジェルマが年上らしいから、マールの方が弱いと思いたい。


「ジェルマ Lv.99 テミス家長男」


思わず二度見した。ヒューマンのレベルカンストしている人初めて見た。書籍でヒューマンの最大レベルは99と知っていたが、実際にそれを上げ切っている人がいるなんて。確かに、上げ切った人がいなければカンストの値が99だなんて、知る由もないんだけど、冗談きつい。イアンも目を見開いて驚いている。


ウォルトに至っては姿を消した、予定通りとはいえ、さすがだ。



「私がお相手しましょう。英雄候補殿。どうやらライルでは役不足だったみたいですね。私も彼ら同様に貴女を倒す任務を受けています」

「ルイスもライルも、兄から任務貰ってたみたいだけど?」

「ええ、兄弟の任務振り分けは私の仕事です」



つまり、テミス家の頭脳でもあり、最高戦力を自負しているということか。

そうでなければ頭脳が自ら戦線にでてきたりはしない。組織的に壊滅してしまうからだ。頭脳がない組織なんてただの烏合の衆、集まったところで大した強さではない。



「それでは、いきますよ」



ジェルマの姿がぶれた、と思ったら間近に迫っていた。早すぎる。目で追うのがギリギリぐらいだ。そう思ったのに私の剣は当然のようにジェルマのレイピアを弾いていた。

ステータスだけ見たらもっと早く動けるとジャックが前に言っていた気がする。もしかして、私はステータスを活かしきれていない?私が動けると思っている想定よりも、私は動けるのかもしれない。よく考えたら、物理の基本でならったはずだ。



「物体のエネルギーは物体の重さと速さで決定する。つまり、力×速さ」

「ええ、魔力を加味しなければそうですね」

「そして、エネルギーの放出先の面積大きさで、出力の密度が決まる」



今まで特にこの世界だから物理法則が捻じ曲げられているとか、私の知っている通りでないというのは私が起こす物理現象に関していえばなかったはずだ。

メテオストライクだって、ドラゴン素材玉を隕石をイメージして投げている。隕石は元々魔法を考えていない宇宙からの高速飛来物体だ。確かに速度が一定以上になれば空気との摩擦で熱を放出する。



「雷の精霊」



水の精霊の力が強い場所だから火の精霊は応えてくれないとイアンは言っていた。今日の援護はいつもと勝手が違う。


私が強くないといけない。



「ジェルマ、手加減はしないよ」

「ええ、どうぞ。私も手加減して頂けるとは思っていませんから」



ジェルマの微笑みは崩れないままだ。片手剣を握りなおして、反対の手で球を握って投げつけた。距離を取ってくれたジェルマに感謝するしかない。投てき速度も振り切りもこれまでの私のできると思っていた速度より数倍早かった。自分で人間ならこの程度しかできないに違いないと勝手に制限をかけていたらしい。


あの剛速球を投げれるのに、振り切りが通常速度しか無理だなんてことがあるはずがない。



「メテオストライク《隕石》」



ヒューマンの限界まで極めているジェルマと戦うにあたって、私は剣や槍よりも多用しているボール投げをすることした。

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