第56話 爆破してみた
ルイスと同じレイピアは無駄なく磨きあげられて、気を抜いたらこちらの剣が折られるどころか首を取られるのは確実だった。
「椿の一閃」
スキルを使ってみるが軽やかに避けられ、当然のように当たらない。蹴りにも名前つけておけばよかった。今から考えたら考えてる間に大変なことになりそうだ。
それでも蹴りの後に翻す私のスカートの裾で手を切ったライルは私のスカートの裾が鋭利だと気付いたらしい。痛みに顔を歪めることすらなくレイピアを振るってきた。
扉の方からバタバタ音が聞こえてくるからきっと脱出が始まっているのだろうけど、ライルから目を離せず確認はできない。
「させるか!衝撃波」
刀でやれるのかは賭けではあったが、問題なく空気を伝って届いた刃がライルの足を止めた。よそ見してくれたおかげで左腕に大きな傷をつけたが、意に関する様子さえない。
それに続いて蹴りを入れて反対の廊下に蹴りだしたが、受け身を取りながら転がっていて、大したダメージにはなってなさそう。
火の玉と火矢が飛来してライルの周りに付きまとうが、メイのサンダーと同じように魔法が避けて床に落ちた。
高いのだろう絨毯が焦げるが、どうせすぐ全焼するのだろうから関係ない。
「魔力使わないの上手、いや魔力を通さない剣。でもスキルも魔力感じない」
「みんなして魔力魔力魔力ってうるさいっ!」
「極端」
なんで敵のライルにまで呆れられなきゃいけないのか。一体なんなんだ、理不尽過ぎる。私にどうにも出来ないことでやいやい文句ばっかりいって、ブラック企業と変わらないじゃない。パワハラ反対!
「姉さん、そろそろ私たちも撤退です」
「了解」
火の
背中を向けて走るために、鉄球や投槍で距離を取りたいがライルがそんなことを許してくれるわけもなく、剣を合わせた一定の間合いで向き合ったままだ。
ん?待てよ、誰も投げるのは槍と鉄球だけと決めてはない。
「イアン、先に走って距離を取っておいて」
「姉さんっ」
「すぐ行くから、そこの角まで行っておいて」
「わかりました」
イアンには全く興味が無いらしいライルはそれを見ることなくレイピアで攻撃を繰り出しながら私を見つめている。美形にこんなに熱烈に見つめられて、辛すぎるわ。
「この作戦ね、最後にこの舘を爆破して崩してしまおう作戦なんだよね」
「なるほど」
「そろそろ撤退しないと危ないよ?」
「それで命令達成できるなら問題ありません」
有りまくりだろと喉元まででかかったが、ライルは本気でそう思ってるらしく目に嘘はない。こんな子を斬り殺すのは私には難し過ぎる。
「衝撃波!」
鍔迫り合いの最中に衝撃波を放ち、ライルと距離を取った。そのまま刀を投擲に構えて
「メテオストライク《隕石》」
爆煙と塵で見えないが、たぶんライルは倒せてない。レベル53もある術持ちがこんなのでやられるわけがない。
イアンの待つ角まで走ると、後ろに向かって更に鉄球でメテオストライクを撃つ。遠くから響いてきていた舘崩落の音も近くなってきて、出口まで間に合わない気がするがイアンと走る。
後から追ってくる気配はない、それでも不安だからとりあえずメテオストライクを追加で定期で撃ち続ける。館の崩落よりもライルが怖い。
「姉さん、あの窓から飛びます!」
「了解、窓吹き飛ばすよ」
廊下の窓を蹴り破るとちょうど目の前に木がある。崩落する音も真後ろまで迫っていて、躊躇している間もない。イアンのあとに続いて、思い切って2階の窓から飛んだ。
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