第54話 2回目の火蓋

今回の作戦の要はクレスニクとヴェンザンティ、そしてジゼルさん率いるケルベロスだ。回復が見当たらない、見た感じたぶん全員が前衛の4人パーティだ。元々軍人ならそういうこともあるだろう。



「作戦開始前にそれぞれの能力を把握したい」



ジゼルさんの言葉にちょっと困った。

冒険者は基本的に相手に踏み込むのはご法度だ。特にスキルを知りたいは「あなたの商売道具の秘密を教えて」に近いので倦厭される。


クレスニクのメンバーはみんなジャックを見て、指示待ちだ。ジャックは軽そうな話し方をするが、仲間からの信頼は絶大だ。

私たちも、私はともかくイアンのステータスを開示するわけにはいかない。



「レベルと得意な武器ぐらいまででいい?スキルとか開示しちゃうと今後の冒険者生活が困っちゃう。私はレベル55の物理中心の前衛火力。イアンはレベル48の魔法中心の後衛火力。私が他の人と組めないからパーティはイアンだけ、他の人連れて行くのは厳しい」



ケルベロスのメンバーを見る限りレベルが25前後だ。正直、その人が前衛でついてこられてしまうと走る速度からまず違う。

加えて後衛になってもらってもイアンと接触したら氷漬けにしてしまう。それもそれで困る。


結果として「私のやり方について来れるのはイアンだけだから他の人はついて来させないでね」になってしまった。パーティメンバーが埋まる日は遠い。



「俺は物理…まあカコほどじゃないが前衛火力、フランクは盾、オリバーは回復、メイは魔法の後衛火力だ。俺たちはレベルも非開示で頼むが、あと少しでランクが上がるぐらいだ」



ランク4はパーティ平均が60を越えないと承認されない。今のサン王国で承認されているパーティはほとんどいない。昔、ギルド長がパーティ組んで冒険者やってたときのランクが4だったらしい。

ランク5は重役についている人たちのランクで、実質の強さではないと最近知った。


私たちがランク4になるまではしばらく時間がかかる見込みだ。なんせ私もイアンもヒューマンでないからレベル上げに時間がかかる。



「なるほど、それで突破はヴェンザンティに任せろなのか。なるほどね」



ユーゴさんからも、火力しかいない私たちは守るパーティメンバーがいないから突出させての敵陣突破に向いていると言われた。

回復がいない故に持久力はないから突破したらすぐ下げてもらいたいが、確かに火力×火力は突破力ならありそう。



「それと悔しいが、ライルと戦えるのはカコだけだな。ウォルトから聞いた情報が正しいとすれば、俺たちのレベルでは歯が立たない。カコの能力に頼るしかない」

「レベルは同じぐらいではないのか?」

「能力はレベルだけじゃない」



私が魔力ないよ!と言わなかったからジャックは気をつかってくれたみたいだ。無為にするのも酷いからジゼルさんの視線を笑って誤魔化した。


目覚めろ、子どもの笑顔!!


胡散臭いものを見るような目だったが、他に対策がないのもあってジゼルさんは納得したみたいだった。



「この間会ったテミス家のルイスはレベル73でした、弟であるライルであればそれより高いことはないと思いたいですが油断は禁物です」



イアンが私たちの持っているテミス家の情報を開示したところで、合図の打ち明け花火が上がった。空に花開く青い光はユーゴさんが打ち上げた魔法だ。


クレスニクのメンバー、ケルベロスのメンバー、イアンと目配せして、私たちが忍び込む裏口に近づいていった。

入口には2名、魔法を使うと気が付かれる可能性が高いということで私とジャックで無力化することになってる。ジャックは意識して魔力を通さず武器を使うらしいが、難しいとボヤいている。



「ジャック、いける?」

「大丈夫だ」

「合わせてね」

「…人間の速度で頼むぜ」



どうでもいい言い争いをしながらも表門が派手にやっているために気が付かれない。パーティを組んだことあるのはみんな魔法火力だけ、物理同士で合わせる技術がない。


刀を手にして見張りの男たちに近づいて行く。この間使った技の名前はなんだったか…



「椿落とし」



そう言いながら気付かれることもなく目標の首を落としたが、なんだか響きがしっくりこない。それにヒューマンを倒しても意外と何とも思わないことに驚いた。

刀には血が少しも付かず刀は申し分なく振れている。ジャックもほぼ同時に大剣を振り下ろして、もう一人を潰していた。


まあ多少名前が異なっても一応スキルになってるし、いいや。



「姉さん、椿の一閃ですよ」

「あぁ、なんか違和感あった」

「おま、スキルすら魔力込めずに使えるのかよ。反則だな」



半眼で私を見ているジャックは無視して入口を偵察するが、特に誰も見当たらない。ここから最短距離で聖女を目指す。

みんなから愛されて大切にされる少女、戦の先頭切ってる私とは真反対に位置する人だ。



「道、覚えてるか?」

「もちろん、行こう」



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