第66話 宴会芸

ギルドに着くとなんとなく予想はしていたが、敵味方入り乱れている状態だった。正確にはどっちも味方とかいうわけわからない乱闘騒ぎ、意識を狩りとるか、金縛りかけるのが早い。

こんな状態でもギルドメンバーをただの烏合の衆にせずにきちんと使えてるジゼルさんはさすがとしか言えない。


私たちの方に向かってきた、ケルベロスの隊員その3ぐらいの大男、顔面に蹴りをいれて頭上からゲンコツを振り落としたら沈黙した。

危ない危ない。今はスキルに蹴りしかなくても打撃の使い手という個性がある、そこらのスキルがない人には負けない。



「カコ!意識を落としたら正常に戻る!」

「…了解!」



群衆の向こう側から聞こえたジゼルさんの声に、もうやってました!とも言えずにいい子にお返事した。あなた部下を許可もなくぶちのめしてました、なんて言えるはずもない。

また一人近づいてきた男を今度はイアンが手をかざす。そのまま前にバタンと派手に倒れたがイアンはキャッチすることなく避けた。


私たちの場合、相手が男じゃなくて美少女でも避ける。相手の安全のためだ。



「金縛り便利だね」

「ですが、意識を落としているわけではないので」

「まかせなさい」



あ!いい名前思いついたけど、人間に試すのは危険な気がするからやめておこう。

えい、というのも危険がある気がして無言で腹に蹴りを叩き込んだ。金縛りのせいでうめき声すらあげさせられず彼は意識を落とした。なんか、ヤな予感がするんだけど、そのときギルドにいたのケルベロスだけじゃないよね?



「ふはははははっ」



炎が舐めた熱さを感じてゆっくり振り返ると、ジャックがすごく楽しそうに大剣を振り回している。周囲に群がって止めようとしていた冒険者たちが一気に弾き飛ばされた。


アレ、殺さないように止めるの無理じゃない?下手な魔物より強いんですけど。というか、あっさりメアリーに陥落されないでほしいかな。


いつの間にか私たちの後ろにいる他のクレスニクメンバーたち。オリバーさんは私たちが昏倒した彼らの看病をしていて、フランクさんは頭を抱えている。一方で、魔法使いのメイだけが闘志に燃えている。確か専門は雷だった気がする。



「日頃の恨みを撃つッ…」

「殺す気満々か!」



クレスニクの中で一体何があったのかは知らないけど、メイが殺す気満々で魔法杖ロットを握り締めている。というかギルドのホールで大剣振り回すから辺りが大変なことになってる、これ以上雷が落ちたりしたら大変なことになる。たぶん、復旧のためにユーゴさん的なポジションの部署が過労死するわ。


むしろユーゴさん送られてきそう。隈を濃くして仕事に臨む姿が容易に想像できて、ちょっとだけ合掌しておいた。そうではなくて、なんとかしなきゃいけない。

ああああ、他に方法が見つからない。とりあえずこいつを広い表に出そう。

中二病全開の羞恥にもだえ苦しむことができるセリフを吐いて、ジャックの気を私に向けることにした。



「いい機会じゃん、一騎打ちと臨もうか!」

「お!いいぜ!来いよ!」



実はこいつ、正気なんじゃない?


刀だと危ないので片手剣で臨む。こんなところでメテオストライクするわけにはいかない。余計仕事が増えるし、今日泊まるところがなくなっちゃう。一足で飛んで、頭上から剣を振り下ろす。難なく大剣で受け止めたジャックに、大剣越しに話しかける。



「こんな狭いとこでて、表でやろうよ。足りないでしょ?」

「よくわかってるじゃねぇか」



ジャックが大剣ごと私を振り払ってから、窓を叩き割った。うわあ、窓も高いんだよ。ジャックは躊躇なくそこから表に飛んでいった。私もそのあとに続かないと戻って来られても困る。


窓を壊したのはジャックだから支払いはジャック持ちだもんね!



「姉さん!」

「イアンはみんなの介抱手伝っておいて!アレ、止めるから」

「すみません」



金縛りかけるにはある程度近づかないといけないのはなんとなくこれまでの発動から見てわかった。あんな危険な男に怪我厳禁のイアンを近づけられない。イアンが頷いたのを見てから窓から外に飛んだ。


夜の闇に浮かび上がる美しい炎の文様が描かれた大剣、それを伝う炎がまだ祭り感が残っている広場で幻想的に彩る。ジャックの赤髪がそれに呼応するように風になびいていて、絵になりそうだ。私に絵心さえあればこの光景を切り取って描いて、人に売り歩けるのに。



「びびったか?」

「人生、いつもびびりまくりよっ!」

「来い!」



私の全く魔力のない片手剣と大剣がかち合い、炎が舞う。髪とお揃いの灼眼が面白いものを見つけたように細められる。



「はっ、魔力の恐ろしさ、教えてやるよ!」



咄嗟になんか来る、と思って大剣を蹴って宙返りで距離を取った。私がいたところを炎が覆う。

死んじゃうから、あれ、あたったら死ぬから。ジャック手加減ないとかきついって、しかも向こうの手持ちは全く知らない。たぶん炎を使う大剣なんだろうなぐらい。


続けてジャックが大剣を大きく振りかぶっているのをみて、周りを壊さない努力をあきらめた。無理、全力でいかないと死ぬから。



「炎帝剣、爆裂!」

「メテオストライク・ミニ《小さい隕石》」



町中とは思えない爆音が響いて、近くの窓ガラスが割れ散った音が聞こえた。威力は加減したけど、全力なら城門を木っ端みじんにする威力が出る攻撃を町中でやって周りの家が無傷なわけがなかった。

ジャックたちクレスニクだって街が無くなるレベルのドラゴンを討伐するドラゴンスレイヤーだ。そんなのが町中で戦闘とか正気の沙汰じゃない。


ごめんなさい。ホント、あとでジャックが払うから。


何度も投てきするのは気が引ける。だから続けて投槍を手にする。



光閃槍ライトニング



銀色の閃光が走ったように見える投槍の攻撃が炸裂するが妙な硬い音がしたことを考えると塵の中で、きっとジャックは無傷だ。やってられん。


深いため息をついた。

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