第65話 祭りのあと

「それにしても、驚いたよ」

「すみません。言う機会がなくて」

「あー、まあ、仕方ないけど…」



周りがうるさ過ぎて顔を近付けないと相手の声が聞こえないぐらいだ。一瞬街が落とされた!と思ったからこそ、この街の人ははっちゃけてる。裸踊りを披露してる冒険者もいて大変な騒ぎになっている。まあ、めんどくさいし、止めないけど。


それらを横目に、イアンと一緒に屋台で串を頬張る。


メアリーとイアンは見た目はそっくりなのに親子っぽくない親子だった、お友だちみたいな話し合いしてたし、やっぱりお国が違えば文化が違うみたいなものだろうか。イアンは母親のことをメアリーと呼び捨てだったし。



「あ、そういえばさ。イアンの見解でいいんだけど、私の魔法耐性ってどうなってるの?今回ので精神撹乱の魔法が効かないのはなんとなくわかったけどさ。この間の回復魔法も魔力じゃないの?」

「回復魔法は、そうですね、わかりやすく言うとすごく治りのいい薬を魔力を媒介にして纏わせてる感じです。

一説には神界の癒しの泉を召喚していると聞きます。だから魔力そのものを当てられてるわけではないです」

「ふーん、ああ、だから薄緑が見えたのか。炎とかと一緒なんだね。魔力を元にした物質だから私にも関与してくる。

でも魔力そのものを使うイアンの特性やメアリーの攻撃は効果がない」

「そうなりますね」



回復魔法が見えたのはちょっと私が成長してきて魔力見えたわけじゃなくて、魔力を媒介にした薬が見えてたに過ぎないってことか。残念過ぎる。


あれ?つまり、ヒューマンたちと回復方法が違うイアンは回復魔法使えなくない?



「もしかしてイアンには回復魔法が効かない?」

「ええ、薬の種類が違いますから」

「なるほどねえ」



何がなんでも攻撃を私が食い止めないと。


オリバーさんのような回復魔法や普通の薬で治せなくて、私がイアンに血を与えようとしたら私が錯乱してると判断されて、治療させてもらえなさそう。なによりそれはイアンの種族を暴露してるに等しい。つまり、イアンの防御は普通なのに回復できないということだ。


…うん、他の人がいるときには絶対怪我させられないわ。



「イアン、全力で守るから」

「ありがとうございます」



頬を赤く染めて照れるイアンは絶対に私と何かの認識が違う。先日イアンが読んでいた小説を貸してもらったら同じ次元にいけるかもしれない。

いやそんなので乙女になれるなら今とっくに厨二病になれてる。頭を振って別の話題を提供することにした。



「魔法難しいなー」

「仕方ないです。習得には時間と才能が必要ですから」



魔法の基礎知識がないから何が避けなきゃいけなくて、何が当たっても平気なのかの見極めがつかない。とりあえず目で見えるものは全部避けておこう。


見えないものは避けようがないけど、今のところは避ける必要も無いらしい。そのうちレベルが上がって魔力を会得したら必要になるかもしれないけど、その兆しは見えない。



「ふ…え?あちゃー」

「姉さん?」

「なんかさ、今、空を飛んでった」



ふうとため息をつきたかったのに、その間すら与えてもらえなかった。私たちの遥か彼方頭上を通過していった黒い人影、大きなコウモリのような翼を広げることができる人型なんて限られてる。


私の特殊な耐性とイアンの全力によって無効化してた魔力の伴わない誘惑でも、脱出には十分だったらしい。



「まさか」

「大丈夫、まだギルドから招集かかってない」



色の変わってないカードを振って、もう一本串にかじりついておいた。あんなに楽しそうにする人が決戦場になる王都で待ってないわけない。


それにしても脱出が素早い、さすがは幹部、下っクリスとは違う。すぐ会うんだろうなと思いながら、色の変わったカードを見て渋々立ち上がった。



「冒険者!!招集だ!ギルド集合かかってるよ!!」



半ばやけくそに、広場で踊りまくってる冒険者バカどもを怒鳴りつけた。

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