第68話 作戦始動

大騒ぎがあった割にギルドは普段通りだ。翌朝になってからロビーに降りていくといつものイーストシティよりも小さなギルドのロビーにいつものように人が群がっていた。ユーゴさんがランク3用の受付を開いている。ジャックも交えてクレスニクがそこに座っているから彼らも既に通常運転でいけるらしい。



「あんな騒ぎになったけど、たくましいね」

「冒険者同士の乱闘騒ぎはよくありますから」

「へえ、だから街の人も逃げずにやいやいヤジ飛ばしてきてたのか。ホント、巻き込むかと思ってひやひやしたのに」



私は覚悟していたのに宴会芸だと思って楽しんでいた人がいたなんて、どっちかが死ぬかもしれないと本気で思った。だから怖かったのに、他人事だと思って呑気な街だ。



「ユーゴさん、今日すっごく疲労感ある」

「そうだとは思ってましたが、すみませんが、行ってください」

「えぇえ」



ユーゴさんに休みが欲しいよ!と申告するが、彼は眉間に皺を寄せて大きく秘と書かれている作戦書を指さした。



「また!?」



作戦書に書いてある地名は、まあはじめからこの街についたら行く予定だった場所だ。


次の標的はモーリス離宮だ。前王妃、つまり殺された王様の奥さん、レオナルド殿下とラディウス殿下の母親がいるらしい。

でも、それ救出する必要ある?全くない気がするんだけど、ともちろん作戦作成段階で進言している。

だから場合によっては無視していく予定だったが、それができなくなったらしい。離宮は侍女とか、非戦闘員が多く、占拠した後の処置が大変なはずだ。無駄に気位と地位が高い捕虜は扱いがめんどくさい。



「偵察の結果、多くの兵士となによりテミスがいるのがわかりました」



またあいつらか。王族がいたらたいていがセットでいる。王族護衛の一族とは聞くけど、嫌になる。


聖女様の警護と暗殺を担当していたライルは、崩れ落ちた館からレイピアだけが見つかったと聞く。地獄の業火に巻かれて真っ黒に煤けたレイピアが形残っただけすごいとウォルトが言っていたから、持ち主はおそらく館と一緒に燃え尽きたのだろう。

そのレイピアは私たちが借りているユーゴさんの家に置いてあるらしい。私はまだ見ていない。その勇気がない。まだ幼い少年を死に追いやったことは間違いないのだが、その物的事実を見つめるだけの強さが私にはない。



「次は、誰?」

「長男ジェルマ、そして長女マール、四男ルネの3人がいると聞いています」

「ライルよりも年下がいるの?」

「まだ赤子と噂を聞きますので、恐らく戦闘にはならないと思います」

「そうはいっても、2人か。テミス家って、女性も強いパターンでしょ?」

「ええ、例外なく」



ジェルマとマールはルイスより年上、レベルもルイスより高いことが想定される。私もイアンもそろそろレベルが上がらなくなってきて、あれだけの防衛戦があってもレベルが2しか上がっていない。相手によってはかなりまずい。



「一人は俺たちが引き付けて、時間ぐらいは稼げるが、倒すとなるときついな」



ジャックがそういう。つまりはできるできないじゃなくて私が彼らを倒すしかない。ルイスだって全然勝てる気がしなかったのに、さらに強い可能性は高い。


それにしてもびっくりするぐらいジャックが通常運転だ。じっとりジャックを見ると、ちょっと申し訳なさそうに答えが返ってきた。



「悪いな、カコ。全然覚えてない」

「ひっど!ジャック!本気で殺し合うことなかったのに。ホント、どっちかが死ぬかと思って、はあ」

「悪かったよ!もう軽率な行動はしないって、ずいぶんメイにも怒られたしな」

「…うん」



いつもの引っ込み思案なメイに戻ってる。フランクさんの影に隠れた彼女は以前に見た大人しそうな魔法使いだ。昨日のアレは本性見たり!の気分だ。たぶんだけど、ジャックのことが大切なんだろう。じゃなかったら怒らない。



「詳細は前線指揮のジゼルさんに伝えてあります。この作戦は終わり次第、この町まで撤退してくることになっていますから、私はこちらで待機しています」

「「了解」」

「皆さんの無事を聞くために作戦を練っておきます」

「あ、うん」

「もしものときのために準備もしておきます。もしものときはイアンさん、あの伝達で聞くことはできますので。私から伝言はできませんが」

「わかりました」



そこは普通「無事をお祈りしています」なんだけど、いざとなったら前線に躍り出てきちゃう内勤さんはやっぱり発言が違う。今日これからの作戦のために、ボレアースも到着した。



「1時間半後にまたロビーに来てください」



ユーゴさんの言葉に頷いてから市場にでることにした。そういえば、昨日の騒ぎのおかげで片手剣が砕け散っている。テミスと戦うのに剣が刀だけなのは不安だ。



「イアン、私、鍛冶屋いかないと剣がない」

「おま、剣士が剣がないって」

「どっかの馬鹿力が私のもろい可哀そうな鍛冶屋見習いの剣をへし折ったんだよ」

「そりゃ、悪かったな」



この街にいつもの火山の懐はない。適当なお店で見繕ってもらうしかない。理由をきちんと説明できると思えないからまたひと悶着あるだろう。小さくため息をついて、イアンと一緒に武器屋がある通りへ向かった。

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