第62話 コースラット防衛戦
到着して早々に魔物との戦闘だった。今回の中継地点としているコースラットは冒険者ギルドが在中するそこそこ規模の大きい街と聞いていたが、阿鼻叫喚の騒ぎだ。
「コースラットのメルヴィータが突破された!逃げろ!!」
よく歩けるとオリバーさんが感心するぐらい傷を負った冒険者が叫びながら歩いている。すぐさまオリバーさんの魔法が飛び、メイによる雷でその冒険者を追っていた魔物が黒焦げにされた。
自宅避難していた街の人が大騒ぎをはじめて、避難を開始しようとしている。戦う能力のない街の人が着の身着のまま出ていっても魔物が街を包囲しているから逃げられない。
「イアン、いける?」
「あまり大技はできませんが…」
「火の
「その程度はおつりがきますね」
「了解」
私は最初から空っぽだけど、魔力があってもMPには限りある。手元にあった魔力回復薬をイアンが飲み干す。魔力回復薬は、珍しいものらしいがイアンは常備している。
先発隊としてクレスニク、ケルベロスがまた一緒に来ている。ユーゴさんが療養中のため、今回の作戦の指揮官はジゼルさんだ。
ジゼルさんはオリバーさんが回復をかけた冒険者に駆け寄り、状況を聞いている。
「クレスニク、ウェルザンティ、行けるか?」
「はっ!もう駆け出したいぐらいだぜ」
「イアンがMP消費してるから長期戦でないならいきまーす」
それぞれのパーティのリーダーがそう答えるとジゼルさんは特注だと言っていたヒールの高いブーツの踵を鳴らした。
ケルベロスの隊員がいうには底にはドラゴンの鱗が貼られているらしい。ドラゴンのパーツをこっそり使うのが流行ってるのだろうか。
「クレスニク、表門。ウェルザンティ、それとウォルト。裏門へ。他はパーティバランスを見て配置する。それぞれの前衛後衛の役割を伝えに来い!」
今回の転移魔法陣で到着したのはせいぜい20人ぐらいだ。マリカと聖女様の魔力消費が激しいから続けての使用はしない予定。つまり20人で崩れた防衛戦を取り戻さないといけない。
ジゼルさんが指さした裏門の方向へイアンと走り出した。
街中に入り込み始めている魔物を文字通り蹴散らしながら門に向かっていく。怪我人を見かけても、回復魔法を使えない私たちにはなにも出来ない。
「無力さを感じるね」
「向き不向きです、門を取り返せばいいだけの話です」
「了解」
門は破壊されきっていなかった。堂々とした出で立ちとはいえないが、まだ形を保っている。これならなんとかなる。
私もイアンも魔法陣を使う魔法を使用できないから新たな結界ははれない。物理的に壊された門を直せても、破られた結界は直せない。
「風の精霊!」
飛び上がったらギリギリ行けるかも、と思って門に向かってジャンプしてみたらそれに合わせてイアンの風の魔法が後押ししてくれた。余裕を持って城壁の上に下り立つと、門の外は大賑わいだった。
見覚えのある魔物たちフラワーマッドやハッピーブーブー、ゴブリン、ぷるぷる(青)がわいわいしている。最悪だ。
「あんたたち、応援か?でももう」
「メテオストライク《隕石》」
イアンが
空を飛んでくるダークバードにはイアンが名前をつけ直してくれた
メテオストライクのダメなところは物理の攻撃だからこっちまで地面の揺れがやってくるところだと思う。足元が覚束無いが、この城門の外は至る場所に魔物魔物魔物魔物している。
どこにあたっても大丈夫。
状況は全然大丈夫じゃないけど。イアンのフォローが見込めないのにあの魔物たちに一人突っ込む無理はやりたくないし、そんなことしたら死んじゃいそう。
「あんたら」
「イーストシティから来たところ!
ほら!しっかり!今、この街が落とされるのはこの街の命運だけじゃない。国、それに自分らの未来も関わるんだよ!」
メテオストライクの文言で投げるには劣るが、他の生き残ってる冒険者に激を飛ばしながら鉄球を投げつけ、魔物を殲滅していく。
この街を拠点にこれから王都に向けて進んでいくのに、ここが落とされたらとても困る。ここからの作戦だって十分無理があった。これ以上無理な作戦をやらされたくない。
「おい!お前ら!こんな小さな女の子に戦わせて、自分らは逃げる気か?正気なのか?気合い入れろ!このお客様たちを倒してから休憩にきまってんだろ!」
座り込んでいた冒険者たちが立ち上がって、メルヴィータの仇!と叫んでいる。パーティメルヴィータがこの裏門の外で防衛戦に当たっていたらしい。
「あらあ?」
空を浮いてる変な女が見えたし、声が聞こえた気がしたが、気のせいだったかもしれない。
丁度ダークバードの軍団がやってきていたから
「姉さん、城門の補強終わりました。打って出ますか?」
「え?やっぱりここから出なきゃダメかな?」
「メテオストライクだけでここのボスを倒せるなら…」
「んー…それなら行くかな」
イアンの魔法で降りると聞いて、城門の真下にメテオストライクを撃ち込んだ。なるべく魔物が少ないところに降りたい。
「待て」
「どうしたの?ウォルト」
「さっき、敵のボスを撃破してたよな?」
「え?」
よく見たら魔物はそれぞれ回れ右している。お
「ジャックたちが倒したのかな?」
「いや、だから」
「姉さん、もしかしてメアリーがいませんでしたか?」
「空中に浮く絶世の美女、一瞬で撃ち落とされてたな」
「え?あれ?気のせいじゃないの?」
わざわざ撃ったあとの攻撃の前に現れた女の人、確かに綺麗な女性だったような気がしなくもないが、一瞬過ぎて姿なんてよくわからなかった。
「ついでに言うと、追撃してたぞ」
ウォルトとがニヤニヤ笑いながら城門の真下を指さした。上から見下ろしてみると気のせいじゃなければ、門の真ん前に伸びてる人影がある。
今日、出てくる前に余計なものを拾ってこないでと念押しされたのに早速拾わなきゃいけないらしい。どうしようかと聞こうと思って、イアンを見やると、びっくりするぐらい大きな火の玉を作っていた。
「なにしてるの!?」
「火の
伸びている人影に向かって迷いなく飛んでいく火の玉を無理して止める理由も見当たらずそのまま見送った。
イアンがこれまで見たことない明確な殺意を持っていた。どうやら知り合いは知り合いでも、会いたくない類の知り合いらしい。
「さすが魔王の幹部だけあって頑丈だな。まだ生きてるぞ、拾いに行くか?」
ウォルトの言葉にため息で首肯した。イアンも既に魔力切れしてるし、情報を持ってそうな敵をわざわざなにも聞かずに殺す必要は無い、と私は思う。
あれはジゼルさんに渡そう。
勝手にそう決めた。
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