第61話 信仰心

神様仏様、なんとか様。


正直なところそういう系はどうでもいいと考えてきているから、目の前のことが魔法ってすごいなぐらいにしか思えない。「魔法と神法は異なりますよ」とイアンに言われたところで、どっちも適性がないらしい私にはどっちもどっちだ。



「神よ」



と祈りを捧げる聖女様を中心に白い光が舞って、聖女様の加護を受けた剣や防具がその光を纏う。聖女様の祈りの口上が終わればその光が装備に吸い込まれて消えた。邪悪な力を祓ってくれるらしいが、邪悪な力が何かよくわかってない。


次の場所に向けていく冒険者たちの出発を聞いて、聖女様が加護を授けてくれた。


魔法も神法もどっちも使えないから、どっちがどっちでもいいやと適当なことを言い始めた私に白い目を向ける人はいても文句を言ってくる人はいない。どっちも使える聖女様は珍しいが、逆にどっちも使えない哀れな私はもっと珍しいらしい。


神法を使えない原因はかけらも神様を信じていないことのような気がする。でも神様(OLさん)がいること自体は知っている。

存在は信じているのに使えない。たぶん、存在認識と信仰はまた別なんだろう。



「カコさんは加護があるわけではないのですね」

「加護?」

「カコさんの力は武神や戦神の加護かと思っていたのですが」

「へぇ、神様ってたくさんいるんですね」



なんだ、多神教だったのか。あのOLさんは神様の1人なのか、別にもいるのね。とちょっと安心していたら深いため息をついているユーゴさんが視界の端に見えた。


私に話しかけてきているのは聖女様だ。


先日、イアンに興味を持っていたのは私の気のせいではないらしくて、事あるごとに私とイアンに話しかけてくる。

別に気を遣わずにイアンに話しかけてくれていいのにとも思うが、私の後ろに隠れているイアンを見ればそうもいかないのだと納得する。


イアンに触れようとしていた聖女様に思わず「触るな!」と怒鳴ってしまってから教会の関係者からの視線も冷たい。

だって聖女様が魔力0なわけないから、凍っちゃったら困る。


それ以降はイアンも気をつけているし、聖女様には理由をきちんと伝えたが、聖女様にその程度の試練は生易しかったらしい。

せっせとイアンにアピールをしている。そしてイアンはどんどん聖女様に苦手意識を持っている。


うっかり他人を害する可能性のある自分を重要人物に近づけたくないというイアンの気持ちはすごくよくわかる。

危ないと解って触ろうとしてくる王族の人をどう対処するのが正解か、教えてほしいぐらいだ。



「こうしてまたお話できる日を楽しみにしておりますわ。ここで、みなさまのご武運をお祈りしております」



真っ白な法衣に見に包まれた聖女様は見るだけで清らかな気分になれると言っている冒険者がいたが、そんなので清らかになれるなら君は冒険者続けてない。


聖女様に見送られて、教会の奥に設置されている転移魔法陣に向かった。この魔法陣もいろんな制約があってどこでもいけるわけじゃないらしい。


大地には魔法の流れがあって、転移魔法陣を使ってもその流れの中を行き来することしかできない。流れが通っていない場所にはいけないし、流れは円を描いているからその円の中しか動けない。

別の円に入るにはがいるらしい。私でも環状線の電車だと思えば理解できる。


ついでに王都はその流れを断絶しているから直接乗り込めないという周到加減だ。まあ国の防衛を考えたら当然だ。


だから魔力をほとんど感知できない私がどうやって魔力の流れの行き来に乗っているのかは謎だ。転移魔法陣を使うたびに私の手を握って何かを囁いているイアンがなにかしてるんだと思う。



「カコさん」

「また想定外の戦闘があったら報酬上乗せでよろしくお願いしますね」



今回は見送りのためにユーゴさんが来ていた。そのため厨二病服ではなくて、いつもの事務仕事できているスーツだ。



「こちらの業務が終わり次第、合流しますので安心してください。いいですか、変なものを拾ってこないでくださいね」

「え、いや、好きで拾ってきてるわけじゃ」

「わかってます、でも最近よく拾ってきてるので」

「否定できない…」



ギルドの客人用の部屋がいっぱいです、と言われても不可抗力だ。投降してきた魔族を倒せるかと聞かれたら多分無理だし、捕虜として連れて帰ってくるだろう。



「多少の問題事は覚悟して待ってますので、気をつけてください」

「ユーゴさんも、無理しないで回復させてね」

「姉さん、行きますよ」



距離が遠いからと、私と手を繋ぐどころか後ろから抱きしめてくるイアンは何かを囁いている。私が聞き取れないということは精霊と話してるんだろう、たぶん。


事情を知らない人から見たら、姉弟の過剰なスキンシップ、半眼で見られている。

私だって弟にこんなに抱きしめられて恥ずかしい、それに弟は血の繋がった弟じゃないし、とっても美形だ。なにか間違えそうな気分になる。

なにか言いたいけど喋ったら私のために努力しているイアンの邪魔になる。


特に言い訳もなにも言えず、今回もご一緒することになったウォルトの髭面を眺めることにした。



「起動、転移魔法」



聖女様とマリカ、ユーゴさんの声が重なって聞こえた。


ウォルトの背後に見えていた女性の描かれた美しいステンドグラスがぼやけて消え、元の絵柄がわからないほどに無残に割れたステンドグラスに変わった。

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