第67話 宴会の幕引き
遠くからジャックを攻撃して気絶させるのはまず無理だ。フランクさんと一緒に前衛を務めて、攻撃と防御の両方ができなかったら後衛に攻撃が全くできないオリバーさんが居られるはずがない。
クレスニクはよく考えたらすごい。どこのパーティでも全く攻撃できない要員というのは普通いない。回復兼魔法使いで、回復×水とか回復×土とかの魔法使いが一般的だ。
回復魔法使い《サポート特化》というのはクレスニクにしかいない。
それだけ前衛の能力が高いということを意味している。例えば私とイアンならドラゴンの攻撃やブレスは避ける。でも、オリバーさんをかばう彼らはそうはいかない。前衛が受け止めているはずだ。
「敵だと厄介だなあ。しかも、できるだけ傷付けないように気絶させるとか。難易度高い…」
「ジャックさんをですか?」
「そうなんですよ、メアリーの攻撃でジャックが錯乱してて、どうやって止めるか悩んでるところって、あれ?」
ふんふんと分析をしている人がいつの間にか後ろにいることに気が付いて振り返ると、前と同じように怒られた。
「戦ってる途中で後ろを向く人がどこにいるんですか!前を見なさい!ま・え!!」
「あ、はい」
スーツ姿なのにスイッチ入れられるんだ。と妙な感想を持ちながらジャックのいる方向に向き直る。そろそろ攻撃に移ってくる頃じゃないかと思う。
でもユーゴさんの手にいつもの
収まってきた塵の向こうにジャックが炎を纏ってたっている。怒ってるよ、あれ絶対怒ってる。炎が怒ってますって言ってる。空気を読む能力に長けてる日本人なのが辛い、言外の意図を拾ってしまう。
「全く、街の人がすごい本気の宴会芸だと喜んでいたのですが」
「宴会芸じゃないですよ。本気の殺し合い」
「そうみたいですね」
「お酒が入った町の人はたくましいです」
私とジャックのこれが宴会芸に見えた凄い人がいたらしい。勘弁してもらいたい。どこに宴会芸で窓を叩き割ったり、攻撃の衝撃で辺り一帯の家を破壊する奴がいるんだ。
「魔封じ」
ユーゴさんがそういうとジャックの足元に魔法陣が光る。その魔法陣がくるりと回って収まると夜闇に浮かんでいた炎が引いた。
あ、これで、物理VS物理になった。
ここからやれってことかなと思って片手剣を握り締め、斬りかかってきたジャックと剣を重ねる。大剣だから下から振るって来たり、レイピアのように突きがない。ちょっと癖のある剣術だ。これなら勝てる!と確信した直後、後ろから声が聞こえた。
「
ジャックの動きが鈍くなる。
今がチャンス!
大剣が地面を擦って、攻撃になっていない。思い切って宙に飛んで上から片手剣の柄の部分で頭を昏倒した。そのままばったり倒れたが、ジャックの場合、疑わしいからもう一度蹴って転がして表にするが、ぐうぐう寝ている。
「た、助かった」
「こういうときはオリバーさんが一番向いてると思いますよ」
「そうなのかも」
相手を殺す目的じゃないなら確かにオリバーさんの方が向いていたのかもしれない。メイが思いっきり魔法を打ち込んできそうだけど。
思わず地面にへたりこむ。
知り合いと戦うのはとても怖かった。ジャックは強いから手加減なんてできなかったし、ユーゴさんが来なかったら本当に殺し合いになってた。
「泣きたいときは泣いていいんですよ」
「今はほっとしただけ」
固く握りしめていた手をほどかれて、剣が地面に落ちた。乾いた音ともにへし折れるから片手剣には大分無理させていたみたいだ。よく打ち合ってる最中に折れなかった。鍛冶屋の見習いも腕を上げてきているに違いない。
ユーゴさんを見上げるとぽんぽんと私の頭に手を置いていた。
「よく頑張りましたね、少し休んだ方がいいと思います。あぁ、イアンさん、カコさんと少し休んでください」
「ユーゴさんは?」
「私はこれから、後片付けです」
華麗に窓枠を飛び越えて私たちのもとにやってきたイアンはジャックに見向きもせずに私の方に、クレスニクのメンバーはこちらを少しみてからジャックの方に向かっていった。
雲がない空からジャックめがけて、雷が飛来したからやっぱりメイはなにか怒ってるらしい。
「だ、だからあんなに地下牢覗きにいくの危険!って止めたのにっ…」
「メイ、落ち着いて。ジャックはきちんと反省すると思うから」
「あぁ、いまここで怒ってもやつには聞こえない」
「私もついていけば良かった」
「それは、大災害だ」
「ウェルザンティの火力とうちの火力勢が全力で町中で戦う羽目にならなくて良かったよ、前衛だけでこの災害ぶり。街がなくなってるとこだった」
なんでジャックが精神攪乱系の魔法にかかってたか理由が判明して、残念な気分だ。確かに、メアリーが綺麗だったのかとか聞かれて、超絶綺麗だったって答えたけど。
除くか?普通。
それにメアリーも綺麗だけど、イアンの方が綺麗だと私は思うけどな。あ、メアリー風に言うならミステリアス加減が違うのか。あんなにバタバタもがいてげたげた笑う美人、綺麗とは言えない。
「私はイアンの方が綺麗だと思ったけどな」
「む、向き不向きがありますから。その人の嗜好によると思います」
ちょっと顔を背けている様子から考えたらまた照れているのだろう。もっと褒められ慣れた方がいいと思う。ユーゴさんが差し出してくれた手を取って、立ち上がった。
「二人は休んでから仕事、お願いしますね」
「はーい」
仕事をしない選択肢は存在しないらしい。
用意されたギルドの二階、もちろんさっきの影響で窓ガラスはない、小さな部屋で休息をとることになった。
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