第63話 メアリー
イアンと確執ありまくりそうなメアリーを連れていくのは気が重いが、仕方ない。彼女は魔力を使った精神撹乱系の魔法が得意と聞いている。
とりあえずいつものようにお手製の手錠、それに加えて目隠しとユーゴさんから貰った魔封じのチョーカーを付けた。
色っぽい衣装を着ているメアリーが更に私の物理攻撃、イアンの
これならメアリーの誘惑を使わなくても冒険者ほいほいになりそうなぐらい、色っぽい。チョーカーがより見た目の背徳感を増強させるが、イアンは路肩のゴミを見るより冷たい顔でメアリーを見ている。
美人さんがその顔すると、それはそれで…となるほど私は肝が据わってないので、普通に怖いです
「ウォルト、ジゼルさんに事前の告知頼める?」
「任せろ」
風の魔法を使いこなすウォルトはすぐに姿を消した。最短距離で向かえるとか、ファンタジー。あんな髭面のおじさんですらファンタジーなんて、敗北感だ。
「イアン、大丈夫?」
「ええ、もう私は一人立ちしてます。かれこれ100年前には家を出てます」
「そんなに前なんだ…」
返答が的を射てない。かなり動揺してる、全然大丈夫じゃなさそうとわかった。
数少ない吸血鬼なら知り合いかと思ったが、家の話をするということは家族か。まさか過ぎる。
「うーん、話したくなったら教えてね。でもこの人は尋問かけるよ、きっと」
尋問どころか、クリスみたいにペラペラ喋ってくれなかったら拷問になるのは想像に容易い。ジゼルさんはそういうところは甘くない、クリスに対する扱いでもユーゴさんと揉めてたぐらいだ。
イアンは残り少ないだろうMPを使って追加でメアリーに金縛りをかけてくれた。それでもこいつは安心できないと威嚇している。
「あ、ジゼルさーん。敵のボス、落ちてた!」
「撃ち落としたの間違いな」
「普通に拾ってくるやつがあるか!」
ジゼルさんに報告をしながら近付いていくと、ニヤニヤ笑いが堪えきれていないウォルトが合いの手を入れてくれた。
どことなくユーゴさんと似た臭いのするジゼルさんも私のボケに対していいツッコミをする。私は好きでボケてないけど。ここまで来たら開き直るしかない。
「しっかり拘束してます!」
「この街のギルド、地下牢で持ちこたえるか?とりあえずそこだ」
クリスの地下牢よりも数段劣る地下牢に簀巻きにした状態で投げ込んだ。拘束に使っているのはほとんどドラゴンのパーツを使ったものだ。そう簡単には逃げられないだろう。
クレスニクも合流して、オリバーさんによる魔封じを地下牢全体にかけてもらった。オリバーさんは攻撃系の魔法を一切覚えてない代わりにサポート系を極めようと頑張ってるらしい。
ユーゴさん以外で結界や魔封じを扱える数少ない魔法使いでもある。ユーゴさんが扱う規模のものは難しいと言うが、小さくてもそういうのできたらかっこいい。
とりあえず魔力ください。
「悪いが、後始末がある。ウェルザンティはこのままこいつの監視を頼む」
「りょーかい、ここでご飯食べていい?」
「散らかさないようにな」
「分かりました」
なぜ忠告だけイアンの方を向くのか。ジゼルさんにちょっと納得できない気持ちもあったが、ジャックたちが差し入れしてくれた食べ物に気持ちが傾いている。早く食べたい。
ジャックのセレクトはいい感じだ。大ぶりの串に刺さった塩コショウの炙り肉はシンプルだからこその魅力がある。
メイさんからはアップルパイ、フランクさんからはお椀に入った温かい汁物、オリバーさんからは薬草がふんだんに入った煮物だ。バランスが取れていて、パーティの良さがわかる。
「いただきまーす!」
「姉さん、慌てなくてもご飯は逃げませんよ」
「イアンもきちんと食べよう」
「ええ、もちろん」
マスクを外したイアンは相変わらず絶世の美人、さっき運んできた美女とよく似ている。なんで私の周りばかり普通レベルが少ないのだろう。
イアンも、シモンもマリカも、敵であるメアリーも、私をお気に入りにしているルイスもみんな美人だ。いい加減にして欲しい。
顔面偏差値が上がりすぎだろう、髭面のウォルトを見てちょっと安心するぐらい末期だ、そわそわする。
「姉さん、メアリーが起きました」
「あ、お腹空いてるかな?」
「メアリーに気遣いは無用です。下手なことをすると危ないです」
「了解、イアンも気をつけて」
一応、刀の柄に手を当てながら、串の肉を頬張りきった。温かいうちに食べたい。ついでに温かいうちにフランクさんからの汁物も食べてしまいたい。汁物が冷めるのは悪夢だ。
微妙な葛藤をしている間に、檻の向こう側で簀巻きにされたメアリーが転がって、仰向けになった。
「この用意周到な感じ、ゾクゾクするわ。久しぶりね、エラルド。今はイアンなのね、名前を変えたってお母さん騙されないわよ」
イアンがマスクをしていても感じていた違和感。メアリーと顔も出で立ちもそっくりな理由が判明した。
整っている似通った顔立ち、同じ色合い、抜群のスタイル。吸血鬼という種族だから似てるのかと思ったら、衝撃的だ。
肉体美と魔力を使った誘惑で人を陥落していくのが自分の母親であれば、嫌になる理由もよくわかる。
憎悪が見えたからそれ以上になにかありそうだけど。
「メアリーさん、はじめまして。イアンとパーティを組んでるカコです」
どんなに仲が悪かろうと今は敵対してようと、そう言われたら挨拶せざるを得ない。イアンに姉と慕って貰ってるのに、母親を無視するのは変な気がする。
そもそもこの妖艶な美女がどんなに少なくとも100年以上生きてるイアンの母親だと言うのが…いや、イアンもかなり規格外だから、有り得そう。
とりあえず挨拶してみた。
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